遺伝(ノーベル賞特別企画)-CRISPR/Cas9-No.6
前回まででやっと、CRISPR/Casシステムがどのようにして、DNAやRNAを切断するのか、Cas9って何?という話ができた。
また、DNAへの結合の仕方や切断の順番までをまとめることができた。
ゲノム編集という観点から、非相同末端再結合や相同組換え修復についてもまとめておきたい。
①相同組換え
姉妹染色分体(DNA複製によって生じた同じ配列を持つ染色体)のDNA配列を利用して正確な修復を行う。
しかし、染色体の欠失や転座を引き起こす可能性もある
②非相同末端連結(non-homologous end joining : NHEJ)
DNAの相同性とは無関係に切断された末端同士を直接連結する。
NHEJによる修復は、再連結に伴ってヌクレオチド数の増減を伴うことがあるため、修復の正確性は低い。
さて、詳しい説明を入れていきたいと思う。
・相同組換えについて
図1 相同組換え機構の概略
DNA二本鎖切断(DSB)が生じるとヌクレアーゼ等の働きにより3’突出末端が作り出される。これがリセクションである。
生じた3’突出末端に多数のRad51が巻き付くように結合する(フィラメント形成する)と、Rad54などとともに姉妹染色分体中に存在する相同な配列を探索する。
相同な配列が見つかると、姉妹染色分体と対合し、相同な配列を鋳型としてDNA合成を開始する。
その後、元の鎖と再連結し、修復が完了する。
・NHEJ
図2 非相同末端連結機構の概略
DNA二本鎖切断(DSB)が生じるとまずKuと呼ばれるDNA結合性タンパク質(Ku70とKu80からなるヘテロ二量体)がDSB末端に結合し、末端を保護する。
そのままDNAリガーゼIV/XRCC4複合体により末端が再連結され、反応が終了する。
さて、この単純な再連結反応は、確率としてはかなり低い。
多くの場合は、DNA依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs)やArtemisヌクレアーゼなどによる末端加工を経てから、末端が再連結される。
末端加工とは、プロセシングやエンドプロセシングともいわれ、DNAリガーゼによる再連結が可能な末端を作り出すことである。
切断に伴って切断部位近傍のヌクレオチドが失われることによって、DSB末端同士の相補性が失われると、再連結することができないため、ヌクレアーゼやDNAポリメラーゼによりDSB末端のヌクレオチドを増減させ、互いに相補的な末端を作り出す必要がある。
また、末端のヌクレオチドが3’ホスホグリコール酸基などのDNAリガーゼの基質とならない構造をとっていることもあり、修復前に除去することも必要となる。
これらの修復方法が、CRISPR/Cas9による切断後に行われることによって、遺伝子編集が完了することと成る。
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