トーキョー王 #7


【アキウ-11】
 気がついたとき僕はお店の床に寝かされていて、もう全てが終わっていた。前に会ったときと同じ、自信満々の笑みをうかべた京都のご姉妹の姿を見て、彼女たちが状況を――やりかたはどうあれ収めたことがわかった。

 京都のお姉さんがたに連絡しておいたのは、僕の「保険」だった。あからさまな態度の敵はきっと実力に自信をもっているのだろうし、もし僕たちより強い相手だった場合には、ご姉妹が切り札になるかもしれないと思ったからだ。私ら来いひんかったらどないするつもりやったん?とサエさんはけらけら笑ったが、彼女たちは僕が子供の頃から、なんだかんだ云いつつ助けてくれていたし、強い魔力の持主にはきっと関心をもってくれると思っていた。

 「事務所」のみんなが駆けつけたときには、公園のほうにいた魔法使い、最初にこの店を壊したやつの姿はもうなかったという。とくに事件性の疑わしいこともなく、公園のほうでは何も起こらなかったようだったけど…その夜、パトロール中の警官が職務質問した相手が、公安警察にマークされていた北の国の工作員に似ていたらしいことがわかったのは、もっとずっと後になってからのことだ。

 この家の下の子――ミナちゃんは、「魔法使い」(ほんとはちょっと違うんだけど)の僕が彼女を2回も助けたとわかって、目を輝かせていた。この騒動で姿はぼろぼろだったけど、こないだの記憶によればけっこう可愛いコだから悪い気はしない。そのお姉さんのほうも僕を好ましい目で見てくれたけれど、まあ実際こうした事件のときにはよくあることで、吊橋効果に「魔法使い」のファンタジックさで一時的に盛り上がってしまうのだ――あくまで一時的にね(云っててさびしくなってきたよ)。

 なぜ2度も僕が彼女たちを助けることになったかは、大沢さんが説明してくれた。スーツ姿の、ちょっとコワモテっぽいおじさんに肩を借りて戻ってきた大沢さんは、大きな赤黒い染みをつけたジーンズの脚に、何かの布を巻きつけていた。マシンガンに倒れた声がしたときはどうしようかと思ったけど、太ももを撃ちぬかれた程度で命に別条なくてよかった。

    ミナちゃんは「魔法研究会」の先輩であるハンドルネーム「マーリン」さん(イタいなー大沢さん)が、家のセンサーのデータからピンチを知って、「故あって名前を明かすことのできない腕利き」の僕に依頼したと聞いて、いっそう目を輝かせた――でもその腕利き、クライマックスに気絶してましたけど。

 もちろん僕は、最初の事件のときに悪漢が窓から落ちてきた理由なんか知らなかったし、実際には取り押さえただけだった。皆さんには本当のことを話しても笑われないでしょう、と云ってお姉さんのレナさんが話したところでは、部屋の壁のほうからいきなり風が吹いて、犯人を吹き飛ばしたのだという。

    自分がやりましたって云わないとおさまらない流れだったので、僕はどうにか秘密めかした感じで曖昧に返答した。風と聞いてサヤさんを見たけど、サヤさんは苦笑して首をふった――だったら誰が?他にこの家に関心をもっている魔法勢力がいたってことなんだろうか?


【ミノル-15】
    美女たちは双子だった。私たちと話したほうの女性が、ご店主に店の修理費として小切手を切り、金はやつらの雇い主からむしり取るからいいのだと笑った。北の国から「金をむしり取る」方法を、彼女たちは知っているのだろうか。

    それでも何かお礼を、というレナさんには、あのものすごい剣幕だったほうの女性が、見違えるようなやわらかい微笑みとともに、このお店ではずっと皆さんのご馳走になっていいかと云った。レナさんたちは泣き笑いのような顔でよろこんで、と頭を下げたが、私はそれはこの不思議な美女たちなりの社交辞令にすぎない、と思った。

