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「イヤミス」からの新境地!? 『息子のボーイフレンド』の原点は自身の青春時代に──秋吉理香子インタビュー

映像化もされた『暗黒女子』をはじめ、読後に嫌な気持ちが残りながらもクセになるミステリー作品=「イヤミス」を数々執筆してきた秋吉理香子さん。
始動したばかりのU-NEXT出版部で書いていただいた新作は『息子のボーイフレンド』。タイトル通り、息子の聖将きよまさが母親である莉緒りおに「“彼氏”ができた」とカミングアウトすることから始まるハートウォーミングな作品です。

「イヤミスの女王」とも呼ばれる秋吉さんがなぜLGBTをテーマにしたホームコメディに挑戦したのか? 実はミステリー作品を書き始めるよりも前から胸の内で温めてきた題材だったそうなのです。そのきっかけを紐解いていくと、秋吉さんの意外な過去も判明しました。


秋吉理香子(あきよし・りかこ)
早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリマウント大学院にて映画・TV製作修士号を取得。2008年『雪の花』で第3回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞しデビュー。受賞後第1作となる2013年発表のダークミステリー『暗黒女子』は話題になり映画化もされた。著書に『放課後に死者は戻る』『聖母』『絶対正義』『機長、事件です!』『婚活中毒』『眠れる美女』など。


BLを愛する腐女子でも、息子が“彼氏”を連れてきたら戸惑いはあるもの

──秋吉さんといえばミステリーの印象が強く、『息子のボーイフレンド』のようなホームコメディを書かれたことは意外でもありました。どういった経緯でこの作品を書くに至ったのでしょうか?

秋吉:U-NEXTさんから出版事業を始めるということで「何か書いてもらえませんか?」と声をかけていただいたんです。「ミステリー以外のジャンルでも」と言っていただいたので、以前から書きたいと思っていたLGBTをテーマにした作品を、とお伝えしたところOKをいただけたのがきっかけです。

──以前からLGBTについて関心をお持ちだったのですか?

秋吉:はい。もともとジェンダーやLGBTには興味があって、中学生の頃はまさに腐女子だったんです(笑)。今でいうBL雑誌を買ったり、自分でも漫画を書いて友達に読んでもらったりしていました。ただ、そうやってキャピキャピしながらも、「この人たちが幸せになれないのはおかしい!」という問題意識もあって。「生身の当事者に向き合う必要がある!」と決意して、中学生なりにゲイコミュニティを調べて参加させていただいたこともありました。

インターネットもない時代に、どうたどりついたのか自分でも謎なのですが、コミュニティの連絡先に電話をして、市民会館のような場所で開かれる集まりにお邪魔しました。インターネットがないからこそ、今よりもオープンだったのかもしれません。みなさん、まだ中学生で、異性である私が興味関心を持っていることにとても喜んでくださって、会報誌を送っていただくなどしばらく交流が続いていました。

──お聞きしていると、莉緒と秋吉さんに重なる部分が多い気がします。

秋吉:そうなんですよ! 私も当時の友達と、莉緒と優美(ゆみ・莉緒の高校時代からの親友)のように「お互い息子が生まれたらカップルにしよう!」なんて話していて。

そういうことも頭にあったので、実際に息子が生まれて、もし息子から「自分はゲイだ」と告白されたら……と想像してみたんです。すると、こんなにBLも好きだし、問題意識も持っているはずなのに、戸惑う自分が思い浮かんで、戸惑う自分にさらに戸惑いました。それから自分と向き合って、今は小学生の息子が将来どんな相手を恋人として連れてきても受け止められる覚悟ができたのですが。否定はしなくても戸惑う気持ちは多くの母親にあるだろうと思い、莉緒が語る章は、その気持を大切に書きました。

──きっと異性であっても、同性であっても、わが子に恋人ができたと聞いたら、親は慌てて戸惑いますよね。

秋吉:そうですよね(笑)。ずっと愛情をかけて育ててきたわが子に、自分よりも大切な存在ができたということですからね。それが同性だったとして、差別につながってはいけませんが、戸惑いはあってもいい。それを受け入れていける方向に、自分の気持ちを持っていけたらいいなと思います。

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息子のカミングアウトを受けたとき家族がどうなるのか、自分なりの答えを出したかった

──秋吉作品は登場人物がとても生き生きしているのが魅力のひとつですよね。今回、莉緒以外のキャラクターはどのように生み出されたのでしょう?

