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『原神』と中国茶文化と北朝鮮

日頃は北朝鮮の文化をウォッチしている筆者が、現在夢中になっている中国発のゲーム『原神(げんしん)』と北朝鮮の「茶文化」という共通点にフォーカスして書きました。

『原神』とは?

株式会社miHoYo(本拠地は中国の上海市)がリリースした全世界クロスプラットフォームのオープンワールドアクションRPGゲームです。つまり、全世界のユーザーが、PC、PlayStation4、スマートフォンとハードウェアを選ばず遊べるゲームなのです。
壮大なストーリーとともに、360°広がるフィールドを自由に散策しキャラクターを育成しながら冒険に出かけましょう!
基本的には無料で遊べますが、アイテムを手に入れたり、仲間を迎えたりするために課金することも可能です。

璃月港に登場する茶器たち

魔神任務(ゲーム内のストーリー本編)1章で登場する街・璃月(リーユエ)港。序章モンド編の近世ヨーロッパ風な世界観に対し、璃月港は中国風の世界観が広がります。
イメージする季節は秋、中国の張家界や桂林、黄龍といった多様な地形を参考に作られた美しいフィールドを、主人公「旅人」が非常食…ではなく親友パイモンとともに冒険します。

フィールドの風景だけではなく建築物から家具や小物にいたるまで全てが中国風に描画されています。中国茶好きな筆者は『原神』のなかの茶器に注目しました。

スクリーンショット撮影は『原神』プレイの醍醐味のひとつ。その中で茶器をメインに撮影。紫砂の茶壺、青磁や金彩の茶碗、漆塗りの器たち…どれも本格的な描写です。

中国の茶文化、新しい伝統

現代の中国や台湾の茶文化『茶藝』というものは新たに作られた「伝統」なのです。それは1980年ごろに各政府の指針あるいは茶協会の広報活動によって広まりました。
『茶藝』自体の発祥は台湾であり、台湾の製茶工業会が中国本土へ持ち込み瞬く間に流行しました。香りを楽しむための茶器「聞茶杯」も台湾発祥のアイテムです。
中国においては、一度廃れた喫茶習慣を人民に普及すべく、1980年代にテレビなどのメディアを通じて政府が尽力し文化を復興発展させました。
茶館が現代的な意味を持つようになったのもこのぐらいの時期。以前は風俗店もしく賭場のような退廃の象徴の一つであったとか。

1980年代以前の中国においては、茶葉の国内消費は多くありませんでした。茶葉の輸出で得たお金は戦後のソ連への借款返済に充てられていました。もしくは茶葉など中国の特産品を輸出する代わりに重工業に必要な鋼材や設備を輸入していました。台湾では生産量の全てに近い量がアメリカなどへ輸出されていました。経済の発展とともに文化の見直しと新しい伝統の構築が行われ中国および台湾国内での消費が急増しました。

過去の社会主義連帯と現代の外交ツールとして

1950年代の中国では農村の婦人らが労働収入を「抗美援朝(アメリカに反対し、北朝鮮を援助する)」の名のもとに朝鮮戦争支援のため中国義勇軍に寄付したり、製茶工場の婦人らがエジプトへの輸出品の質を高めエジプト革命を支援するといった社会主義の団結友好に茶葉生産は役立てられました。
また現代の外交シーンにおいても、国賓へプレゼントしたり歓迎式典で提供されたりと、中国を代表する文化のアピールに利用されています。1980代以降の中国にとっては成熟した国家の歴史と伝統、そして豊かさを強調する宣伝手段のひとつです。

(写真)茶器コレクションの一部

北朝鮮の『恩情茶』

さて、やっと北朝鮮の話題に入ります。
朝鮮半島のお茶といえばどんなものを思い浮かべますか?
ナツメ茶?五味茶?トウモロコシ茶?それとも、韓国ドラマ『愛の不時着』にも登場した松茸茶?いずれも煮出した液体でありますが、厳密には茶葉を使った「茶」ではありません。

