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【前世の記憶】ハリウッド女優だったと言う娘


アメリカ・ミネソタ州。テレサとクレイグには5人の子供がいてエイミーは末っ子の女の子。 

エイミーは3ヶ月早く未熟児で生まれ、出生体重が1130グラムだったため、生後3ヶ月までを病院で過ごした。

クレイグが仕事で忙しい中、テレサは毎日大半を病院で過ごし、家には4人の子供がいたため、困難な日が続いたが、何か意味があってこの子は生まれてきたと感じた。ドクターからはミラクルベイビーだと言われる。

エイミーはとても大人しい子で、ひとりでいることを好んだ。3〜4歳になってもなかなか言葉を発しなかったため心配した両親は様々な機関やドクターを訪れるが、何も問題はないと言われる。

両親は未熟児だったせいかもしれないと思った。医者も言葉の発達に影響した可能性も捨てきれないと言う。

エイミーは単に話したくないようだった。彼女は欲しいものがあるとそれを指差し、大人の注意を引きたいときは服を引っ張って、コミュニケーションを図った。

両親も過度に心配していたわけではなかった。さすがに5歳になり言葉を発しないのは普通じゃないと指摘されるまでは。

エイミーは非常に変わった子供だった。

古い映画を観るのが大好きで、何度も何度も繰り返し観た。その映画を真似てドレスアップをしたりした。映画を観ているときは人が部屋に入ってきても全く気がつかないほど熱中していた。

彼女はサイレント映画を自身で見つけた。サイレントムービーとは、音声・音響、特に俳優の語るセリフが入っていない映画のことで、無声映画とも呼ばれる。

テレサは、サイレント映画とエイミーが話さないのと関連しているのかもしれないと思った。これまで未熟児だったせいで言葉の発達が遅いのだと思ってきたが、そうではないと思うようになる。何か他のことが原因だと。

エイミーは3〜4歳の時から化粧をするようになり、常に口紅をつけていた。どこに行く時も必ず。口紅の付け方も完璧だった。

テレサ自身、化粧も含めて女性らしいことが好きなので、そんな娘を見て可愛いと思っていた。

ある時、エイミーはヘアカーラーをしてバスルームから出てくる。そのカーラーの巻き方はほぼ完璧だった。その時の彼女はわずか4歳。自分でさえこれほど綺麗にセットしてあげられないとテレサが驚いたほど。

その上に彼女は大きな赤いバンダナを巻いた。テレサはその巻き方の上手さにさらに驚いた。

エイミーは昔流行った髪型や服装を知っているかのようにドレスアップをした。着席して会食するようなフォーマルパーティーではなく、バレーボールをしてバーベキューをするようなカジュアルな家族のパーティーであっても。

5歳になっても話し始めないエイミーに何が起こっているのか。両親は非常に心配し始める。

しかし6歳になるとエイミーは話し始めた。何故突然話し始めたのかは分からないものの、両親はとても喜び安心した。

クレイグはエイミーに外に出て遊び友達を作って欲しいと思っていた。一方で、テレサはエイミーは同年齢の子供たちとは合わないことを感じていた。エイミーは多くのことを恐れ、一匹狼だった。

クリスマスや誕生日のプレゼントに何が欲しいかと子供たちに聞くと、他の兄弟がホッキーのアイススケート靴や釣り竿などと答える中、エイミーは古いポスターや古い映画、古いサイレント映画が欲しいと言う。 

旅行に出かけたりすると、両親は何か古いものがないかエイミーのために探した。エイミーはアンティークショップが好きで、特定のものを見つけてはなんらかの接点を感じていたようだった。

時にはドレスを見つけてこんなことを言った。

「私もこんなドレスを持ってた。私のは黄色だったけど。あるパーティーに着て行ったの。そこで話した男の人がすごくいい人で私にコークを買ってくれたの。」

テレサは娘に何が起こっているのか混乱する。

エイミーは9歳か10歳になる頃には、完全に映画スターにハマっていて、中でも悲惨な死を遂げた映画スターに執着していた。映画スターをリサーチし、若くして亡くなったと知ればさらにリサーチをする。若くして死ぬことについて常に話していた。

両親にとっては気がかりである。彼女は悲惨な子供時代を過ごした人物に感情移入しているように見えた。

テレサはエイミーは幸せな子供時代を過ごしたと思っている。それには娘も同意するはず。だからこそ余計に何故エイミーが若くして亡くなった映画スターに興味を持つのか困惑した。

その興味がどこからくるものかも分からず、心配したテレサは、悲しくなることよりも楽しいことへ目を向けるようにと促す。娘をそういった悲惨なものから守りたいが、無力に感じた。 