秋吉:莉緒の親友である優美は、女子校時代の友達のイメージを凝縮して、その子たちと今でもつきあいが続いているならこんなふうがいいなと具現化していきました。優美の存在は作品を書くうえでも助けられました。家族とは違う立ち位置から常に近くで見守ってくれる人がいることで、作品に救いが出ます。

聖将と雄哉(ゆうや)のカップルは、主人公である聖将を高校生にしたときに、相手の年齢や肩書きで迷いました。高校生よりも少し大人だけど、まだ社会に出ていない大学生だと、学生ならではの自分のセクシュアリティをオープンにできない悩みもあるかと思い、高校生と大学生のカップルに落ち着きました。

聖将も雄哉も爽やかでいい子で、端から見れば完璧だけど、それぞれに何か欠けたものを抱えているというのは、実際の高校生や大学生でも、性的なことに限らずあると思うんです。そういった意味で感情移入していただきやすいのかなと。

──章ごとに語り手が変わることが、作品に奥行きを持たせていると感じました。この構想は最初からあったのでしょうか?

秋吉:莉緒の視点から物語が始まるのは何年か前から思いついていたんです。U-NEXTさんからお話をいただき、このテーマで書かせていただけるとなって、第1章は頭の中にあったものがすんなり形になりました。

そこから莉緒の一人称でずっと続けることも考えたのですが、当事者である聖将と雄哉の視点は欠かせないし、そうなると聖将の父親・稲男(いねお)の視点もほしい。でも、より客観的な視点もほしいとなって優美が語る章も加えました。書きあがってみるとすごくバランスのいい章立てにできたのではと自負しています。

──終わり方も最初から決めていたのですか?

秋吉:いえいえ! 最初はどう終わらせるかも決まっていなかったんです。試行錯誤を繰り返してリボンをモチーフにしたシーンが浮かんだところから全部がつながりました。ハッピーエンドともアンハッピーエンドともつかず、読んだ方のご想像にお任せする終わり方もあったと思うのですが、今回は私なりの答えを出したかったのでかなり悩みました。リアリティを持たせながら、ひとつの答えを提示した終わり方にできたと思います。


たった一行にしか出てこない登場人物にも、深い愛情を

──これまでミステリー作品を書き続けて来られましたが、ミステリーを読むようになったのは「暗黒女子」を書く直前からとお聞きして、とても驚きました。

秋吉:そうなんです。それまでは純文学しか読んでいなかったので、ミステリーは読み方もわからなかったくらいで。どんでん返しがあっても、頭に「?」が浮かんでしまうような……。ある時「これはAさんが犯人だけど、ここでBさんが犯人だとミスリードするように書いてあるんだ!」と気づいて、ようやくミステリーの書き方がわかったんです。
最初からミステリーにどっぷりハマっていなかったからこそ、少し客観的な視点からミステリーの構造に気づくことができたのかもしれません。

──今回ミステリー以外の作品に挑戦してみて、執筆への取り組み方の違いなど発見されたことはありましたか?

秋吉:すごく書きたかったテーマで、やっと書けることがとてもうれしかったのですが、センシティブなテーマではあるものの、深刻過ぎる内容にはならないようにと、ユーモアとシリアスのバランスを取るのがとても難しかったです。あまりにも大変で書き進めながら「これは大変なものに手を出してしまった!」と後悔したこともありました(笑)。

今、1冊にまとまっている量の5倍くらいは書いたものを、「トーンが暗すぎる」「流れが悪くなる」などの判断で削っていきました。読み返してみると「これ、めちゃくちゃいいシーン!」と、削ったのが惜しくなったりもするのですが、完成した作品はシリアスとユーモアもとてもいいバランスになっているし、テーマも直球で伝わる形になったのではと納得しています。

──ミステリー作品と『息子のボーイフレンド』のようなホームコメディ作品とで共通する「秋吉作品の軸」のようなものはありますか?

