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【TIFFレポ②】中村文則のほの暗さと、表現者・村上虹郎。『銃』(日本映画スプラッシュ監督賞 受賞作)

日々良作との出会いを求めているわれわれU-NEXT。素晴らしい作品や新たな才能との出会いを求めて通った東京国際映画祭(TIFF・10月25日から11月3日まで開催)のレポートを、映画部・宮嶋が数回にわけてお届けしております。(前回の記事はこちら!)

第2回は、日本映画スプラッシュ部門で監督賞を受賞したこの作品。

かなり挑戦的な注目作です。中村文則さんの同名小説を、『百円の恋』の武正晴監督が映画化した『銃』。

《作品解説》
芥川賞作家・中村文則の衝撃デビュー作「銃」(河出書房新社)。02年に新潮新人賞を受賞し、英訳「The Gun」は16年「ウォール・ストリート・ジャーナル」年間ベストミステリー10冊にも選出された。今も読み継がれているこの人気小説を奥山和由プロデューサーが企画・製作、武正晴監督がメガホンをとり映画化。
モノクロの映像(一部カラー)表現により、原作の独特な世界観を壊すことなく、日常に潜む人間の狂気を描いた作品。
主演は、近年、俳優として飛躍し続けている村上虹郎。銃に支配され、徐々に狂気が満ちていく難役を熱演。ヒロインには広瀬アリス、また主人公を追いつめる刑事を怪優、リリー・フランキーが演じる。(東京国際映画祭公式サイトより)


モノクロで中村文則ワールドを可視化

私、小説も大好きでして、中村文則作品のファンでもあります。中村さんの小説って一人称で語られるものが多くて、心情描写は「静的」「内向き」な印象。

説明が難しいのですが、主人公はどこか自分を客観的に見て、一定の距離感をもって自分を語っていて。読者はそんな主人公の客観性に誘導されるように、彼の心のなかにずぶずぶと入っていって、その内側の暗闇に取り込まれていくような。そんな語り口が多いように思います。

でも、これが中村作品の面白さなんですが、その静かさに反して、主人公の行動には、暴力や悪意、そしてセックスという、動的なにおいがまとわりついているんです。それを映像化するとなると、もはや「挑戦的でないと展開に負けてしまう」類の原作なのではないかと。

この映画『銃』は、武正晴監督がその世界観にがっつり挑戦。原作の世界をうまく映像に昇華しています!

成功要素のひとつは、本編のほとんどをモノクロの世界に閉じ込めたこと。そうなんです、これ、ほぼモノクロ映画です。今どき、モノクロ映画!普通のひとがケータイで動画を撮ってインスタのフィルターで色調補正とかしている時代に、モノクロ映画。洋画で、舞台設定の古さを醸しだすためにあえてモノクロで撮られた素晴らしい作品は時々ありますが、現代を舞台にした、邦画のモノクロ映画。これってかなり挑戦的じゃないでしょうか。


表現者・村上虹郎に、あらためて。

もうひとつの要素は、やはりこの映画のキモとなっている村上虹郎さんです。

虹郎さんの持つ「少年性」や、若い動物のようにしなやかな、「動的」なイメージ。これって、必ずしも原作の持つ主人公・徹の特性とピッタリくるものではない、はず。少なくとも私は、そう思っておりました。「上手だし好きな役者さんだけれど、中村文則ワールドにあうのかな?」と。

それなのに、観終わったあとは、速やかに前言撤回。虹郎さんは確実に主人公・トオルでした。虹郎さん、この作品で、新しい何かを自分のなかに取り込んだ、そんな印象。もはや虹郎さんをキャスティングした奥山和由プロデューサーに、映画ファンとして感謝しかありません!

主人公のトオルって、むずかしいキャラクターなんです。

大学生なのにすでに達観したところがあって、クールで感情の波があまりなく、人当たり良く、でも情もないし、欲望なんかも、ない。それでも何となく女の子と寝たり、恋しているようなフリをしたり、そうやってソツなく周囲に埋没できてしまう。そういう若者として描かれる青年。

そんな彼が、銃を手にしたことで、どのように狂っていくのか。それがこの映画の核となるところ。

インタビューなどで「ピッタリですね」と言われては、冗談っぽく「ピッタリと言われると複雑です」と笑っている虹郎さんですが、やっぱりこの役、「キャラのままで、ピッタリ」というわけではないんと思うんです。

でも、少年性や無邪気さを残したまま少しずつ狂っていくから、その異様さから目が離せなくなる。違和感が、引力になっている…!

こんな風に、自分の外側を残したまま内側をからっぽにして、まったく異質なもの(たとえば今回は“狂気”)のために開放すること。さらりと自分を開いて、パクッと異物を飲み込んで、それを「行為(演技)」としてさらし出すこと。

「演技するって、こういうことだな。表現者の素養って、これが出来るってことだな」と、本作の虹郎さんを観て、あらためて思わされた次第です。

でもこれが出来るのって、どういう才能なんだろう?

普通は、やっぱり最初の「開いて、さらけ出す」という、表現のハードルは相当高いはず。

そういう意味では、「二世」とか「サラブレッド」とか呼ばれている彼のような人(念のために書いておきますが、虹郎さんのご両親は、俳優・村上淳さんと歌手・UAさんですよー)は、周りの大人たちが常に「自分を開いて、さらけ出して、表現する」姿を見ているわけで。第一歩のハードルを越えるためのロールモデルを持っている、という、アドバンテージはあったのかもしれない。

でもでもでも!本作の虹郎さんを観ながら、もう、「二世」も「サラブレッド」も、そんな枕詞いらないなぁ…もう、ただの「実力派俳優・村上虹郎」だなぁ…(しんみり)

と思いながら観ていたら、ラストのクライマックスシーンでまさかの村上淳さんが登場!『2つ目の窓』以来の父子共演!


『銃』の展開のなかにも、主人公と父親の間の、とあるエピソードが出てくるのです。観るものの頭のなかで、劇中の父子のエピソード&現実の親子関係&劇中の虹郎さんの村上淳さんとのエピソードの4つがぐるんぐるんと関わりあい共鳴しあい、膨らむイメージ。

しかも、このシーンだけ、モノクロからカラーにチェンジします。主人公の心の動きの面でも、大きな大きな出来事が起こるワンシーンなのでした。

最後の最後にもインパクトの大きな仕掛けが設けられ、強烈な鑑賞後感を残す本作。中村文則ファンとしても、村上虹郎さんに注目する映画ファンとしても、大満足。

『銃』はまもなく、11月17日(土)から劇場公開されます。どうぞお楽しみに!


次回のTIFFレポは、恋愛映画を2本、ピックアップする予定です。またお越しくださいませー。



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