チェスト探偵対12月24日の怪人 #パルプクリスマスアドベントカレンダー2020

【事件編】
「チェストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」

 白昼! 平和な住宅街に響き渡るチェストの声! すわ大事件か! 否! これはチェスト探偵サツマのチェスト素振りである! 説明しよう!チェスト探偵サツマはチェスト感覚を鈍らせないようにチェスト素振りを毎日の日課としているのである!

 チェスト探偵サツマは一チェスト素振りを終え、満ち足りた心で愛木刀を見つめていた。コンデションは万全だ。問題ない。怪事件よいつでもチェストしてくれよう。サツマはチェスト素振り後のコーヒータイムに興じるため薩摩切子の呼び鈴を鳴らした。するとにゅっと半ズボンの探偵助手がエントリーした。
「サツマ先生、何か御用ですか?」
「チェスト素振り後のコーヒーを一杯所望致す」
「かしこまりました」そういって一瞬、姿を消すと数刻後にはコーヒーを持って探偵助手が再び出現した。サツマはコーヒーを受け取るとコーヒーの苦みを味わう。サツマの推理力が温まっていく。
「今日も平和だ。コーヒーが上手い」
「サツマ先生、そんな平和な日常が続けばいいのに……」
 そこに探偵事務所の扉がものすごい勢いで開かれた。刑事らしきコートの男が飛び込んできた。
「サツマ先生! 出馬願いたい案件があるのでごんすが! 今暇をしてるでごんすが!」
「おぉ、どうしたのだ、古泉刑事よ。また警察の手に負えない怪事件があったのか?」
古泉刑事は泣きそうな顔でサツマの顔を見た。
「実は奇怪な殺しがあったでごんす!犯人が皆目見当をつかないのでごんす!」

古泉刑事はサツマに事件の一部始終を話した。要領を得ない話し方のため要約するとこのようになる。
 真夜中に娼婦が殺された。事件現場は無茶苦茶に荒らされていた。娼婦は恨まれていたので物取りか怨恨の両面で捜査しているが確証が出ない。ここでチェスト探偵サツマの出馬と相成ったというわけである。
「私が犯人候補を尋問すればいいのだな」
「そういう訳でごんす! サツマ先生の推理力だけ頼みでごんす!」
「仕方ない私の力を貸そう」
 このようにして奇怪な娼婦殺しの謎を解き明かすことになったのである。

【尋問編】
 古泉刑事に連れられて取調室にやってきたチェスト探偵サツマは手には愛木刀を携えている。
「古泉刑事にはこれから尋問をしていただく。その間私は木刀を素振りする。尋問を受けた者の言葉に二心あれば即座にチェストすることになります」
「分かったでごんす。この尋問はサツマ先生の推理力が問われるでごんすね」
 古泉刑事の了解を得たところで取調べを始めることになった。

取調室にやってきた、一人の男がいた。中に入った瞬間異様な雰囲気を醸し出していた。
「荒垣さん、こちらはチェスト探偵サツマ先生でごんす。少しうるさいですが気にしないでください」
「どうもチェスト探偵サツマです」
チェスト探偵サツマは木刀を片手に軽く素振りをしながら荒垣にアイサツをした。
「荒垣さん、つかぬ事をお聞きいたしますが先日の夜、どちらの方にいたでごんすか?」
「先日の夜は、ずっと部屋にいた……ぜ」
 ここで荒垣は信じられないものを見た。チェスト探偵サツマがブゥンと木刀の素振りし始めたのです。
「古泉刑事さん、すみませんがチェスト探偵のサツマさんは一体何をしているのです。」
「ただの素振りでごんすよ」
「そ……そうですか」
「で、荒垣さんは部屋で何か電話をしていたようでごんすが、どちらに電話をしていたでごんすか?」
「酒屋のポールに電話していたんだ……ウワッ!」
その瞬間、サツマは瞬時に荒垣の近くに立ち、ギリギリ当たらない位置で素振りをしたのだ! ブゥン! その素振りから発した剣圧は荒垣の魂に冷や汗をかかすのには充分であった。
「刑事さん! なんですかこれは……サツマさんの素振りで発した空気が背中に伝わっているんですが」
「素振りでごんすよ」
「アッハイ、ただの素振りですね」
「それで酒屋のポールとやらにどんな会話をしたでごんすか?」
「そうそう、酒屋のポールがおかしなことをわめいていたんですよ。変なサンタクロースみたいな恰好をした男が騒ぎをおこしたって……」
 その瞬間、荒垣はサツマと目が合った。身も心も凍り付くような鋭い目つきで荒垣を見つめていた。
「ヒィッ……ポールの情緒が不安定なようだから、なだめすかして電話を切って、俺は疲れ果てていたんだ。俺はベッドで眠っていたら娼婦が殺されたという電話がされたんだ」
 荒垣はもう帰りたかった。
「なるほど、そういうことでごんすか?」
「俺が話せるのはここまでだ。だから早く帰らせてくれ!」
「わかったでごんす。お気をつけて帰ってくださいでごんす」
 荒垣は古泉刑事の言葉を聞く余裕もなく逃げるように取調室から去っていった。

