小説牴牾(もどき) {みんなおなじ #5}

あらすじ

爺さんから俺が面接を受けようとしていた会社の求める、
人材の実態を知った。
俺は恐ろしく思った。

4章 回想録<1> 

「少し倅の話をしよう。」

少しばかりの沈黙の後、爺さんが発した。

倅は小学生の頃から、優等生じゃった。
それ故に、人に従い、反抗することはなかった。
先生の言うことを聞き、真面目に勉強し、みんなと仲良くしておった。

中学校になると、学級委員となったが、クラスの中心的な存在ではなかった実際のクラスの中心人物から排除された。
じゃが、誰にも相談しなかった。儂にも言わなかった。
多分、心配をかけたくなかったのじゃろう。

高校に進学すると、周りの人たちのことを無視し、
一人でいるようになった。
彼は誰にも理解されないと思った。
中には理解しよう、友達になりたいと思っていた人もいたかもしれない。
じゃが、彼は誰も理解しないと思い込んだ。

その後、彼はどうなったと思う?

「???」
「更に一人になろうとした?」

そのとおりじゃ。
兎に角、一人でいることが最善の選択だと思った。

じゃが、ふと気づくと、本当に周りに誰もいなくなっていた。

このとき、彼は初めて”周りに誰もいないことの苦しみ”を知った。

その後、彼はどうなったと思う?

爺さんはまた聞いてきた。

「誰か一緒に居てくれる人を探したとか?」

素晴らしい。
見事なまでに的外れだ。

彼は、
それが苦しみでないと思った。

環境が変わったことによる一時的なものだと。

その後大学に進学し、その後会社に就職した。

そこで彼はやっと気がついた。
――孤独の苦しみ を。

その後彼はどうなったと思う?

(またか…)
(全く、なぜそこまで…)
(聞きたがるんだろう?)

「今度こそ、誰か一緒に居てくれる人を探した。」

全く、なぜそこまで
その答えにこだわる?

彼は、自暴自棄になり、死んでしまえばいいと思った。
自分を傷つけ、他人を傷つけ、
世界が灰色に見えるまでになった。

そして、
自ら命を絶とうと、
自殺を図ることにした。

じゃが、それは失敗に終わった。

同僚に見つかり失敗した。

そこで彼はやっと気がついた。
自暴自棄になっても何も無いと。

会社で機械のように働いた。
5年間。
休みもなしに。
会社全体がそういう気質だったのもあるが、
彼が人に反抗することを絶対にしなかったからでもあり、
ある日、帰宅後に、
倒れて、
死んだ。

死因は過労死。

爺さんの周りに黒い何かが見えた。

「あの会社に入ると、お主もそうなるぞ。」

爺さんの周りにあった何かは消えていた。
その代り、爺さんは俯いて、透明の雫を零した。

to be continued…

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