    彼女たちと会うことは、おそらくもう二度とない。いや、申し訳ないがそうあってほしい。彼女たちの能力は、私たちの生きる世界とは別のところに存在するものだ。彼女たちの美貌にもう会えないのは残念だが、彼女たちと私たちの生きる世界は違う。違いすぎる。

 二人の美女はアキューくんと、こちらはお店の下のお嬢さんの知り合いだったらしい大沢くんとを店の隅に連れて行って、なにやらひそひそと話をしていた。二人の若者は困ったような顔をしていたが、女性たちが表情をひきしめてもう少し云うと、神妙な顔つきになってうなずいた。二人は満足げにうなずいて笑うと、私たちにかるく手を振って、さっさと行ってしまった。よほどきつく云われたのか、アキューくんたちは顔を見合わせて、がっかりしたようにうなだれあっていた。

 云わなければならないことがあったので、私はご店主たちのところへ近づいた。スーツはぼろぼろだしびしょびしょだし、ひどいありさまだったが、後になって云うのもはばかられた。あの美女姉妹もアキューくんたちも、私たちを守り敵をやっつけてはくれたけれど、なぜこのご家族が襲われたのかは知らないようだ。それを知っている私は、今それを云っておかなくてはならない。

 私はレナさんやご店主に、あの賊たちが北の兵士と思われること、私が公安警察の協力者として、北の国の工作員と接触していたことを告げた。おそらく北の連中は私と公安の関係を疑って私を尾行し、その過程でこの店に近づいたとき、大沢くんの云っていたセンサーのことを知ったのだろう。そこになにか不思議な力の持主がいるとわかって、それを亡き者にするか、あるいは手に入れようとしたのではないかというのが、私の仮説だった。

 皆さんを危険にさらしてしまって、ほんとうに申し訳ありませんでした。私はそのまま店の床に土下座した。建材や食器の破片が飛び散った床だったが、気にならなかった。こんなことになるとは考えていなかった。公共のためと思って協力してきたが、その結果がこれだ。気のいいご家族の営む居酒屋が破壊され、お嬢さんたちを危険にさらし、客を死なせてしまった。あのお客さんのご家族のところにも、行ってお詫びをしなければならない。

 ――それを云うなら、お詫びせねばならんのは我々のほうですな。ドアの外から男性の声がして、その場の皆が振り向いた。そこにはトレンチコートの男性が立っていて、渋い顔で店内をながめていた。


【ミノル-16】
 男は公安の松尾と名乗った。レナさんの妹さんが襲われ、アキューくんがそれを救けたときに、これを利用して北の連中のアジトを潰そうとしたのだという。それはパク氏の会社のことだった。公安は彼らがおとなしく事務所を引き払って国へ帰ってくれると思っていたが、思いがけず乱暴な連中だったらしく、このような意趣返しついでの拉致計画を立てたのだろうと説明された。

 公安はこの店にマークを置いておらず、気がついたときにはアキューくんたちの出番になっていて、せいぜい県警を押さえて騒ぎを大きくしないようにすることぐらいしか、できなかったのだという。どうりでずいぶんな時間、パトカーの一台も来なかったはずだった。たしかにこの修羅場に警察官が来たところで、けが人が増えるだけのことだったかもしれない。

    それを見越して大沢くんたちは、公安に手を回したのだろう。彼らがどんな組織の人間かはわからないが、こうして人々を守るために体を張る特殊な能力者が、公安警察と通じていたとしてもふしぎではなかった。

 宿も着替えも用意してありますから、と松尾氏に云われて、私たちは彼らの用意したマイクロバスに乗り込んだ。そこには何人かの寡黙な男女が控えていて、私たちはおっかなびっくりシートに腰かけた。ちょっと気まずいのでお店のご家族とは距離をとったが、なぜか隣にレナさんが座ってきた。

