ファントム・キャリッジ(7)

7. ハイウェイ・トゥ・ヘル
アルテミス・サーキュラー・ウェイを怒りを込めて疾走する一台のバイクがあった。トビカワである。自らの手でファントム・キャリッジを滅ぼすため、後先考えない一騎打ちに出たのである。トビカワの脳内はブルータル・ベルセルク・ゾクの栄光が燦然と輝いていた。確実にファントム・キャリッジを殺す。その一念だけがトビカワを動かしていた。

ランプからハイウェイパトロールのバイクがアルテミス・サーキュラー・ウェイに進入してきた。トビカワはあえてスピードを下げ、懐からナイフを取り出し、ハイウェイパトロールに向けて投げつけた。ナイフは銀の軌道を描き背中に刺さり、ハイウェイパトロールのバイクはウィリーし転倒した。それを確認したトビカワはしめやかにハイウェイパトロールに接近ショットガンを奪い取り再び走行を開始した。

「待ってろスカムアーバンレジェンド! 今夜が最後のドライブだ!」

 ただならぬファントム・キャリッジを破壊する意志を見せ、アルテミス・サーキュラー・ウェイを走った。ただひたすらに走った。やがてトビカワの目に黒ずくめのスーパーカーの姿を確認する。ファントム・キャリッジだ!

「これで終わりだ! スカムアーバンレジェンド!」

 トビカワはニトロブーストで急接近! ファントム・キャリッジの後方のポジションに陣取り、ショットガンを構える!
 そして後部ガラスに向けてショットガンを連射! ひび割れが目立つファントム・キャリッジの後部ガラスもこれには耐えられず後部ガラスは粉砕された!
 ショットガンを投げ捨てたトビカワはC4爆弾を取り出しファントムキャリッジに投げ入れようとするが、ここでファントム・キャリッジはスピードを下げトビカワと並走体勢! 再び鋭いスパイクがせり上げようとするが……途中で停止! それでもかまわずタックルを仕掛けようとする! トビカワはC4爆弾を起動! 自らファントム・キャリッジに接近した! 重なり合うファントム・キャリッジとトビカワ! だがその瞬間! ハンマー打撃で弱くなっていた窓ガラスをトビカワは殴って割り強引にC4爆弾をファントム・キャリッジの座席に押し込んだ! そのままトビカワは壁に押し付けられる直前にC4爆弾が爆発! トビカワもろともファントム・キャリッジは吹き飛んだ!
 そしてアルテミス・サーキュラー・ウェイは一時の静寂に包まれていた。ただ伝説の終焉を意味するかのように黒煙が吹きあがり燃えるファントム・キャリッジがそこにあった。

8.エピローグ

 ……数日後。アルテミス・エンタープライズ社、サッポロ旗艦オフィス。保安部の上級社員タコナベは仏頂面で書きあがった『アルテミス・サーキュラー・ウェイの暴走事件報告書』のPDF文書を見つめていた。アルテミス・ハイウェイ・パトロールが駆け付けた時には既にファントム・キャリッジは爆発炎上していた。残骸を速やかに回収したが、損傷がひどいため何者かが操っていたのかがわからなかった。ブルータル・ベルセルク・ゾクのメンバーは蜘蛛の子を散らすように逃げ去り、救助されたサクラバは病院で意識を取り戻したが酷く狼狽しており、事情聴取は不可能だった。デビルレイとウィルバーはアルテミス・エンタープライズ社内施設待機を命じたが、既にデビルレイは姿を消していた。

「デビルレイ、この借りは高くつきますよ?」

 タコジマは誰ともなくつぶやいた。

…ウィルバーはアルテミス・エンタープライズ社内施設で一時的待機を命じられていたが、それは昨日までの話だ。今日から再びドライバーとしての仕事に復帰の命が下った。ウィルバーは優秀なドライバーだからだ。彼としては辞表の提出も考えたのだが、上司に引き止められ、このドライバーの仕事を続けることになったのだ。
 しばらくの待機時間にアルテミス・エンタープライズ社内庭園をにわざわざやってきて、暇をつぶしていた。考えることは数日前のアルテミス・サーキュラー・ウェイの出来事であった。デビルレイは一体何者だったのか。彼には何もわからない。
 その時端末から発信音がした。不明な着信者。奴だ。デビルレイだ。素早く電話の通話キーを押した。

『……フヒヒ……運転手さん……またどこかで会おう』そしてそのまま着信が切れた。

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