タ・ラチャン

パンダパパンダコパンダ。

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第R-23地区345区画、辺境にて

どいつもこいつも好き勝手言いやがって… シミズは暴発しそうな心臓の鼓動をなだめようと悪態をついた。 息をできるだけ深く吸い、体を蝕む恐怖と苛立ちも出ていってくれるよう祈り吐き出す。えずくだけだった。 28年ともに在る猟銃を恋人を抱き寄せるように身に寄せた。雨粒がはねる細長い金属製の銃身は漆黒に濡れ、重く腕に堪える。だが頼みの綱はコイツだけだった。 銃で撃つなんてかわいそう?銀河の果てから高みの見物をかましている連中に何が分かる。こういう奴ほどいざ自分の近所にアレが現れた

    • 羊飼いと継いでいく風景

      「継」ぐには「糸」が入っている。 安直にも私は考えた。羊といえば毛糸、「糸」が入っている。 「継」は羊飼いを表すにふさわしい漢字だ!と。 しかし著者のジェイムズ・リーバンクスさんは語る。羊毛は儲からない、と。 今は安価な人工繊維が流通し羊毛は安すぎて、毛を刈るのはあくまでも羊たちの健康維持が主目的で捨てるのも何だから売る程度にすぎないらしい。 私の羊飼いのイメージは「毛刈り」だったので毛が主産業ではないことに衝撃を受けた。 メェメェと鳴くもこもことした丸い羊たちがバリカンを手

      • little blackbird

        大野頼雄は喧嘩っ早い性格で誰彼かまわず殴りかかり人生の大半を棒に振ってきたが、本人は背骨が一つ少ないせいだと思っていた。 彼は何か心に引っかかることを言われると頭で咀嚼する前に過剰反射してしまい気づくと相手が血まみれで【ああ俺の一つ少ない背骨のせいだ】とぼんやり思うのだった。 医者に聞いたところ、そんな因果関係は無いと一笑に付され半殺しにしてしまったが、彼の中では背骨が少ないことが自分の性格を決定づけているとイコール関係が成立しており他の介在をはさむ余地などなく、それもま

        • しかばね山のみどりの森

          ♪しかばね山のみんなはっ もう死んでるっ 乱高下する節のついた陽気な歌声がどんなに遠くからでも耳に届きカヨの心をざわつかせる。 草木も生えぬしかばね山は陽気な歌とは相反する所で、住民はみどりの森に働きに行くことしか移動は許されず、山から見える森は美しいが近づくにつれてみどりの光は禍々しいものに変わっていく。 「ねえキイチ。あたしらって何のために生きとんのかな」 隣には土気色をしたキイチの横顔。鼻筋の整った美しい彼の輪郭を視線でなぞるのが好きだった。手をつないで森までの

        第R-23地区345区画、辺境にて

          ツナ缶を開けたり閉めたりしていちゃついてみたい

          ツナ缶。ベルトのバックル。眉毛クリップ。ファーレン延長器。割ピン。温度計。黒くつややかなフィラメント。巨大なスライド・ラックから滑り落ちる脳。 この羅列を読んでも何がなんだか分からないと思う。私も抜き出してみてよく分からない。ファーレン延長器って何だ。 これらは「短くて恐ろしいフィルの時代」に登場する者たちを構成するものだ。 さらに訳が分からなくなった。 あらすじに心惹かれた脳が地面に転がるたびに熱狂的な演説で民衆を煽る独裁者フィル。国民が6人しかいない小国をめぐる奇

          ツナ缶を開けたり閉めたりしていちゃついてみたい

          何歳でも考えたいレイシズム

          30代のいい大人なのに「レイシズム」がよく分からない報道で耳にしたり、最近よく聞く言葉だ。しかしよく分からない。 恥ずかしながら「何やらよくないもの」としか印象がなく、具体的に何が悪くて問題視されているのか、そもそも何を指すのか、どのような考え方なのかすら、おぼろげだった。ただ世界はレイシズムとたたかっているようにみえた。 「14歳から考えたいレイシズム」は「14歳から」と銘打ってあり、これなら無駄に歳を重ねてしまった30代女でも読めるはずだ!と密林から取り寄せた。 ◆

          何歳でも考えたいレイシズム

          搦め手の都市

          離陸した飛行機は徐々に高度を上げ空へ。何百人を乗せた巨大な鉄は白い影となる。 彼女は陽光に目を細めながら、同時に連動でもしているのか口元も軽く歪めて、白い影を見つめた。 「ひしゃげてしまいそう」 後ろから投げつけられた声に思わず振り返り、睨み付ける。少年は彼女の視線の方向を変えるみたいに指を横に振った後、彼女の手を指し 「金網。かわいそうだよ」 反射的に指を金網から離したあと無意識で握りしめていたことに気付いた。「今、飛んでいったよ」 「うん」 「誰も信じてくれ

          搦め手の都市

          右手にナイフ。左手にサンドイッチ。

          「お悔やみ申し上げるよ。サンドイッチ作りの片手間に殺られたんじゃコイツら報われねえ」 足元に転がる束の間の仲間達に、ちらりと哀悼の眼差しを送り直ぐさま正面の相手に向き直る。 奴は台所に立っている。 インチキ健康食品の営業でもやらされていそうな風采の上がらない男。ハムのような指。 右手にナイフ、左手にサンドイッチ。 正確にはまだサンドしていない、四角い、パン。 「実際に見て器用なもんだと感心したよ。よく片手でサンドイッチ作れるな」 じんわりと手に汗が滲む。滑り落ち

          右手にナイフ。左手にサンドイッチ。