 カミさんへの電話を終えるのを待ってレナさんは、ありがとうございました、と私に向かって頭をさげた。よしてください、と私は云った。私のしていたことで、あなたがたを酷い目に遭わせてしまいました。ほんとうは彼女の顔を見られたものではなかったが、それでも私は彼女を見て云った。目をそらさずに云う必要があると思った。

    レナさんはしばらく私を見ていたが、やがて私の名前を呼び、またお店に来てくださいね、と云った。店が再開してももう来るまいと思っていたが、見透かされていたらしい。彼女たちのように生涯無料にはできないけれど、生ビールは無料にしてくれる、とレナさんが云うので私は、痛風が心配ですねと返事した。レナさんがくすくす笑った。


【CJ-12】
 CJの鏡に映っていたのは、どう見ても近所の人々だった。危険はなさそうだったので、CJは銃を腰の後ろにしまうと、陰から玄関へ進み出た。ドアの前にいたのは鍵束を手にした、アパートの管理人らしい老人と、心配そうに彼を見つめる人々だった。

 管理人のすぐ横にいた主婦らしい女性が、CJになにごとかを云った。日本語の話せないCJには何を云っているのかわからなかったが、その切迫した表情から、この人々は自分たちに出て行ってほしいのだろうと感じた。

 攻撃的な非難の調子ではない。むしろいざこざが起きるのを怖れているような、自分たちの安寧が脅かされて憂いているような、そんな感情が見て取れた。

 それをきっかけに、人々は口々に何かを云いながら、CJにすがりつくように近づいてきた。力ずくで排除するのをためらっていると、そのまま手足をおさえられたようになった。人々は口々にCJへ云いつのりながら、彼から少し遠いところにいる、いわば「2列め」の女学生に目をやっている。一見おとなしそうな少女だが、彼女が人々に指図しているのだろうか?

 おとなしそうな女学生はCJのほうをまともに見れないようだったが、ふいに意を決したように、叫びながらCJのほうへとびこんできた。CJと彼女を隔てていた何人かが、その声に呼応して彼女のために隙間をあける。

 その手にはハンドガンがあった。動けなくしておいて、至近距離から撃つつもりなのだった。


【CJ-13】
 人の群れで手元を隠し、至近距離から撃つ――その作戦が奏功するのは標的が人々の様子に狼狽し、女学生が「本命」だとわからなかった場合の話だ。

 CJは人々の目線から、女学生のところに何か「仕込み」があると気づいていた。さすがにハンドガンとは思わなかったが、CJはとっさに強く身をひねって位置を変えながら、自分にすがりつく住人を少女にぶつけるようにした。少女は体勢をくずしながらも彼に銃口を向けようとしたが、CJのほうが早かった。銃をもつ手に肘をあてがい、腕をからめとるようにして銃を奪う。女学生が発砲をためらったのが幸いした。とりあえず発砲するような相手だったら、場合によっては一撃もらってしまったかもしれない。

 CJに腕を振り払われた主婦や、他の何人かがキッチンナイフやらなにやら得物を取り出そうとしたが、彼は奪った銃を天井に向けて発砲し、人々の動きをとめた。CJの命を狙ったとはいえ彼女たちは素人で、自分たちから奪った銃を手にした白人の大男に威嚇されては、そこから反撃できるわけもない。

そのはずだった。

 どこかで声がした、とCJが思った瞬間、人々の眼の色が変わった。恐れの表情はそのままに、何かに駆り立てられるように――強制されたようにCJへ殺到した。


【CJ-14】
 自分にすがりついてくる人々に発砲するのは、さすがにためらわれた。これがもっと剣呑な状況なら、手近な何人かを撃って黙らせるところで、彼にとってはむしろそちらのほうが簡単ともいえた。

   CJは住人たちを振り払い跳ね飛ばすにとどめようとしたが、狭い玄関での揉み合いで、素人のしかも女性も多い中にあって思うにまかせない。腰の後ろの銃に手をのばされたのを払おうとした拍子に、誰かのナイフが彼の二の腕を裂き、押しのけた女性の顔に赤い飛沫がとんだ。廊下の住人の数は増えていて廊下が見えない。

