at Hambrug

 リスボン、12月の頭に来た時には丁度紅葉が鮮やかに深まる秋を感じさせていたかと思えば三週間であっという間に冬になってしまった。
東京よりはあったかいとの事前情報を鵜呑みにしていたけれど、実際冬になるとどっちもどっちだ。寒い。
 そういう訳で、という訳でもないのだけれど北欧に行くことにした。どうせ寒いならせめてオーロラが見たい。
 ユーレイルというヨーロッパ周遊鉄道のパスを日本を発つ前にネットで注文しておいて、一週間後にリスボンの宿で受け取れる手筈だったのだが何故か配達されず、問い合わせのメールのやり取りで休日を挟んで一週間が経ち、再配達までの余裕を見て更に一週間を見込んで宿の追加予約をしたところ呆気なく二日程で届いた為、最後の一週間の殆どは夜中までツイッターを見たり明け方までmagical ponikaの『sick』をサンクラで聴きながら破れたジーンズのポケットを縫うなどして過ごした。ポルトガル語は結局「obrigado」と「muito bom」の二語しか話せていない。
 リスボンでの外国人登録や労働許可証取得の手順も結局ネットで調べても日本語の情報は限られているので事務所まで行って拙い英語で何とかやり取りするしかない。とにかく手続きというものが苦手なのだけれど、ビザが下りたらそれで働けるという訳ではないので頑張るしかない。できればリスボンでチャリの宅配をして暮らしたい。小説もラップもやるけど、それはまあ今となっては身体をどこに置いておこうがあまり関係ない。
 ユーレイルは二ヵ月間の内15日移動自由のパスを買ったので、北欧でオーロラを見たらチェコを経由してトルコまで片道で行った後飛行機でリスボンに帰ろうと思う。この二ヵ月の内にポルトガル語の日常会話に必要な単語くらいは覚えたいが、どうなるか。最初は往復するつもりだったけど、アプリで路線を調べたら到底無理なことが分かった。トロンハイムまで最短で三日も掛かる。
 パスは駅で有効化の手続きをしなくては使えない。アプリで調べた最寄りの駅は国内線の駅で、窓口で訊くと国際線の発着駅まで行って手続きをしなくてはいけないと言われた。そこまではユーレイルのチケットは使えず、別に切符を買わなくてはいけないらしい。確か1€20セントくらいだった気がするけれど、財布を取り出すと駅員は「I'll give you」という意味のことを言ってくれた。日本では考えられない融通の利き加減に驚きつつ頭を下げ、「obrigado」と言ってエスカレーターを上った。
 オリエンテ駅に着くと、想像していた駅と違いかなり都市部の駅だった。以前リスボンにユーレイルで来た時に降りた駅だと思っていたから、列車の時間までに駅の周りの食堂でピザでも食べようという腹積もりだったのだが、安いレストランを探したり列車内での食料確保にスーパーに寄ったりしていたらあっと言う間に時間が過ぎ、結局窓口でパスの有効化を申し込んだ時には既に列車の発車時刻の五分前で、その日はもう無理だと言われた。それからまた宿を探す気力もなかったので駅の待合室でギリギリまで粘り、締め出されたら吹きさらしのベンチで夜を明かす覚悟を決めた。幸い、午前一時に閉まった待合室は五時前には開いたので、四時間弱を寒空の下で過ごすだけで済んだ。ノートパソコンの緩衝材と北欧行きの保険として持って来ていた寝袋が毛布として役立った。
 24時間をほぼ寝て過ごし、何とかパスを有効化してもらって座席の予約をして列車に乗り込む。オリエンテからフランスのハンダイェまでは7€で行けたけれど、その後モンパルナス、シュトラスブルクまではそれぞれ20€もした。この調子で列車に乗る旅に予約手数料を払うのだとしたら、労力を考えたら飛行機で移動した方が安上がりじゃないかと思ったが、シュトラスブルクからハンブルクまでは駅の窓口が閉まっていたこともあって席を予約せずに乗り込んだものの特に乗務員から咎められるようなこともなかった。座席を指定しない場合、予約が満員の場合は乗る場所がなくなるが満員でないなら自由席で乗っていていいということなのか。まだいまいちシステムがよく分かっていない。一通り目を通したマニュアルには肝心のことが書かれていなかった気がする。二〇一二年に同じくユーレイルでヨーロッパを周遊した時にどうしていたかはもう覚えていない。

 ハンブルク行きの夜行列車で数時間毎に寝たり起きたりを繰り返して、朝七時くらいに目を覚ました時に喉に違和感を感じた。暖房で乾燥した空気にマスクもせずに寝ていたら粘膜をやられてしまう。これから北欧へ行くというのに風邪でも引いたら堪ったものではないので、トイレでティッシュを水に濡らして鼻に突っ込んだ。部屋には加湿器がないので、日本に居た時もベッドで布団に包まりながら風邪の予感がした時にはこうやって凌いでいた。とりあえず経験的に俺には効く民間療法。それからツイッターで前に流れてきた「喉にいるウィルスは水で胃まで流すと胃酸で死ぬから15分毎に水を飲むのがいい」という情報を信じてペットボトルのお茶を一口ずつ時間を置いて飲んだ。ハンブルクに着いて、改めてトロンハイムまでの列車を調べるとどうやらコペンハーゲンに0時に着いたら朝の8時まで次の列車が来ないらしく、流石に駅で一夜は越せないということでハンブルクで宿を取ることにした。二泊で60€がブッキングドットコムが表示する最安のドミで、リスボンなら一週間は泊まれるなと思いつつ背に腹は代えられないということで予約。駅からかなり離れていたけれど、観光がてらバックパックを引きずりながら歩いた。チェックイン時にどうやら日付を間違って明日明後日の二日を予約してしまっていたと告げられ、厚意で予約を無料キャンセルの上今日はドミトリーでなく屋根裏部屋で良ければ泊まれるがどうすると言われる。宿代も15€と格安で、是非ともお願いしたい旨を告げた。
 そういう訳で、今この日記を書いている。民間療法が功を奏してか、喉の調子も上々である。今日明日は静養に努めて、明後日の丸一日掛けたトロハイムへの列車の旅に備えたい。

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