落武者一刀両断

  フラワーショップゆいの一人息子、由比タカユキは悩んでいた。悩みといってもお小遣いとかの問題ではない。彼の体質の問題であり、早い話がタカユキはある幽霊に憑依されているのだ。花屋と冠婚葬祭の関係は深いとはいえ幽霊に憑依されているのはいかがなものかとタカユキは思うのだが、タカユキに憑依しているのはそこらへんの幽霊とは格が違ったのである。

((タカユキよ! 今こそ憎き徳川を討ち果たし我が主君の無念を果たすのだ!))
「おじいちゃん、徳川幕府はとっくの昔に倒れましたよ」

 そう、タカユキに憑依している幽霊は時代錯誤の落武者だったのだ!

((何故だ、タカユキ! 我とタカユキはいわば運命共同体ぞ!何故我が主君の無念を理解できぬというのか!?))
 落武者はタカユキの惰弱小学生ぶりを嘆いた。そんなこと言われても戦国時代は遠い昔のことだし……亡き主君のことを考えても現代と価値観が違い過ぎてあまり共感できないなぁとタカユキは思う。故にタカユキは落武者をスルーしてテレビをつけた。適当にチャンネルを回し地域情報番組に落ち着いた。
 しばらくタカユキは平穏な地域情報を視聴していた。落武者も落ち着きを取り戻しつつあった。そしてCMに入った時事件が起きた
『名護山タワービル!もうすぐ開業!開業記念イベントは狸穴信家市長も来場予定!』
新しくオープンする商業ビルのCMであった。市長来場情報を入れる必要はあるのかとタカユキは思ったその内容はなんてことのないCMだったが、落武者はカッと目を見開いた!
((憎き徳川か……ここであったが百年目……その首を我が亡き主君に捧げるのだ……これこそが忠義の報い!))
「おじいちゃん、落ち着いて! その人は徳川家の人じゃない! ただの一般市民だ!」
((徳川の匂いがプンプンしよるわい! 腕が鳴るわ!))
落武者はすっかり斬るモードに突入していた。こうなったら止められる人はいない!

【続く】

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