遺伝(ノーベル賞特別企画)-CRISPR/Cas9-No.3

CRISPR/Casシステムのつづき。

前回はAdaptationフェースについて記載した。

今回はExpressionフェーズについて記載していきたいと思う。

引用文献:新海暁男 CRISPR-Casシステムの構造と機能 生物物理 2014;54(5):247-252

Expressionフェーズとは、

CRISPR領域が転写されて、pre-CRISPR RNA(pre-crRNA)が生成される。

次に、pre-crRNAのリピート部分がある種のCasタンパク質によって切断され、スペーサー単位の低分子RNAであるcrRNAが生成される。

このフェーズのことを指している。

画像1

図1 Expressionフェーズの概要

TypeⅠ~Ⅲのシステムが存在している。(左からTypeⅠ)

いずれの場合もpre-crRNAはリピート部分で切断されるが、crRNAにはタグと呼ばれるリピート配列の一部(黒色部分)が残っている。

TypeⅠでは、Cascade複合体のCas6(TypeⅠ-A、B、D、E、F)あるいはCas5サブユニット(TypeⅠ-C)がpre-crRNAを切断する。crRNAはCascade複合体に結合する。

TypeⅡでは、Cas9の共存下で、tracrRNAが相補的に結合したcrRNAのリピート部分をRNaseⅢが切断する。そして、Cas9-tracrRNA:crRNA複合体が形成される。

TypeⅢでは、Cas6単体がpre-crRNAを切断する。TypeⅢ-Aでは、crRNAはCsm複合体に結合し、TypeⅢ-Bでは、Cmr複合体に結合する。

Cascadeとは、CRISPR-associated complex for antiviral defenseと呼ばれる巨大分子のこと。

TypeⅠ-Eサブタイプを例にあげてみると、

TypeⅠ-EのCascadeは1分子のCseⅠ、2分子のCse2、6分子のCas7、1分子のCas5e、1分子のCas6eから成るタンパク質複合体である。

Cascadeに結合したcrRNAが細胞に侵入してきた外来DNAの1部分に対して相補的な配列をもつ場合、Cascade-crRNA複合体はcrRNAとの相補的な結合によりDNAに結合し、分解を誘導する。

画像2

図2 大腸菌TypeⅠ-EシステムによるDNAの分解

ここから先の詳しい話については、Interferenceフェーズにはいるため、次回に持越したいと思う。

TypeⅡシステムでは、Cas9タンパク質とtracr(trans-activationg CRISPR)RNAと呼ばれている低分子RNAが主役となる。

tracrRNAはpre-crRNAのプロセッシングを誘導する役割と標的DNAの切断を活性化する役割を持つ。

TypeⅢシステムでは、AとBの2種類のサブタイプがある。

Aでは、細菌へ侵入してきたDNAを切断する

Bでは、DNAから転写されて生成したRNAを切断する

と考えられている。

Cmr複合体にはCmr-αおよびCmr-βの2種類があり、

P.furiosus株のCmr-αは、1分子のCmr1、1分子のCmr2、1分子のCmr3、3分子のCmr4、3分子のCmr5、1分子のCmr6、および、1分子のcrRNAから構成されている。

細菌の種類によって、CRISPR/Casシステムの種類が異なることは理解できる。

むしろおおまかに3種類で済んでいるだけ完成されたシステムなのかもしれない。

もちろん細かくみていけば違うと思うけど。

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