 もみ合う様子を聞き取ったらしいディアナがリビングのほうから、殺しちゃだめよと声をかけてきた。なるべくな、とCJは叫び返しながら、怪我させるまでは許してもらおうと思った。さっきより少し腕や脚に力をこめて動き出そうとした、そのとき。

 突然、廊下の人びとが一斉に、横ざまに殴りつけられたように吹き飛んでいった。その様子に、CJは見覚えがあった。

 住人たちはなにが起こったのかと動きを止めたので、CJは先に動くことができた。彼はこの隙に住人たちを廊下へ押しやった。悪く思うな、という英語が通じたかはわからないが、とりあえず声をかけて小柄な少女は投げ飛ばし、大柄な相手は突き飛ばした。分散されると厄介なので、全員をさっきの、見えない衝撃に吹き飛ばされた人々のいる方――廊下の奥の方にまとめた。

 ひと息ついた彼は背後――人びとが吹き飛んでいったのとは反対側の廊下を見やった。そこには、金髪の白人女性が厳しい表情で立っていた。

    イケブクロ以来かな、嬢ちゃん――CJはにやりと笑って云った。


【アキウ-12】
 僕らが集めた魔力の1/3は、京都のお姉さまがたに持って行かれてしまった。これでもせいぜい値切ったのだけど、彼女たちに云わせれば半分もらってもいいぐらいの話だという。

 ――北のやつらに無辜の市民の命を奪われるばかりやのうて、自分らの(とサエさんは僕と大沢さんと指さした)身柄まで拘束されるところやったで。あんたら大失態もええとこやし、組織について尋問されて殺されて外交カードにされること思たら、安いもんやないの。

 ――公園で待ち構えていたらしい軍人さんたちも私らで面倒みましたさかい、皆さんが余計なお怪我することもありませんでした。そのことも…(サヤさんはそこでちょっと困った顔をしてみせた)今後のおつきあいも考えていただいたうえで、落としどころをもういっぺんお聞かせやす。

 あの事件の後、都内のホテルで「事務所」の人々との交渉が行われて、何時間かの後に決着した。僕と大沢さんも護衛役と「現場当事者である証人」として応接セットの後ろに立ち、その一部始終を見た。交渉後、とくに勝手にセンサーネットを作っていた大沢さんは上のほうから大目玉をくらったけど、それでも身を挺して市民を守ったということで、どうにか面目を保ったようだった。

 魔力の受け渡しがどのように行われたのかは知らないけれど、不用意なことをして彼女たちを怒らせることはなかったようだった。少なくとも「事務所」のメンバーは全員戻ってきたし、火傷や骨折もしてこなかったようだから。

 顛末を聞いた姫ちゃんの顔は曇ったけど、それでも僕や大沢さんの命に別条がなくてよかったと云ってくれた(ため息まじりだったけど)。

 せっかく回収した「トーキョー王」の魔力を減らしてしまったのは残念だったけど、実はいいこともあった。今回のことで京都に渡った魔力は「事務所」の表向きのストックから出してあった。さすがに完全に温存するのは難しかったけど、姫ちゃんから個人的に依頼されたメンバーの分は「事務所」に内緒のヘソクリ含めて、あまり目減りさせずにおいたのだ。

 今や「事務所」が回収した魔力の半分以上、僕や大沢さんをはじめとする姫ちゃん陣営が自由にできる状態になっている。

 この結果を見てみれば、今回の事件は姫ちゃんにとってむしろ僥倖だった。僕たちがそのことを報告すると、姫ちゃんは少し明るさを取り戻した顔で微笑み、そのうち京都にご挨拶に行かないといけませんねと云った。


