トーキョー王(アキウ-16)

 大沢さんと僕とが訪問し、なんだか異様な気配を感じていたあの団地――その異変に「事務所」が気づいたのは、週刊誌に記事が出る直前のことだった。

 あの団地では何人もの失踪者が出ていて、なのに団地の人々はそのことについて口を閉ざしているのだという。団地に住む子の同級生の発言として「ちょっと変な感じの、警備員みたいなことをするオジサンたちがいて怖かった」と書いて、「閉ざされたコミュニティの中で何が」的な話になっていた。

 記事を読んで僕と大沢さんは、そりゃまあそうだろうなと顔を見合わせて苦笑しあった。どこぞの軍隊にいた人が警備員まがいの態度をとっていれば、誰だって変に思うよね。

 僕らがあの団地に注目していたのは、大沢さんの〈実践魔法研究会〉のメンバーが住んでいるところに近くて、そこに設置されていたセンサーがしばらく前から微弱な反応を拾っていたからだった。とはいえ何か異常事態があったわけでなし、大沢さんのセンサーネットも朝霞の一件があってからこっち運用を停止していたので、いわば捨て置かれていたのだった。

 ところが週刊誌ダネになると聞いて「事務所」のメンバーが見に行ったら、窓は破れてるし廊下の壁や天井には明らかに弾痕があるし、なにより複数の魔術の痕跡があった。魔術を使う誰かと、どこかの武装勢力との間でいざこざがあったのは疑いなかった。

 大沢さんはそれ見たことかと言わんばかりだった。〈魔法研究会〉を使ったセンサーネットが生きていればリアルタイムで異変を捉え、〈トーキョー王〉がらみかどうかはともかく剣呑な魔術勢力を特定、場合によってはその場で排除できたかもしれない。とはいえ朝霞のご家族のように、知らないうちにセンサーネットに参加していて危険な目に遭うこともあるのだから、大沢さんか全面的に正しいとも言えなかった。

 なんにせよ、僕たちは完全に出遅れてしまった。「事務所」の上層部には頭痛の種が増えた。朝霞の事件の始末として、ストックした魔力の一部を京都のご姉妹に引き渡したうえに、今度はこの失策だ。国の上のほうで「事務所」の立場はよくないことになったらしかった。*Tokyoking*

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