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ユースの参画が創造性の種を蒔く 〜まちなかキャンパス(北海道旭川市)を体感して〜

皆さん、こんにちは。次世代ユネスコ国内委員(以下次世代委員)の長澤パティ明寿です。

地域と世界が繋がるユネスコ活動であり、次世代委員会も積極的に活動の発信を行ってきた「ユネスコ創造都市ネットワーク(以下UCCN)」。
今年度(2024年度)は日本のUCCN活動において記念すべき年となること間違いなし!
なんと、世界各地のUCCNデザイン分野加盟都市が集う、「デザイン都市会議」が北海道旭川市で開催されるのです!!

旭川市はユースが主体的・積極的に関わる創造都市事業を推進していることも大きな特徴です。本稿では、筆者が参加した「あさひかわデザインウィーク2023 まちなかキャンパス」について報告します。

ユネスコ創造都市ネットワーク(UCCN)とは??
UCCNとは、「経済的、社会的、文化的、環境的側面において、創造性を持続可能な開発の戦略的要素として認識している都市間の協力を強化する」(文部科学省HP参照) ことを目的として2004年に始まったユネスコ活動です。「創造性(Creativity)」をキーワードに、国境を越えた都市間交流・学び合いを活かして持続可能な都市を目指す取組が各地で展開されています。その取組は今や、地域の文化・芸術活動の持続的発展を後押しするだけでなく、国際交流・異文化交流・異文化間対話(地域間対話)を深める役割も果たしていると次世代委員会は考えています。

なお、UCCNには映画、デザイン、工芸、メディアアート、音楽、食文化、文学の7つの認定分野があり、現在世界で350都市、日本からも11都市(下記参照) が加盟する大きなネットワークへと発展しています。

(参考)日本のUCCN加盟都市
デザイン   :神戸市、名古屋市、旭川市  
工芸     :金沢市、丹波篠山市
メディアアート:札幌市
音楽     :浜松市
食文化    :鶴岡市、臼杵市
映画     :山形市
文学     :岡山市

「旭川家具」から「デザインを活かしたまちづくり」へ
明治時代より、交通の要所であり豊富な森林資源を有するという地の利から家具産業が栄えた旭川市。その知見と経験を海外との交流によってさらに豊かなものとするべく、旭川デザインシンポジウム、国際デザインフォーラム旭川、国際家具デザインフェア旭川 (IFDA)、旭川デザインウィークといった数多くの取組が展開されてきました。それにより、「デザインの力」「世界との繋がり」を文化産業や地域経済の活性化に活用してきたことが評価され、2019年にはデザイン分野でUCCNへの加盟を実現します。

筆者は2022年度の旭川デザインウィークにも足を運びシンポジウムに参加しましたが、人・自然・文化を繋ぐ関係性の触媒として、また、独自性を活かしたものづくり・ひとづくり・まちづくりを行う土台となるキーワードとして「デザイン」を捉えていることが非常に印象的でした。

“学びの縁日” まちなかキャンパス
旭川市のUCCN事業最大のイベントといっても過言ではない旭川デザインウィーク。まち全体がデザインの祭典と彩られ、世界中から参加者が訪れる各種イベントが開催されます。
その中でも、一際目を引くのが駅前の平和通買物公園を貫くエネルギッシュな“学びの縁日”まちなかキャンパスです。

まちなかキャンパスは2021年より始まった、高校生・大学生が「SDGs(持続可能な開発目標)」をテーマとして日々の学びや取組を発表し、子どもたちから大人まで幅広い来場者と学びを深め合うイベントです。買い物公園と名付けられた通りには沢山のテントが並び、「大論戦!!昆虫食賛成派vs反対派in旭川」「フィリピンスマイルプロジェクト」「魔法の消毒液」・・・・と興味深い“学びの屋台”が連なっていました。

まちなかキャンパスのポスター/買い物公園に並ぶ“学びの縁日”

3回目を迎えた今回は、高校、高専、大学その他団体を含む33の組織が57種類の出展を行い、68,000人もの来場者が訪れたそうです。

筆者の目を引いたのは北海道立北の森づくり専門学院の展示。林業という専門性を活かして薪割り・ノコギリ体験会、工具展示会を開催し、北海道の森や林業に携わる人について理解を深めてもらおうという展示に子どもたちは興味津々。普段は経験することの出来ない体験を新鮮に味わっていました。北海道立北の森づくり専門学院は林業先進地であるフィンランドの林業専門学校との連携も盛んに行っているとのこと。「旭川家具」の製作において欠かすことのできない要素である「林業」を、世界との交流を大切に、誇りを持って学び、子どもたちへと伝える姿に、デザイン都市旭川の原点を垣間見た瞬間でした。

北海道立北の森づくり専門学院の展示の様子

企画・運営にはユースが積極的に参画
旭川市の人口の約2割にあたる68,000人が来場するまちなかキャンパス。まちなかキャンパス実行委員会によりイベント全体の運営がなされる一方、出展高校・大学との連携、まちなかキャンパスの広報活動等をメインで担うのが市内の高専生・大学生・高校生で構成された「まちなかキャンパス学生実行委員会」という組織です。

今回、まちなかキャンパス2023学生実行委員会の委員長、旭川工業高等専門学校5年生(当時)の嶋田太一さんに話を聞くことが出来ました。

Qどの様なきっかけでまちなかキャンパス学生実行委員会に参加したのですか?
A 旭川高専の浜田良樹先生(まちなかキャンパス実行委員会会長・旭川工業高等専門学校教授)にお誘いいただき、2022年のまちなかキャンパスの準備・運営に携わりました。自分達の取組をより広く伝えたいと、“繋がる学び”をコンセプトに2022年度グッドデザイン・ニューホープ賞へ応募したところ「仕組みのデザイン」として入賞をいただくことが出来ました!(詳細はこちら)グッドデザイン賞で広がったネットワークを活かし、さらに深化したまちなかキャンパスを作るべく、学生実行委員長として汗を流しています!

