見出し画像

【前世の記憶】船沈没事故で死んだ記憶を持つ少年



アメリカ・オレゴン州

リサとエリンにはシェームスという息子がいる。家族や親しい友人が何人も亡くなった年に第一子として生まれたシェームスの誕生に夫婦は涙した。

シェームスは特に泣き止まないといったこともなく、夜通し寝る手のかからない赤ちゃんだった。スプーンで食べたり、はいはいをしたりなど、成長の過程も早かった。

幼児になると真夜中に両親のベッドへ来て、一緒に寝たがるようになる。最初は小さな子を持つ親の過程の一つとして、それも悪くないと受け入れていた。

しかしそれが日課になってくると支障をきたすようになる。警察官のエリンは当時デイシフトで、4時半に起きなければいけなかった。

シェームスは毎晩、両親の寝室に夜中にやってきては、怖いと言って泣いた。何かが彼の睡眠を妨げていることは明白だった。

シェームスが3歳の時のこと。両親が映画タイタニックを観ていると、シェームスの目が映画にくぎづけになる。それ以降シェームスは詳細を知りたがった。

やがて船の絵を細かい部分まで描くようになる。その度にリサとエリンが、また?という顔でお互いを見つめ合うほど。

あの映画に惹かれる以上の何かがあるのか。シェームスの船への執着がエスカレートすると両親は心配になる。

シェームスは大きな船に異常なまでの関心を示した。彼がおもちゃを欲しがるときはいつもレゴブロックで、船を組み立てた。

最初は少し変わっていると思ったエリンだったが、息子は歴史的なものが好きなのだ、自分と同じようなことが好きなのだと肯定的にとらえていた。実際にシェームスは賢い子供だったため、ありがたいとさえ思っていた。

シェームスは死ぬことを常に心配しているようだった。

ある夜、リサとエリンがコンサートに行く途中のこと。寝る前に両親におやすみを言いたがったシェームスのため、彼を預かっている家族が両親に電話をかけたがつながらない。リサもエリンも携帯の着信音に気が付かなかったのだ。

シェームスは両親が事故に遭って死んだのではと心配した。死への不安を持つ息子に対して両親ともに心配し始めた時期だった。

靴ひもがちゃんと結べているかとか、宿題があるとか、現実的なことより、死ぬことを心配する息子が不憫にさえ感じられた。子供なのに普通じゃない。

大きな船に関心を寄せるシェームスのため、両親は家族のバケーション先に、クイーン・メアリーを選ぶ。引退した豪華客船、クイーン・メアリー号はカリフォルニア州ロングビーチに恒久的に停泊しており、レストランやホテルとしても利用できる。

クイーン・メアリー号を目にしたシェームスは、大きく目を見開き、信じられない!という反応をした。そして安堵したように自由に船内を見て回り、ありとあらゆるものに興味を示した。

彼は落ち着いていたが、どこか感傷的でもあり、何らかの感覚または強いものをリサは感じたと言う。

旅行から帰ってきて一晩経った後、シェームスはリサのところへ来て、非常に動揺しながら言った。自分が乗っていた船が沈んで死んだのだと。

両親はどう受け取ったらいいのか、反応していいか、分からなかった。読み聞かせのストーリータイムで聞いたのかもしれないし、テレビで観たのかもしれない。

リサがシェームスが言ったことを周りの人に話すと「もしかしたら彼はタイタニックに乗っていたのかもね」という反応もいくつかあった。

最初は懐疑的だったエリンに対し、リサは常に人間には前世があってもおかしくないと考えていた。息子の件に関しても、前世を語っているのかもしれないと考えるようになる。他にも前世の記憶を持った人の話を聞くことがあるからだ。

シェームスによると、前世では彼が10歳の時に14歳の姉がいた。彼はグリーンのジャケットスーツを着ていたと言う。船が右の方へ傾くとともに沈み始め、そのまま海の中へ沈んでいった。

7歳のシェームスはこう語っている。

僕にはママとパパとお姉ちゃんがいた。船は赤と白で、カーペットは赤とグリーン。そして何かが後ろからぶつかったんだ。何か爆発したように。そして沈んだ感じになって横向きになった。