しかし近年の北朝鮮では新たな特産品としての『恩情茶』の生産がたけなわです。1980年代、金日成主席の指導のもとで中国茶をベースとした茶葉の栽培が始まりました。近年は人民の嗜好品として、北朝鮮の新たな名産品として宣伝されています。銘柄も鉄観音、青茶、紅茶など中国茶と同様で、抽出方法や茶器もほぼ中国式です。『恩情茶』というネーミングは「首領様の恩情により栽培が始まった」ことに由来します。

茶が流行すれば茶器も必要となります。
北朝鮮国内でもっとも優れた工芸品を制作する「万寿台創作社」。巨大な金日成主席や金正日総書記の銅像はこの製作所の技術者たちによって製作されました。そして同製作所では茶器も製作されています。形は中国茶器そっくりですが絵柄は朝鮮独自の模様です。

1990年代後半~2000年代の北朝鮮は「苦難の行軍」と呼ばれるもっとも貧しい食糧難の時代でした。2012年以降、金正恩時代に入り経済は少しずつ上向き新興の富裕層が誕生しました。彼らは文化的な嗜みとして茶やコーヒーなどを嗜好品を常飲します。
中国や台湾でおこった1980年代の経済発展による茶文化の普及と似た現象が現在の北朝鮮で起こりつつあります。
北朝鮮は『恩情茶』を積極宣伝しており、またこれもいつしかキムチや高麗人参のように北朝鮮の文化と「豊かさ」を宣伝するシンボルとなる日が来るのではないでしょうか。

茶文化のソフトパワー

原神の璃月港編には鍾離(しょうり)というキャラクターが登場します。彼はゲームストーリーにおいて非常に重要な役割を担い、強くて美しく、強烈な存在感を放ちます。
茶を飲み、詩と芝居を愛で、龍のモチーフを纏う鍾離は璃月港のキーパーソンであり中国古典文化を象徴する存在です。
原神をプレイすることにより中国文化に触れ肯定的な印象を抱いたプレーヤーは少なくないでしょう。
実際に、彼に憧れ中華風の要素を取り入れたファンアート作成したり中国文化を考察したりするプレーヤーを多く見かけます。

私は趣味のために北朝鮮メディアを日々チェックし、余暇に『原神』をプレイします。
まったく共通点のなさそうな2つの要素、魅力的なゲームで中国文化を発信する『原神』と、「恩情茶」の普及によって文化をアピールしたい北朝鮮「茶文化による国家宣伝のソフトパワー」という意外な共通項を持っていることがわかりました。

さて、政治宣伝手段として利用されている茶文化ですが、茶そのものには善意も悪意もありません。生産国と消費国にどのような政治的思惑があろうと茶は古来から人々の暮らしに根付いた文化です。
茶には身体を温め、適度な水分摂取による美肌効果もあります。何より香りによるリラックス作用が嗜好品として好まれる理由です。
東アジアはもちろん、インドやトルコのチャイ、そして欧州の紅茶まで、世界中で茶は愛飲されています。私も茶の魅力に取り憑かれた一人です。

あなたも『原神』に登場する葬儀屋の客卿・鍾離のようにゆったりとお茶を愉しみませんか?既に『原神』をプレイ中の方は、茶とともにゲーム中の書籍『帝君遊塵記』など璃月の伝説にまつわる物語に心をゆだねてみてはいかがでしょうか。

追記。
限定⭐︎5キャラクター鍾離先生を2凸するために2万円課金しました。鍾離先生に持たせる武器「護摩の杖」のために更に課金してしまいました。
ゲームに課金しなければ立派な茶器をコレクションに加えられたのに…。
それでもキャラクターガチャ復刻時には完凸を目指します!

追記2。
復刻ガチャの報告。完凸はできませんでしたが確定申告還付金を投入して5凸達成しました。

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