秋吉:登場人物のキャラクターが大事ということでしょうか。今回の登場人物も個人的に好きな人ばかりですし、ミステリー作品で途中で死んでしまう登場人物であっても、愛情を持って書いています。

どの登場人物も自分の中で「こんな服を着ていて、しぐさはこんな感じで、こんなところに住んでいる」といった作品には出てこない裏設定はありますね。そのほうがたった一行しか出てこない人物でも厚みを持たせられると思うので。

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映像と小説は地続き。読む人がビジュアルを喚起するような文章を書きたい

──今回、ホームコメディに挑戦したことで、さらに今後書きたいテーマやジャンルは広がりましたか?

秋吉:家族小説やジェンダー、セクシュアリティ、LGBTは引き続き書いていきたいテーマです。ジャンルでは歴史ものも挑戦してみたいですね。映像だと歴史ものって衣裳やセットを用意するのが大変じゃないですか? でも書くなら設定は自由ですから。

──「映像だったら」と考えるのは、映像製作を学ばれていた秋吉さんならではですね。ほかにも映像製作を学んでいたことが小説に活かされることはあるでしょうか?

秋吉:小説を読んでいても映像は浮かびますし、逆に映像作品を観ているときにも「この場面は原作だとどう表現されているんだろう?」と気になります。自分が書くときには頭に浮かんだ映像を文字に起こしている感覚があり、やはりビジュアルを喚起するシーンや文章を書きたいと思っています。『息子のボーイフレンド』でいえば、リボンのモチーフもビジュアルが浮かぶシーンではないかと。
自然と小説を書きながらも映像の要素は入れていますし、私の中で映像と小説は地続きなのだと思います。

──『暗黒女子』のように映像化されたご自身の作品については、どのようにご覧になるのでしょうか?

秋吉:私が映像を学んでいたので、いろいろと思うところがあると取られがちなのですが、むしろ映像作品を作る苦労がわかるので、何をどうしていただいても構わないというスタンスなんです。私の中で映像と小説はボーダーレスではあるのですが、誰かに映像化していただく際には、その方の作品だと思っています。


同じ本を紙でも電子でも。両方の良さを享受して読書を満喫

──動画サービスであるU-NEXTで配信されるということで、書き方を意識された点はありますか?

秋吉:内容が重くなりすぎないようにというのと、説明が長すぎたり、改行が少なかったりはやめておこうと考えていました。またU-NEXTで読む方は、映像的なテンポやリズムに慣れていらっしゃると思うので、文字だけではあるものの、テンポやリズムが良く、ポンポンと進んでいくことは意識していました。

──秋吉さんご自身は電子書籍を読まれる機会はありますか?

秋吉:紙の書籍も電子も好きですし、最近はオーディオブックも楽しむようになりました。人に言うと驚かれるのですが、私、同じ本を紙と電子と両方購入するんです。外で読むときは手軽に電子で、家で読むときは重くてもいいから紙で、と使い分けてそれぞれの良さを享受しています(笑)。

──映像でお好きな作品もお聞きしたいです。

秋吉:『フレンズ』シリーズが大好きだったんです。なので『フレンズ:ザ・リユニオン』がU-NEXTで配信されると知って、シーズン1から見直しました。映画だと『マトリックス』シリーズ。今では当たり前な映像技術かもしれませんが、当時は斬新でしたよね。さらに今見直しても色あせない映像美を感じます。U-NEXTでは子どもが『暗殺教室』や『進撃の巨人』、『呪術廻戦』などアニメ作品を観ることもあります。新しい作品を観るのも楽しいのですが、「あの作品懐かしいな」と思ったとき、手軽に見直せるのがありがたいです。


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