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・異人の撮るトイレ掃除夫朝ざくら



映画評『パーフェクトデイズ』
2023年、日本、ヴィム・ヴェンダース監督
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️(⭐️5つで満点)

公衆トイレはなるべく使わないようにしている。
なので、本作のシーンを想像すると、足を運びたくなかった。

丁度時間が合ったので、急遽観ることにした。覚悟を決めて臨んだ映画『パーフェクトデイズ』。

全く予備知識なし。
有名建築家らが設計した、渋谷区のプロジェクトによる、おしゃれトイレ群が舞台とか。

なるほど、昭和レトロが溢れる主人公のトイレ掃除夫の周辺には、スカイツリーやモダントイレが現代的な存在感を放っている。

彼が毎日仰ぎ見るツリーは、彼の守護神かも?
職場であるプロジェクトトイレは、気持ちいいスポットだ。
気分が悪くなるようなトイレシーンは全くない。

主人公は丸ごと昭和だ。
趣味の60年代〜70年代ポップスを聴くため、
カセットを利用。
テレビなし。フィルムカメラ、銭湯、古本屋、居酒屋、スナック…。

彼は無口で、毎日判で押したような生活をしている。
仕事ぶりは丁寧で、アフターは必ず銭湯やカメラ店、居酒屋に寄り…。

はみ出すような事件は、なかなか起こらない。

彼が毎日撮ってカメラ店に出す、木漏れ日の写真は、流石に陰影の微妙な違いを差し出す。

何も変わらないように見えて、実は自然も物も人も、少しずつ変化しているのだ。
つまり、木漏れ日は、全く同じ状況や関係はない、「瞬間を生きる」というメタファーである。

変化といえば、彼のルーティンワークが、少しでも乱れると、私たちはオタオタする。

本作品内の変化は唐突で不自然だ。
例えば、長年交流のなかった妹の娘が、ある夜
突然訪ねてくる。

翌朝、彼女は彼の職場について来て、作業を手伝う。
おしゃれトイレとはいえ、こんなのあり?

妹が迎えに来て、初めて姪だと分かった。
おじさん、と呼んでいたので、元妻の連れ子かと。

彼が通うスナックのママの元夫が、面識のない彼を探して隅田川べりに現れるのもちょっとね。
末期がんを告白して、誤解が解ける件は悪くはないが…。

この2人が、影を重ねると濃くなるか?という謎解きに挑戦する。
子供のようにはしゃぐ彼らがいい。

何度も実験した末に、濃くなることが分かる。
人との共生のメタファーだ。

観た後の余韻が凄い。
しみじみ思う。いい映画に出会えた、と。

トイレ掃除に美学の気配花ふぶき 

ミニシアターで一日三本さくら咲く 

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