白い木製の救命ボートがいくつかあって、何人かはそれらの救命ボートに乗った。海の中でパニックになりながら泳いでいる人もいた。

シェームスの記憶は、難破船で死んだことだけでなく、救命ボートまでたどり着いている。白い木製のボートという記憶もはっきり認識されている。

「救命ボートに乗った時、2枚ジャケットを着ていたけど寒かった。自分のグリーンのジャケットとお父さんがくれた黒いジャケットを着ていたけど、救命ボートの上で死んだんだ。」

息子の話を聞いたリサは、息子がそんな経験をしていたなんて、気分が悪くなるほどだった。

エリンは思った。

なぜ小さな息子が、まるで実際に起こったことのように話ができるのだろう。息子が嘘をついているときは分かる。しかし彼が真面目に話している時も分かる。これは作り話なんかじゃない。

息子は本当に前世を経験しているのか?

「最初は僕の乗っていた船はタイタニックだと思ってた。でも詳しいことを聞いたら違っていて、僕が乗ってた船はタイタニックじゃないと分かったんだ。」

シェームスは前世の魂を持つとはどういう意味かと聞いてきた。そして、前世と同じ死に方をするのでは?という不安を打ち明けた。

7歳の子が心配する事柄にしては重すぎる。両親が、前世と同じような死に方はしない、と諭すと、その時は理解したようだった。

しかしシェームスが再度その不安を口にした時、両親は自分たちの説明が十分ではなかったことに気づく。

シェームスは真夜中に両親の寝室へ来て、そこに設けた彼用のソファで眠る。

息子が小さな胸で経験している恐怖を思うとリサは涙が出た。息子のことが大事で、ただ幸せでいてほしいだけ。死の恐怖を再体験している息子をどうにかしてあげたくてもどうしたらいいか分からない。

そこで両親は、シェームスの記憶にあるような沈み方をした船があるのではないかと、調べ始める。そして過去100年に沈んだ船のうち、どの船がそれに近いのか知るためにシェームスと情報を共有した。

「このカラムという船は1904年に嵐で沈んだ船だけど何か感じるものはある?」

「もう少し大きいかも」

「これはプリンセス・ソフィアといって1918年に嵐で立ち往生した船よ。さっきの船より大きいけどどう?」

「うーん、もうワンサイズくらい大きいかな」

「船に乗ってた時、島は周りにあった?」

「なかった。沖だった。」

「これは比較的近年のもので、1994年に沈んだMSエストニアという船だけど・・。」

「その船じゃない。前方の形が違う」

「これは? RMS ルシタニアといって、ドイツのサブマリンから魚雷攻撃された。これが沈んでいる画像で、白い木製救命ボートもある。」

するとシェームスが反応する。

「これかもしれない。煙突が4つあるし、形に見覚えがある。救命ボートも。」

両親がいくつもの船の中から少数に絞っていったうち、シェームスが強い興味を示したのが1915年に沈没したRMS ルシタニアである。彼の記憶と多くがマッチしていた。

RMS ルシタニアはイギリス船籍の豪華客船で、ニューヨークからイギリスに向かう途中にドイツの潜水艦により撃沈させられた。

これにより、1,198人の乗客の命が奪われ、生き残ったのは761人。

犠牲者の中には128名のアメリカ人が含まれていたため、アメリカが第一次世界大戦へ参戦する原因となった事件と言われている。

息子の死への恐怖を取り除くため、両親は何かしなければならないと感じていた。

エリンは、大きいフィッシンボートに乗って黙祷を捧げ、そこから花輪を投げるアイデアを考案する。シェームスは乗り気だった。

家族は船の上で、前世のシェームスと、海で命を落としたすべての人の名誉を称え、黙祷を捧げる。

何か言いたいことはあるかと聞くとシェームスは首を横に振った。が、両親の予想以上に彼は感傷的になっていた。彼の感情や別れを告げる喪失感が体感的に伝わってくるようだったとリサは言う。

自分たちなりのセレモニーをしたことで、息子が自分らしい人生を生きられることを望んだ。

シェームスの不眠は今もあるものの、その頻度は減ったと言う。同じ死に方をするのではないかという恐れも減少している。

シェームス自身も、前世の自分に別れるセレモニーをして良かったと言っている。

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?