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2019年5月5日 12:54
【コウ-15】 ヤクザの発砲と交通事故と犬の大脱走という、映画みたいな大騒ぎの渋谷から幡ヶ谷に移動した僕は、スーの運転するデミオに乗せられて環七を南下した。このままスーの家にでも連れて行かれるのかと思ったら、そこは洗足あたりの中華料理店だった。けっこう年季の入った、いわゆる街中華のお店で、まあなんというか正直ボロい。 つけ麺の後でおまえまだ食うのかよ、と呆れる僕を無視してスーは店内に入った。
2019年4月26日 17:19
大沢さんと僕とが訪問し、なんだか異様な気配を感じていたあの団地――その異変に「事務所」が気づいたのは、週刊誌に記事が出る直前のことだった。 あの団地では何人もの失踪者が出ていて、なのに団地の人々はそのことについて口を閉ざしているのだという。団地に住む子の同級生の発言として「ちょっと変な感じの、警備員みたいなことをするオジサンたちがいて怖かった」と書いて、「閉ざされたコミュニティの中で何が」的
2019年4月24日 07:36
――さあ、一座の始まりだ。 〈察知と通信〉の男は宣言した。 彼らが荒川区の自動車修理工場に構えたアジトは、〈隠蔽と遮断〉の力に守られていた。若い隊員は自分にはたいした力がない、と云っていたが、その力は攻撃的でないというだけだった。 一座という言葉に、何か演劇でも始めるのだろうかとスリンは訝ったが、その意味はすぐにわかった。 彼らの〈プランB〉は、荒川区に住む一人の少女だった。私立小学校
2019年4月20日 10:01
【サヤ-11】 渋谷で私たちを襲った男たちと、クルマに細工をして運転手さんに怪我をさせた犯人はつながっていた。スーツおじさんの報告を聞くとサエ姉さんは、たいして興味もなさそうにうなずきながら、そんで私らどうしたらええのと彼に訊いた。 全焼か、それとも丸焼けか、と爪を磨きながら訊くその様子は、なんだか悪の親玉みたいだと私は思った。こういう興味なさげな態度のサエ姉さんは、とても怒っている。
2019年4月16日 20:17
【アキウ-15】 幸いなことに、僕たちのストックしておいた魔力--実際にはそれらを宿した御札やら鏡やらといったアイテム類だけど、それらに高井さんたちが手をつけた形跡はなかった。 もともと高井さんたちのチームは姫ちゃんに近かったけれど、大沢さんや僕のような意味では「姫ちゃん陣営」ではなく、ちょっと遠ざけられていたんだ。なんというか、姫ちゃんを大切に思うのはいいんだけど、どうにもそれが行き過ぎ
2019年4月12日 07:17
【アキウ-14】 事務所あてに送られてきたURLへアクセスすると、高井さんとそのチームの皆さんが映った動画だった。 なぜか全員アフロ…というか、なんか焦げたみたいにアタマがチリチリになっている。 それぞれスマホの画面をのぞいていた大沢さんと僕は、目をあげて顔を見合せた。なんだこりゃ、という大沢さんの片頬がひきつっている。イメチェンですかね、と僕は吹き出しそうになるのをこらえながら云った
2019年4月12日 00:05
【CJ-22】 金髪の少女は床の「少年王」――もはや「元・少年王」と云ったほうがよいかもしれない彼にもう一度、恥を知りなさいと厳しく云った。暴力の論理を支持する者たちに暴力で応じてはあなた自身が、その論理を支持する者になりますのよ。 英語が通じるようではなかったが、彼女も期待はしていないようだった。云うだけ云うと興味を失ったように踵を返し、このような者の力は喜んであなたがたに差し
2016年8月28日 15:25
【CJ-16】 CJがいくらか頭を下げて前傾した直後、廊下の壁のところで大きな音がした。見ると彼の頭の高さぐらいの壁に、拳ほどの大きさのへこみができていて、壁材が剥がれ落ちていた。 やはり「横殴り」か、とCJは思った。彼女の見えない<武器>が、自分の左――窓側から彼の頭を襲ったのだ。 ディアナが、あわてた様子で部屋から出てきた。いつも危機感を見せない彼女が、今は固い表情
2016年8月7日 17:37
【アキウ-11】 気がついたとき僕はお店の床に寝かされていて、もう全てが終わっていた。前に会ったときと同じ、自信満々の笑みをうかべた京都のご姉妹の姿を見て、彼女たちが状況を――やりかたはどうあれ収めたことがわかった。 京都のお姉さんがたに連絡しておいたのは、僕の「保険」だった。あからさまな態度の敵はきっと実力に自信をもっているのだろうし、もし僕たちより強い相手だった場合には、ご姉妹が切り札に
2016年6月25日 15:01
【コウ-8】 下の交差点で悲鳴があがったとき、最初は何が起こったのかわからなかった。急ブレーキのきしむような音、クルマのぶつかるがしゃんという音、そしてパンパンと――銃声? なんとも物騒なことだと、とりあえず安全なカフェの席で僕は思う。客たちは窓際に集まってきていた。窓際のカウンターに座っていた僕のところにも、見る間に人が張りついてくる。眼下の道路では一台のクルマが立ち往生、その周りにいくら
2016年5月30日 21:34
【ミノル-11】 出社したとき松尾さんがコーヒーを淹れてくれて心が和んだが、部長から預かったという茶封筒を渡されて、いくぶん心が沈んだ。封筒に入った書面には、私が行きつけにしている居酒屋の二階住居に賊が押し入ってその家のお嬢さん、就職活動中のレナさんではなく下のほうのお嬢さんを襲ったことが書かれていた。 賊は家族によって窓から叩き出され、下を通りがかった大学生によって取り押さえられたのだが、
2016年5月2日 22:07
【CJ-5】 不良少年というには可愛げのないその男はCJに向かって、もう一発くらう前にお嬢さんをおいてどこかに消えてくれないか、という意味のことを、ひどく口汚い英語で云った。自分が力を分け与えた「あいつら」と東京をものにしようとしていたのに、とんだ邪魔が入ってしまった、と吐き捨てる。 おまえの友人たちに何があったか知らないが我々は無関係だ、と身構えたままCJは返答したが、男はそれをさえぎるよ
2016年2月20日 08:57
【コウ-6】 トーキョー王?なんだそりゃ、と僕は思った。トーキョー王に、オレはなる!と両の拳でテーブルを叩きながらキャラっぽく云うと、スーは露骨にげんなりした顔をした。だがスーよ、その顔をしたいのは僕のほうだぞ。夜のファミレスで、お前はなにを云っているんだ。 スーが云うには、こないだ僕がplagでスプレッドしたカードには、何か強力な魔法がかけられていたのだという。そのカードには「これを引き抜
2016年1月21日 09:05
【アキウ-4】 ――トーキョー王を、探してほしいのです。講義室を出ていこうとする僕を呼び止めて、話したいことがあるという姫ちゃんの隣に腰かけた僕は、自分の耳を疑った。姫ちゃんは、正確には「トーキョー王になるはずだった人」というべきでしょうねと訂正した。訓練されたやわらかい微笑みに交じるわずかな困惑は、たぶん僕たちみたいな、彼女の表情を見慣れた者にしかわからない。 姫ちゃんは僕の名前を呼んで