感想文『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ』

どうしても観たくて円盤の購入を検討していたところ、なんと劇場再上映してたので観てきた。大いにネタバレします。

TVシリーズのときのように前のめりに絶賛できるかというと、ちょっとそんなでもない。でもユーフォのファンは観ておくべき作品ではあると思う。

ちょっと引いてしまったのは、劇場版という時間的制約の問題だけだと思うけど、盛り込みすぎてTVシリーズの良さだった緻密さ丁寧さが犠牲になった感は否めないという話で、作品としてはとても良かったよ…。僕のTVシリーズへの信仰が強すぎるのが問題…。


『誓いのフィナーレ』は結局、クミコ・オーマエがその主人公力をさらに高めて部長になるためのステップとしての作品だ。 

作中、誰が選抜したか知らないが(まあおそらくは3年生役員の合議で、頼みやすくて引き受けてくれそうで、かつ出来そうな人)、久美子は1年生初心者の指導担当となり、つまり、一歩下がって全体を見渡す位置に立つことになる。これにより、それまで持っていた「巻き込まれ体質」「立ち聞きスキル」という主人公としての特殊能力に加えて、「メタ視点」を手に入れたのだ。「案外、向いてるかもしれませんね」という滝のお墨付き。

黄前久美子3年生編は、もう主人公として無双する予感しかない。本作はそのための踏み台という印象が強かった。


それはそれとして、観るべきものが無いわけでは、もちろんない。本作初登場の1年生、奏ちゃん。キャラクターとしてはTV2期ののぞみ先輩よろしく「咬ませ犬」感があるが、とても重要な問題提起をする。

前年の諸々について「全国出場という成果を出したから、全て丸く収まった」という点。久美子と奏ちゃんが話していたのは香織先輩vs麗奈のソロオーディションの件だけど、じつはそれ以外にも観ていて気になっていたことがある。例えば関西大会で金賞&全国出場を決めたとき、コンクールが嫌いか尋ねられたみぞれ先輩が「今、好きになった」と言うけど、これは結構「ええー、それは勝者の論理ですよね」という強い違和感があった。ついこないだまで弱小だったあなたたちが、そんなこと言っていいの?大丈夫?破綻しない?それこそ勝てなかったら何て答えたの?(じつのところ、こういう「浅薄な発言」はユーフォシリーズのリアリティとしても機能していて、嫌いじゃないのだけど。)

そう、ユーフォのシリーズ、弱小からスタートしたくせに、いや弱小からスタートして成り上がったからこそかも知れないけど、「弱者・敗者の視点」がとても少ない。圧倒的強者である麗奈やあすか先輩(あと、さふぁいあ川島)がいることで霞みがちだが、久美子も演奏レベル高いし(こういうの普通は主人公がヘタクソから頑張る展開だが、ユーフォはそうじゃない)。一方で例えば初心者の葉月ちゃんはひたすらポジティブ元気っ子だし、葵ちゃんは序盤で辞めて部としてはスッキリしちゃってるし、夏紀先輩はただただ良い人だ。もちろん、そこばかりを見ていては全国大会出場という目標に向かうキャラクター達を描く足かせになってしまうので、限度はある。本作では、美玲ちゃん(先輩の方が下手なことに悩む後輩)の件はバックグラウンドを省略したなりに力技で上手くまとめたけど、しかし、加部ちゃん先輩についてはもっと丁寧に扱うべきと思う。

加部ちゃん先輩はトランペットの3年生で、久美子とふたりで1年生の指導係になっている。おそらく、久美子が技術担当で、加部ちゃん先輩はその人柄を買われてのことだろう。劇中で言及されるが加部ちゃん先輩は高校から吹奏楽を始めた「素人枠」つまり夏紀先輩と同じ立場である。前年のコンクールはオーディションに落ちて夏紀先輩や葉月ちゃんと共にチームもなかの一員としてコンクールメンバーのサポートをしている。