「サツマ先生、どうでごんすか?」
「荒垣の証言で出て来た。サンタクロースのような恰好をした男が気にかかるな」
「酒屋のポールに話を聞くでごんすか?」
 古泉刑事はサツマに向けて指示を仰いだ
「酒屋のポールに関しては古泉刑事に任せる。私は犯人に対して罠を張る。恐らく再び犯人は犯行を犯すだろうからな」
 罠を仕掛けたチェスト探偵サツマ、犯人はサンタクロースの恰好をした男なのか!?

【解決編】
 真夜中のアパートの一室。恐るべき殺人鬼が窓を器用に外し室内に侵入してきた。殺人鬼が何の目的に部屋へ侵入してきたのか? 無論、人を殺すためである。首尾よく殺人鬼はお目当ての人間を見つけ、ナイフでめった刺しにしようとした瞬間、突然部屋の電気が付けられた。
「引っかかったな、連続殺人犯!」
 驚きたじろぐ殺人鬼の前に不敵に現れたのはチェスト探偵サツマだったのだ!
「娼婦を殺したのはお前だな!」
 サツマは殺人鬼に真相を突き付けた!
「酒屋のポールが全部喋ってくれた。酒場でモテない男にひがみを爆発させて騒ぎになったな。その怒りから娼婦を殺した。一人の娼婦を殺しただけでは怒りは収まらず再び犯行を繰り返すだろうと、私はそう確信し釣り野伏せを仕掛けてもらった。すると案の定お前は罠に引っかかったというわけだ」
 サンタクロースの服を着た殺人鬼は表情を変えず
「ククク、よくぞ見破った……俺様はサンタはサンタでも憎しみから生まれたサンタ・憎ラウスよ!」
「サンタ・憎ラウスだと!」
「それを知ったからには生かしてはおけぬ、お前を殺して完全犯罪にしてやる!」
サンタ・憎ラウスはナイフをちらつかせ殺人体勢に入った。チェスト探偵サツマは顔色変えず木刀を構えた。示現流だ!
「来るならかかってこい!サンタ・憎ラウス!チェストしてやる!」
「ウオーッ!!」
サンタ・憎ラウスは殺人鬼特有の身体能力でサツマにとびかかる! だが、サツマはその展開を見越していた!

「チェストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
「ギャァァァァァァァァァァ! ヒデブッ!」

チェスト探偵サツマのチェストがサンタ・憎ラウスの脳天に炸裂! サンタ・憎ラウスは一撃で昏倒しアパートのフローリングに倒れ伏した! サンタ・憎ラウスの身体が邪念が抜けていく! チェスト探偵サツマの見事な事件解決だった。
「探偵助手よ、古泉刑事に電話して事件は解決したと伝えてくれ」
 ベッドからにゅっと探偵助手が現れそのまま電話をかけに向かった。
「ふぅ……後処理を終えたらフライドチキンでも食べに行こう」

 こうして娼婦殺しは無事解決したのであった。そして、チェスト探偵サツマの探偵行はこれからも続く。
【終わり】

【あとがき】

#パルプアドベントカレンダー2020 にチェスト探偵サツマhttps://togetter.com/li/1575187 で飛び入り参加しました。突然電波が飛んできたんですよ。『神は言っている、チェスト探偵サツマでネタを書け』と……そんなこんなで書いたこの作品。お楽しみいただけたでしょうか。ではよいクリスマスを……

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