サムライ・ダンジョンブレイカー(1)

0.

 ダンジョン! 果て無き欲望が交差する冒険者の坩堝! 冒険者を魅了してやまないダンジョンに今日も一人の冒険者が現れようとしていた!

「冒険者登録をしたいのだが、ここで間違いないでござるか?」
「はいここが冒険者登録カウンターですよ」
 遥か東方の地より来たサムライの青年が冒険者ギルドの美人受付嬢に尋ねる。受付嬢は手慣れた調子で冒険者登録手順を説明しサムライは従順に正規の登録手順に従い行動した。瞬く間に冒険者登録は最終工程にたどり着いた。
「これがあなた用の冒険者カードです。紛失しないように気を付けてください」
 受付嬢から薄いミスリル製の冒険者カードを受け取ると、サムライは笑顔で冒険者カードを優しく撫でてからそっと懐にしまった。
「これで拙者も冒険者の一員でござるな! そう考えると腕が鳴るでござるよ」
 サムライの名はテツゾウ、遥か東方の地から仕事を求め流れてきた主を持たぬローニンである。

1.

 テツゾウは冒険者ギルドに登録してしばらくの間はソロで簡単な仕事をこなし続けた。今はない主家の仕事に比べると比較的困難な仕事だが、テツゾウはやりがいを感じていた。少しづつテツゾウは冒険者ギルドの中で名前が売れ始めつつあった。
 ある日冒険者ギルドの掲示板にテツゾウは魔物退治の依頼を発見した。報酬も申し分ない。テツゾウは即座に受託することを決定した。
早速、ギルドの受付嬢に依頼の内容を聞き、依頼を共にする冒険者仲間と落ち合うべくテツゾウは依頼場所に赴くのであった。

 依頼場所は地方都市の冒険者ギルド支部の一室であった。テツゾウが入室すると、既に3人の冒険者が入室していた。浅黒い肌をした鋭い目つきをした小男、赤毛のドワーフの女性、メガネをした学者風の女性だった。――どの冒険者も実力者ぞろいだ。テツゾウはそう思った。
「お前が東方より流れてきたという、ローニンの冒険者か?」
 鋭い目をした小男がぶしつけにテツゾウに話しかけてきた。
「如何にも、拙者東方から参った、サムライのテツゾウでござる。冒険者殿、よくご存じで?」
「お前みたいに東方から流れてきたローニンは何人も知っているからな……わざわざ冒険者になるなんて相当食い詰めたローニンだな?」
「否定はしないでござる」
「まぁいい、俺はクーガーだ。短い付き合いになるだろうがよろしく頼む」
 腕を組みながらクーガーは暗にテツゾウに着席を視線で促した。テツゾウはクーガーに従った。
「アタシの名前はブリギット・クロムフェルト、戦槌士とルーンスミスをしている。よろしくな」
 ブリギットはテツゾウに会釈をした。
「こっちはエリーン、見ての通り魔術師さ、よろしくしてやってくれ」
「エリーンです。よろしくおねがいます」
「こちらこそよろしくでござるよ」
 エリーンとブリギットにテツゾウは愛想よく会釈を介した。こうした小さな行動が依頼の成功率に影響するのだ。
 会釈した後は会話らしい会話もせずただ依頼者が来るのを首を長くして待っていたが、ようやく扉が開き依頼人らしき地域の有力者面した男が現れた。
「冒険者の皆さん、こんにちは。私が今回の件の依頼主のアルフレッドです」
「御託はいいから、依頼について話してくれないか」
 クーガーは鋭い目で依頼主を威圧する。
「今回の依頼については外道魔術師の退治をしてほしいのです」
 ――外道魔術師! 冒険者たちの空気が戦慄が走った。

 魔術師は世界の真理の探究者である。それ故に真理を探究する過程で容易く外道に堕ちるのだ。外道魔術師は冒険者の普遍的な敵のひとつである。
「実は私めの村の共同墓地が外道魔術師に占拠されてしまい困っているのです」
 アルフレッドは深刻な表情で語る。
「最初は村の腕ずく数人が排除に乗り出したのですが、相手はスケルトンをけしかけてきて、腕ずくはひとたまりもありませんよ」
「なるほど相手は死霊術師か……厄介だな」
 クーガーは歴戦の冒険者らしい分析をした。テツゾウは対照的に怒りの表情を隠そうと努めていた。村人の憩いの場を身勝手に占拠するとは許しがたいとの感情がテツゾウの心の中に煮えくり返りそうであった。
「えぇ、外道魔術師が村の共同墓地に何の用か知りませんが困っているのです。報酬には色を付けておきますので何とかしていただかないでしょうか?」
「まぁ、いいだろう、ほかの三人も異存はないだろう?」
「アタシは構わないぜ」
「エリーンも構いません。外道魔術師を捨ておくわけにはいきません」
「拙者も、無力な村民の力になりたいでござるよ……」
 三人も異存はないと意見を表明した。契約の成立である。アルフレッドは胸をなでおろしていた。

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