加部ちゃん先輩は、本作で3年生としてコンクールを目指すが、顎関節症の悪化により断念し、マネージャーとしてサポートに専念することを決める。

もちろんそのくだりにはまあまあの時間を割くのだけど、それを受けた久美子のショックは、表情のみ描かれそれ以上深入りはしない。これは個人的な妄想だけど、久美子は、初心者として努力を重ねてきたけど結局「無駄」に終わった、でも初心者としてついていく自信もなかったので少し安心してもいるという加部ちゃん先輩の思いを、初めて想像したのではないか。久美子はどちらかというと努力することで乗り越えてきた、乗り越えることができたタイプだし、経験者ということもあってついていけずに脱落するという憂き目にもあっていない。

1年生指導係として久美子と話すうちに加部ちゃん先輩が発した「わたしも初心者だったから、気持ちがわかる」というセリフ(正確に覚えてなくてすみません)。いや、感激した。そう、この視点!いままで無かったやつ!加部ちゃん先輩まじエンジェル!!

これはほんとうに重要なことで、吹奏楽や合唱の部活ではレベルが高いところでもまあまあ初心者が入ってきて、その初心者への対応がなかなかに難しいというのは想像に難くない。そんな初心者が、「全国レベル」になった北宇治高校吹奏楽部のメンバーとしてどうやって各々のレベルを高めていくか、そのルートを少しは知っている(いや前年もコンクール出られてないんだけど、悩みの共有はできる)加部ちゃん先輩が船頭として初心者1年生を率いていく。それを隣で見ることができたのは久美子にとって幸運と言ってよく、少なからず得るものがあっただろう。翌年は黄前部長がその主人公力全開で導いてくれるはずである。

加部ちゃん先輩の苦悩、それを優子先輩や夏紀先輩に相談しながら、自身の中で解決する過程、それを知った久美子の思いなど、シリーズにとってかなりクリティカルな内容なので、その辺はぜひ丁寧に描いて欲しかった。基本的に久美子視点なので明示はされないのかもしれないけど、この作品の製作陣は「その周辺を極めて精緻に描くことで浮き彫りにする」みたいなことが可能なので。

というのが僕の気持ち。もちろん、劇場版の時間制限に合わせる以上、全てを丁寧に描けないのは仕方のないことである。とても良い映画だったけど、そういう意味では2年生編としてテレビアニメ2クールで観たかった…。3年生編、大いに期待しています。


以下、その他の雑感。

・麗奈がなんもしない。ただの感じの良い美少女。美玲ちゃんの「お二人、距離近くないですか?」って赤くなってるの、なんか期待したけどなんもない!ていうかなんで藤田春香が演出に入ってないんだ!(時期的にヴァイオレット外伝とかぶってたんだよね…)

・久美子と秀一、きゅんきゅんして終わってしまったが、もっとぽわぽわして何にも手につかないとか、もっとギスギスしてるのを観たかった。それでこそ吹奏楽部。冒頭で秀一告白の演出はとても良かったです。

・コンクールの結果(全国出場ならず)は、予想していた通りだった。物語としてもセオリーだし、現実的にもそうだよねーとは思う。半分くらい1年生なんだもんね…。優子先輩がちょっとかわいそうではある。ていうか優子先輩全体的にかわいそうなので、幸せになって欲しい。

・『リズと青い鳥』は必修だった。『リズ』のみぞれ先輩卍解シーンを観てないと「なんでこの人こんなに出るの?」というのが説明しづらい。そしてのぞみ先輩がフルート頑張ってて感激。よかったね…でも全国行けなかったことで自分を責めないで欲しいの…。

・ハーピスト、誰?どっから連れてきた?と思ってたけど、普通にパーカスの3年生なのか…。前年の自由曲でティンパニやってた子か。合宿で橋本先生に詰められてた…。でもハープって、ハイやってって言われて弾けるものなの…?めっちゃ余裕で弾いてるけど経験者?あっむしろ経験者がいるからハープあり編成の曲を選んだのか?

・さふぁいあ川島は今回もパーフェクト!!

・結果に対しての滝の思いは触れられないが、結構へこんでるだろうなぁー。選曲が悪かったんじゃないかとか、1年生が多いからって全国行けないのは指導の才能ないんじゃないかとか、そもそも去年の成果は橋本先生が早くから来てくれたからだったんじゃないかとか。選曲についてはみぞれ先輩の卍解を促したという点で人類にとってはプラスだったと思うけど、それを引き出したのも滝じゃなくて新山先生だしな。せつない。ざまあみろ。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?