女王陛下の木彫り熊~レジェンド・オブ・エゾ~

『ヴィクトリア朝の威光が遥か東方のヒノモトまで届き、ブリタニア帝国は黄金時代を迎えつつあった。
 そんな中、ヒノモトの北の果て、エゾの州都サッポロでは物々しい雰囲気に包まれていた!
なぜなら、ヒノモト州総督、鬼灯蔵人が来札するからだ!ほうぼうで反ブリタニア主義者のテロリズムのウワサが駆け巡り、サッポロ市警は厳戒態勢で鬼灯総督の来札に備えていた!』

「綿村さん、ちょっといいですか? サッポロ市警の取戸です」
 私の微睡みはサッポロ市警のぶしつけなノックにより破壊された。私は昨夜はススキノで記憶が飛ぶまでビールと良質な料理を楽しんでいたんだ。その余韻を破壊するかのように現れた取戸と名乗る刑事はいかつい四角四面の顔で私を見つめてきた。
「刑事さん、何の用ですか?」
 私は儀礼的に取戸刑事に尋ねる。
「単刀直入に言いますと同じ農学部に在籍する栗駒氏の行方を知っていますか?」
 私の知り合いで栗駒が友人関係にある相手は少なくとも存在しない。栗駒は特徴の薄い男で何をしているかがよくわからないのだ。
「すいません刑事さん、栗駒君とはあまり仲良くなく、私は彼の動向を良く知らないんです」
 取戸刑事はしばしペンにメモを走らせた。
「お役に立てなくて申し訳ありません。ところで、栗駒君は何か事件にでも巻き込まれたのですか」
 取戸刑事は少しの間沈黙し、意を決したように
「すいません、それは守秘義務に反することなので言えないのですよ」と申し訳なさそうに言った。
 私は訝しんだ。栗駒君は一体何をしでかしたというのだろうか? そう考えていると取戸刑事は失礼しますと言って私の部屋から去っていったのだ。私は自分の部屋に取り残された。

「今朝の出来事は災難だったね、綿村君。それにしても栗駒君の件は興味深いね」
 私の親愛なる友人である鬼灯舎人に今朝の話をしたら興味津々な表情になった。やれやれ、また好奇の虫が騒ぐのであろうか?

【続く】

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