安堂全部

嘘です

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最近の記事

【短編】念には念を入れて

逆にもうクリスマスとか全然関係ないものを * 万一何かあっては困ると思い、念のため彼はあらゆるメッセンジャーツールから自分のフルネームを削除した。クロゼットの中から3番目に洒落たジャケットを選んで着てから街に出向く。念には念を入れて眼鏡をかける。 「どうして名前の欄が空白なの?」 その日初めて会った相手に彼は言った。 「人によって人の呼び方が変わるからね。君の好きな呼び方で登録すれば良いのさ」 彼は目を見ずに言葉を放ち続けた。声こそ小さいが、それは結構上等なピアノ演奏の

    • 【短編】月曜日母殺人事件

      【このお話ができた経緯】 みなさんも1度や2度くらいあるんじゃないでしょうか? * 母が死ぬ。 というか殺すのだ。 午後の陽ざしは柔らかく、のどかだ。まったく月並みな表現だが、そう思ってしまったのだから仕方ない。白い蛍光灯ではなく、オレンジの暖かい光は脳を揺さぶるほど幸福だった。携帯の中で積み重なる不在着信の履歴は、負ける寸前のテトリスみたいだ。目を背けて、身体を横にして肩までコタツに入る。 洗濯機の呼ぶか弱い音で目を覚ます。「うぅ」と唸り声だけが漏れる。干さないと。

      • 【短編】LTEのハロウィンマーチ

        空気がもったりと湿度を含んでいた頃が信じられないほど、乾いた風の吹く夕方だった。雑誌やテレビを見て急いで厚着を始めたような人以外にとって、その日は薄ら寒くて居心地が悪かった。暗くて陽の光の少ない季節が迫ってくると思うと憂鬱だった。気軽に外で本を読めなくなるな。僕は窓から刺す弱弱しい西日に目を細めながらそう思った。窓ガラス越しにノイズのような振動音が聞こえる。 いや。凍える闇の中で孤独に珈琲を啜るのだって悪くない、とも思う。1年にせめて1度くらいは闇夜の不満足が必要な気もする

        • 【エスエフメルマガ】ずずずマガジン vol.29

          ずずずマガジン vol. 29 ー古着屋ZZs のメールマガジンー (2037.09.19 10:15) ◎再入荷【UBER EATS バックパック】 >>VR試着はコチラから<< 平成の終わり頃に日本でも静かなブームを見せたUBER EATS のポーターバックパック。レプリカでなくホンモノです! まだ自転車で配送していた頃、昔懐かしいiPhoneを頼りにご飯を届けていた時代に実際に使われていたリュックタイプの鞄です。密かな人気を誇る商品でしたが、待望の再入荷

        【短編】念には念を入れて

          【短編】オータムコインクロス

          「一応きいとくけど」男はようやく口を開いた。「きょうはホテルとか行く?」一応ね、と男が付け足す前に「行かないよ」すぐさま女は否定した。 【このお話が出来た経緯】 物語や文章の様相について考えることが増えました。露骨な表現に行間はないのだろうか?あるいは露骨なフレーズの応酬で未言語化の情報を伝達することは可能だろうか? そんな疑問を検証するべく作りました。どうかな。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

          【短編】オータムコインクロス

          【短編】形而上の僕私、あるいは

          【このお話が出来た経緯】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この散文の筆者は架空の人物になりえる。 というのもこれはペンネームだからだ。僕つまり「安堂全部」は僕自身が作りだした実体のないキャラクターである可能性を否定できない。「僕」と「安藤全部」をそれぞれ相互的に参照することは容易ではないからだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー * 僕は世田谷に住んでいる。2人の娘がいる。昨日は家族4人で海

          【短編】形而上の僕私、あるいは

          【短編】ISO感度51200の朝

          またこんな朝が来た。こんな朝が来たのかあるいは、こんな朝に僕がまた来てしまったのか。いずれかは定かではないし、どちらでも構わない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【このお話が出来た経緯】 早起きは気持ちの良いものです。にも関わらず、夜更かしの延長線上にあるその朝は居心地が悪い。あんなにも息苦しいのはどうしてでしょうか? (2018年 8月16日) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー またこんな朝が来

          【短編】ISO感度51200の朝

          【短編】ピーチ・ガール

          【このお話が出来た経緯】 みなさんは浮気とかしていますか? いえ、僕は当然しないんですが。ただ僕の回りは良く言えば性に寛容、脚色せずに正直に言えば物凄く異性関係にだらしのない人間ばかりなんですよね。 色々と話を聞いていくと、みなそれぞれ最悪を最悪で煮詰めたような最悪の極みなのですが、なぜか筋だけは通っている。僕よりも遥かに言語能力の優れた彼ら彼女らは言葉巧みにモラルの境界を曖昧にして自身の行為を正当化してくる。酒を飲んでいることも助けてか、僕はいつの間にか彼ら彼女らの強

          【短編】ピーチ・ガール

          【短編】映らさない日

          【このお話が出来た経緯】みなさんはSNSを使いますか?僕は結構やってる方です。言い尽くされた手垢まみれでn番煎じの指摘ですが、SNSにとらわれてしまう人っていますよね。でもちょっと待ってください。 **何でも投稿、シェア、アーカイブする世の中だからこそ、見せない部分が重要になるのではないでしょうか? **Webが広まり過ぎて逆にテレビや紙媒体の方が価値を持つ瞬間ってありますよね。そうした現象が、実は個人レベルで起こっているのかもしれません。 Webが世の中を支配し、そ

          【短編】映らさない日

          【短編】合法的タンポポのススメ

          【このお話が出来た経緯】 筆者は煙草がやめられません。しかし百害あって一利くらいしかないものですから、やめるに越したことはありません。それくらいは分かっています。とはいえこれは習慣なので、簡単に絶つのも難しいのです。 そんな僕の「他に何か別の物を吸えば良いのでは?」という、どうしようもないアイディアを形にしました。畢竟どうしようもないお話です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 親指をいくら引き下げても更新物は無かった。 夜のこの時

          【短編】合法的タンポポのススメ

          【短編】サマービート

          これは2018年4月に報じられた「叡智学園が生徒の健康管理にウェアラブル端末の着用を義務付ける」というニュースを元にして書いた愉快なサイエンス・フィクションです。 ―――――――――― 話は平行線。あるいはエッシャーの騙し絵だった。コイツは同じ頼みを何度も何度もした。僕は何度も断った。放課後の時間は貴重な時間は待ってはくれない。無理なものは無理だ。早く納得して帰してくれないかと僕は途方に暮れていた。 「こんな小さな中学のデータベース、君なら簡単にクラックできるでし

          【短編】サマービート