サイレント映画と一人でいるのが好きなことは関連しているのではないかと考えたテレサは、サイレント映画を通して自身を見つけようとしているのだろうと思った。

サイレント映画は彼女を気分よくさせ、生き生きさせた。

が、彼女がジャック・ピックフォードについて話し出すと少し奇妙だと思った。10歳にして彼女は彼に恋をしていたのだ。初恋だった。

テレサはジャック・ピックフォードについて何も知らなかった。エイミーから聞くまでは。

ジャック・ピックフォードは俳優、映画監督、プロデューサーである。1900年代の「アメリカの恋人」と言われた有名な女優、メアリー・ピックフォードの弟でもある。

彼はアルコール中毒で妻を虐待する男だと言われていた。おそらく梅毒で死んだとも言われている。

エイミーはどういうわけか、彼のことを気の毒に思っていた。彼の写真を常に携帯する娘を見て両親は、何故夢中になるのが不思議だった。彼は親が娘に付き合って欲しくないタイプの男である。

しかしジャック・ピックフォードを中傷する記事を読んだり、悪く言ったりする人を見るとエイミーはとても気分を悪くした。

「本当のことではないのに。なんで彼のことをそんなに悪く言えるの?彼のことを知りもしないのに。」

10歳の少女が悪い評判の成人男性を庇って怒る姿はおかしくもあった。最初はジャック・ピックフォードへの恋心は成長の一環だと思っていた。

エイミーが12歳の時、ある写真を見せて言う。

「ママ、これ私なの。前の人生でこの人だったの。」

どこからそんな発想が来たのか、全く分からないが、娘の中に何か悲しく悲惨なものがあるのをテレサは感じ取る。

エイミーから見せられた写真の女性が誰なのかテレサには全く見当がつかなかった。

写真の女性はルシル・リックセンという女優。自分の前世はルシルだったと言うエイミーが話す彼女の人生は悲しいものだった。ルシルは14歳の時に亡くなっている。

エイミーがルシル・リックセンを知っていたことにも驚いた。テレサにとってルシルはあまり有名な女優ではなかったからだ。

テレサはルシル・リックセンについて調べる。彼女の母親は究極のステージママで、ルシルの最初の映画出演は5歳の時。

とても美しい彼女をスタジオは利用した。スタジオの言うようにしなければ仕事はなし。彼女はハリウッドで最年少の主役と呼ばれ、何時間も働いた。

ルシルが妻を演じたものさえある。彼女は著しく早く成長したのだ。しかし彼女は病気になり、寝たきりになってしまう。

様々な噂があるが、彼女の母親は心臓発作を起こし転倒。ルシルの上で亡くなっている。

その2週間後にルシルは亡くなっている。彼女の最後の言葉は、

「お母さんが待ってる。」

だった。

テレサは、エイミーは何も主張できなかった子役スターのために声をあげているのだと感じる。エイミーも自分の声をしばらく持っていなかったが、今ではルシルを通じて声をあげているのではないかと。

エイミーが最初にルシルの写真を見た時、感情の引き金が引かれ、前世の記憶が蘇ったと言う。

テレサはルシル・リックセンとジャック・ピックフォードは、何本もの映画で共演をしていたことを知る。エイミーはそのことを調べるまでもなく既に知っていた。

17歳になったエイミーはこう言っている。

「自分でも何故サイレント映画にこんなに惹かれるのか分からなかった。周りで誰も興味のある人はいなかったし、何かおかしいとは感じてた。

ルシルの写真を初めて見た時、呼吸が止まりそうになった。サイレント映画に惹かれることも若くして死んだ子役スターへの執着も、全てここにあるとピンと来たの。

そして彼女が、ザ・ヒルビリーにジャック・ピックフォードと出ていたのを見て、彼を知ってる、だからこんな感情を持ってたんだと納得が行った。

一つ鮮明に覚えているのは、とても綺麗なシルバーの靴とフリルのドレスを見下ろしていたこと。そのセットにはジャック・ピックフォードがいてコカコーラをいつも飲んでた。

彼は挨拶をしにこちらへ来てくれた。ラブリー、可愛い、ダーリン、スイーティーと言った言葉を多く使われたけど、ただ私がその日どうしているか気にかけてくれるようだった。変だとか口説こうとしているとか考えたこともない。自分を気にかけてくれる彼を一生愛すると思った。

一つ覚えているのは、血がだらけの状態を見下ろしていること。私は結核で死んだと書いてあるけど、実際は違うと思う。若くして亡くなったルシルの人生では後悔がたくさんあった。もし声をあげていれば早死にすることもなかったのにって。