【CJ-15】
    窮地を脱するきっかけを作ってくれたとはいえ、相手の素性もわかってはいない。右手の銃は床に向けていたものの、CJは油断なく身構えた。

    歳はディアナよりいくらか若いだろうか、ようやくハイティーンぐらいかと見えるその少女が自分の想像どおりなら、彼女こそがイケブクロの少年たちが云っていた「金髪のガイジン」、彼らの仲間から超自然的な力を奪い取った張本人だ。

 ということは、自分たちとは同じ対象を収集する、いわば商売敵である。さらに云えばイケブクロのギャングの頭目を、一撃で昏倒させた能力者でもある可能性がきわめて高い――イケブクロに能力者が大勢集まっていたのでもないかぎり。

    あらお気づきでしたのね、と少女は、CJが聞いたこともないような気取った調子で云った。もはや方言にさえ聞こえるほどの正調クィーンズ・イングリッシュとは、よほどの血筋であろうか。ショートパンツにオーバーニー、Tシャツにパーカーという出で立ちは、せいぜい庶民の海外旅行に見えるようにというカムフラージュのつもりだろうか。

    連れがお嬢ちゃんに間違われたおかげでひどい目に遭ったぞ、とCJは油断なく彼女をにらみながら云った。少女の姿をしていても気を抜くことはできなかった。彼の推測が正しければ、あのとき自分たちを助けたのと同じ攻撃を、今度は自分が受ける可能性があるのだ。彼は見えない攻撃のあらゆる兆候を見逃さないよう、少女の所作と周囲の気配に感覚を研ぎ澄ませた。

    助けてさしあげたのにご挨拶ですわね、と少女は不満げに胸を反らせた。パーカーの布地を勢いよく押し上げる胸のふくらみが、存在をさらに強調するように持ち上がる。口をとがらせる様子は少女らしいが、発育はたいしたものだとCJは思った。

 濡れ衣でご迷惑をおかけしたから手を貸してさしあげましたが――と、笑いながら少女はそこで言葉をきった。

 ――ですが、目的が同じなら少々困ったことになりますわね。

 その瞬間、彼女の端正な顔立ちにあやしげな翳りが走ったのをCJは見た。


【コウ-12】
 指定された駐車場にクルマを置いて、スーに指定された場所へ歩く。クルマでの道中は気が気じゃなかったが、周囲のクルマに注意をしていたかぎりでは、尾行の心配は少なそうだった。

 これで尾行がついていたら、あのオネーサンのバックには大きな組織があることになるだろう。だが大きな組織が控えているとしたら、そもそもオネーサンたちはあんなことにもならず、とっとと救援が来て囲んでいた連中を蹴散らしていたはずだ。したがってオネーサンたちが動員できる組織的なバックアップはないか、あっても小さいはずなのだ。

 …たぶん。

 どうにか自分を納得させながら、それでもちょっと背後を気にしながら歩く。いったんコンビニに入って雑誌を立ち読みする。自分の後に入ってきた客をチェックしながら、店の周囲に立ち止まっている人がいないか見る。

    怪しい動きがないのを確認すると、スマホのメールをチェックするふりをして、友達からメールが入っていたことに今になって気づいたふりをして、電話をかけるふりをして、友達と話すふりをしながら急いで店を出た。これであわてて店を出てきたやつがいたら、そいつは僕を追いかけている可能性が高い。

 もちろんコンビニから急ぎ足で出てくる客はなく、単に僕は一人芝居をして商店街に戻っただけだったが、僕はもういっぺん別のコンビニに入って、同じことをした。僕と同じように、一晩で二回もコンビニで立ち読みするやつがいたら、これは相当に怪しいけれど、もちろんそんなことはなく、僕は多少の時間をつぶしたにすぎなかった。

   指定された場所はラーメン屋で、スーは食べ終えたつけ麺の器を前に、女性限定サービスらしいデザートの杏仁豆腐を食べているところだった。遅かったですね先輩、とスーはにやにやしながら云った。僕はスーの隣に腰かけて顔を寄せると、おまえは何を知っているんだ、と訊ねた。スーはスプーンをくわえたまま目で笑った。

*Tokyoking*

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