Qまちなかキャンパス学生実行委員会として活動するやりがいを教えてください!
A 6万人以上の来場者を誇るイベント運営を学生時代に経験出来ることは非常に大きなやりがいです。イベント運営というのは当日以上に準備に大きな労力が必要です。出展団体との細かい調整、当日の段取りの確認、SNSを用いた広報活動、学生実行委員長として25名が所属する委員会のリードなど、学業と両立させながら取り組むことは大変ですが、イベントの舞台裏にどのような準備が必要なのかを学びながらやり抜いた経験は大きな自信に繋がります!また、まちなかキャンパスの運営を通して、普段の学生生活を送っているだけでは出会うことの出来ない多くの人と出会い、ネットワークを広げ、新しい世界を経験出来ることは大きな魅力です。

Q嶋田さんにとって旭川市がユネスコデザイン都市になったことにはどの様な意味がありましたか?
A旭川市がユネスコデザイン都市になったことは旭川に暮らす一人として大きな誇りです。また、デザイン都市となったことでまちなかキャンパスのようなイベントがより活発化し、自らを含め学生が活躍出来る場が増えた様に感じます。

期間中、会場をパワフルに駆け回り、運営に奔走していた学生実行委員会の皆さん。片付けを終え、輪になってミーティングを行う様子は笑顔、一体感、達成感に溢れていました。

まちなかキャンパス2023学生実行委員長の嶋田さん(右)と筆者(左)

次世代ユネスコ国内委員会もまちなかキャンパスに出展!!
今回、我々次世代委員会も、委員会並びにユネスコ活動のPRを行うとともに、来場者の皆さんと創造都市やユネスコ活動に関する対話を行うことを目的としてまちなかキャンパスへ出展しました!委員会活動のポスター展示を行うとともに、「ユネスコ」に関するイメージ調査や創造都市に関する認知度調査を行いました。

調査にご協力いただいた来場者の多くの皆さんが「ユネスコ」という言葉・名前は聞いたことがあると回答して下さった一方で、「UCCN」についてはほとんどの方が初めて知ったとの回答でした。また、旭川市がユネスコデザイン都市に認定されていることを知っているかとの質問には、おおよそ半数の方が知っていた、残り半数の方が初めて知ったと回答されました。

ユネスコの具体的活動やUCCNに対する認知度の低さについては兼ねてより委員会内でも議論されているテーマの一つでしたが、その現状を痛感することとなり、改めてその意義や取組を積極的に発信する重要性を感じました。また、来場者の皆さんとの対話を通じ、ユネスコ活動に対して自らの生活とは距離のある世界規模の活動とのイメージを持たれている方が多いとの印象を受けました。

他方で、旭川デザインウィークやまちなかキャンパスの開催により旭川市がデザイン都市であることを知ったとの声も多数あり、活動の継続が認知度の向上と更なる巻き込みの強化に寄与している側面も感じました。

まちなかキャンパスと創造性
「今、高校生や大学生はSDGsについて学校でたくさん学んでいるが、それを外部に向けて発信する場は限られている。高校生・大学生が学校の枠を超えて自らの学びを発信し、特に子どもたちが彼らの取組から何かを吸収するような互学互修の空間を作れないか。」まちなかキャンパス実行委員会の浜田会長は「まちなかキャンパス」を構想した想いをそう語ります。

柔軟かつ無限の想像力や発想力を持つ子どもやユース。その自由なアイデアが「創造性の種」として発信、共有、議論されることを通して新たな「価値」となり、ものづくり・ひとづくり・まちづくりに応用されていく。創造都市活動が持つべき重要な視点であり、まちなかキャンパスはそのきっかけとなり得る場であると今回の参加を通じ強く感じました。

また、まちなかキャンパスは近年全国の高等学校を中心に取組が進められている「探究活動」の発表の機会として活用されており、探究活動と創造都市事業の連携可能性を示す取組としても有意義ではないでしょうか。今回出展していた高校生や大学生に話を聞くと、まちなかキャンパスという場の魅力として、「自らの取組の発表機会」「学校・世代の枠を超えた学び合い」「社会との接点の構築」との視点が多く聞かれました。「〇〇市が〇〇創造都市としてUCCNに加盟していたからこそ〇〇◯出来た」という経験を多くの市民、特に若年層が感じることが各都市においてシビックプライドを醸成させるとともに、ひいてはUCCNやユネスコ活動の意義と価値を認識することに繋がるのだと強く感じます。

今回、UCCN活動に主体的・積極的に関わるまちなかキャンパス学生実行委員会の皆さんとのネットワークを築くことが出来、大変嬉しく思います。今後は次世代委員会として、全国各地でUCCN活動に関わるユースの横のつながりを構築するとともに、UCCNに関し、よりユースの声が反映される仕組みづくりを行なって行きたいと考えます。

なお、まちなかキャンパス2024は2024年6月22日(土)〜23(日)に旭川平和通買物公園にて開催される予定です。「デザイン都市会議」が開催される記念すべき年の一大イベントとして、既に学生実行委員会も立ち上がり、着々と準備が進んでいるようです。皆さんも“学びの縁日”を現地で体感してみてはいかがでしょうか?

まちなかキャンパス2024の情報はこちらから

DATA
イベント名:あさひかわデザインウィーク2023 まちなかキャンパス
開催日時:2023年6月17日(土)~ 18日(日)
会  場:北海道旭川市旭川平和通買物公園
執  筆:次世代ユネスコ国内委員会(2023年6月現在) 長澤パティ明寿