今私には声がある。ルシルは自分の声をあげられなかった。ルシルには音声すら残っていない。ただスクリーンに顔が映っているだけ。ルシルの人生だけでなく、現世の自分の人生についても言葉で伝えることができて嬉しい。

今ルシルについて話すことは、前世から執着している人々にさよならを言うチャンスのように感じる。過去に見切りをつける時期だから。やっと彼らにさよならを言えるだけの強い自分になった気がする。」

テレサはハリウッドまでのチケットを手配する。決して恵まれたものではなかった前世に別れを告げ、現世で前に進むことが大事だと感じたのだ。行ってみないことにはその先どうなるか分からない。

ハリウッドについた母娘は、ルシルが住んでいた家を訪ねる。彼女が亡くなった場所でもある。ルシルの家に着くと様々な記憶がフラッシュバックのようによみがえってきた。長いこと自分のベッドで孤独に病気に苦しんだ記憶を思い出したエイミーはパニックアタックを起こしてしまう。

母娘はハリウッド黄金時代の有識者で、ルシル・リックセンについて広範囲に学んだ伝記作家マイケルに会うことになっていた。ストーリーの中の空いた穴を埋められることを願って。

どれくらいルシルについて知っているかと聞かれたエイミーは、「たくさん」と答え、前世からのフラッシュバックについて話した。

そしてルシルとジャックの関係を聞いてみる。

「ジャック・ピックフォードはルシルを、ザ・ヒルビリーの役に選んだ。」

「当たってたわ!」

エイミーが嬉しそうに言う。

「彼とはWAMPA パーティーで出会った気がする。そこでこれからも会うと思うよと言われたの。その時は意味が分からなかったけど、ザ・ヒルビリーに出てほしいと電話があったの。」  

そしてエイミーは自分が病気になった日にちが知りたいと言う。ギャロッピングフィッシュの撮影中だった気がするからだ。マイケルによるとその通りだった。

「ルシルは7ヶ月の間に10本もの映画に出ていた。その時期だったんだよ。働き過ぎだったんだろうね。」

さらにマイケルは続ける。

「母親が亡くなった時、ルシルの病気はかなり深刻な状態だった。娘の病気へのストレスが母親の死の要因となったのかもしれない。ルシルの病気が何だったのかは分からない。死亡証明書には結核だと書いてあるけど、働き過ぎが原因だとの噂もある。確かにそれは事実で、だからこそ共演者と仲良くなりすぎて、ディレクターとの子供を妊娠・中絶をし、完全に回復しなかったという噂もある。」

それまで何か言いたげにマイケルの話を聞いていたエイミーが言う。

「シド・チャップリンだった。妊娠させたのは。」

「シド・チャップリンだったんだ?」

と返すマイケルにエイミーは自信ありげにうなづいた。

「ルシルが死んだのは中絶が原因だったと感じる。それがメインの「原因ではないけど、ギャロッピングフィッシュの撮影中に全ては起こった。」

「確かにルシルは、ギャロッピングフィッシュでシドと共演している。」

検証はできないし、事実ではないかもしれないけど、真実を見つける方法も分からない。個人的な意見を尋ねるとマイケルは、

「何かが起こったと思う。働き過ぎよりももっと邪悪なことが。誰かが彼女の若さを利用して、大人としての準備ができる前に成長させてしまったと思う。これまで僕がリサーチして書いてきた人々の中で、ルシルの悲しみは際立っていたように思う。彼女の人生がいまだに脳裏を去らない。彼女は正義と報復を求めて泣いているように感じる。」

エイミーはマイケルに同意する。

「彼女がどこに埋葬されたかも分からなかった。でもルシルのスクラップブックを通して、私たちは埋葬計画書を発見した。」

というマイケルの言葉にエイミーは驚くとともに、パッと明るい表情になる。

マイケルは、ルシルの人生のいくつかの点を検証してくれた。自分にとって必要だったためとても嬉しく思う、とエイミーは言う。

そして母娘はルシルが埋葬されている場所へ行く。ルシル・リックセンの名前が書かれた骨壺を見つけるとエイミーは、感情を堪えきれなくなる。

幸せも悲しみも感じ、感情がアップダウンした1日だった。

テレサに

「悲しい気持ちにもなったけど、それでもハリウッドに来て良かったと思う?」

と聞かれるとエイミーはうなづく。

「ルシルよりも幸せな人生を生きられる気がする。のしかかっていた重いものがなくなったような感覚よ。」

ハリウッドへ来て以前より心が軽くなったと言う。

「ルシルの人生を忘れることはない。でもこれからはエイミーとしての人生を続けられる気がする。」

エイミーはいつかルシル・リックセンについての本を書きたいと思っている。


























 

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