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【TIFFレポ①】また会いたくなる、あの子。『アマンダ(原題)』(東京グランプリ&脚本賞W受賞作)

10月25日から11月3日まで開催された東京国際映画祭(TIFF)。10日間でなんと181本もの作品が上映され、6万2,000人以上を劇場に動員したこのスケールの大きな映画祭。

日々良作との出会いを求めているわれわれU-NEXTも、素晴らしい作品や新たな才能との出会いを求めて、全力で参加してまいりました。

もちろん181本すべては観られていませんが、拝見できたもののなかから「これぞ!」というものを数回にわけて、映画部・宮嶋がご紹介していきたいと思います。

すでに劇場公開が決まっている作品もありますし、おそらくこの映画祭がきっかけで配給が決まる作品もあるはずです。どうぞお楽しみに!

第1回は最高賞「東京グランプリ」と「脚本賞」のW受賞という快挙をなしとげたフランス映画『アマンダ(原題)』!

《あらすじ》
便利屋業をしているダヴィッドは、パリに出てきたてのレナに出会い、恋に落ちる。しかしその直後、姉の突然の死によって彼の人生は無残に壊れていく。ダヴィッドはショックと辛さを乗り越え、まだ若い姪っ子アマンダの世話をしながら自分を取り戻していく。(東京国際映画祭公式サイトより)


パリを舞台にしたフランス映画ですが、スクリーンに映されているのは「ファッションと芸術の街・パリ」ではなく、ごく日常の、人が生きている街。生活の場としての、パリ。

いかにもパリらしい、観光ガイド的なパリではなく、等身大で気取りがなくて、ごく普通の人びとの日々の目線で捉えられたパリ。人の息遣いが感じられて、すごくイイんです!

主人公である20代前半の青年は、その街で日々散歩したり、自転車を乗り回したり、ちょっと仕事したり、女の子と出会って恋が生まれたり、シングルマザーである姉の8歳の愛娘の学校へのお迎えを手伝ったり。まあ~、ごくごく普通の、ただのパリの男の子。

仕事がファッション関係や編集者とか「いかにも」ではなくて、アパートの斡旋(といってもちゃんとした不動産やさんではなくて、民泊の手配みたいな感じ)と公園の植栽の手入れのアルバイト、という、このおしゃれ感のなさもなんだか親近感。

そんな当たり前の生活の延長上に起こる、大きな出来事。ある実際の事件を彷彿させる事件です。そして、その事件による、姉の死。

日常が丁寧に描かれた流れで起こる悲劇だからこそ、観ている私たちも強いショックを受けます。このあたりの持って行きかた、ミカエル・アース監督、巧みです。

ここから物語は大きなうねりを見せます。青年と少女の喪失感や、不安・葛藤、そして再生へ。

悲しみを抱えた青年と姪っ子。ふたりをとりまく小さなエピソードの積み重ねが、クライマックスで大きな感動をもたらしてくれます。

主人公の青年役、ヴァンサン・ラコストくんもちょっと朴訥でとてもイイのですが、なんといってもタイトルロールでもある少女・アマンダ役のイゾール・ミュルトゥリエちゃんの真に迫った演技!

いわゆる正統派美少女ではなくて、子どもらしくぷっくりした頬と、おしゃまな表情がチャーミングな彼女。

突然母を失い、それでも気丈に…というよりも、気持ちをどのように表現すればいいのか整理がつかない。喪失感と、それでもなんとかいい子でいようという気持ちと、叔父である主人公に甘えさせてほしい気持ちと。子どもらしい葛藤がお見事なのです。

そして、ラストシーンの彼女の表情!本当に初めての演技なの!?天才すぎるじゃないか!

思わずグッと来てしまう名演技に、劇場のあちこちでティッシュを取り出す音、もらい泣きのグズグズ音。そしてその余韻がいつまでも残って…。

エンドロールが終わり明かりがついた客席全体に、しみじみと「あぁ、いい映画を観たわぁ。ね~!」という、見ず知らず同志が集まる場での、不思議な一体感が漂っておりました。

しかも、観終わってからしばらくしても、またアマンダちゃんに会いたくなってしまうのです。あの子は今、笑ってるだろうか。ダヴィッドおじさんと仲良くやれてるだろうか。そんな風に、あのクライマックスの後の彼女のことを思ってしまうのです。それほどに、映画のなかでちゃんと生きていた、アマンダちゃんでした。

『アマンダ(原題)』は2019年初夏に劇場公開が決まっている作品。ちょっぴり先ですが、ぜひ楽しみにしていただければと思います。


ちなみに主人公の青年が恋する女の子がめちゃくちゃ可愛い!誰だこれは!…と思ったら、『ニンフォマニアック』でシャルロット・ゲンズブールの若い頃を演じていたステイシー・マーティンでした。

体当たり演技もできるし、本作のような可憐な役もできるし、注目の若手女優ですね!


数回にわけてお届けするTIFFレポート、次回は日本映画からピックアップしたいと思っています。こちらも素晴らしい作品ですので、どうぞお楽しみに!


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