【スタリィドール】愛の抜け殻【シナリオ】

シナリオスペック
プレイヤー人数:
4人
推奨レベル:2(難易度の調整はご自由に)
プラネタリカードルール:使用
所属組織:〈魔術師の庭〉または〈セブンス・ヘブン〉推奨
筋書きチェック:おうし座、かに座、さそり座

NPC

◇エンボ(キーNPC)
 星人形としては珍しく金属骨格とシリコーンの表皮を持つ中性的な少年(ここでいう少年とは、年の少ないことのみを意味し、男女の区別はない)です。元々は人工知能研究用のロボットです。詳細は「背景」を参照してください。ちなみに眼はオパールです。星人形化の際に光学センサー中のケイ素が化学反応を起こしオパールになりました。

◇能都志良(のと・しろう)(キーNPC)
 42歳の計算機科学者です。人工知能の研究をしています。エンボを開発しました。現在は誰にも会わず研究室に籠って研究を続けています。詳細は「背景」を参照してください。

◇緑川紀代美(みどりかわ・きよみ)
 51歳。能登志良が所属する研究所の所長です。エンボと能登の関係を心配しています。能登がエンボの面倒を一切見ないため、緑川と数名の研究員が持ち回りでエンボの遊び相手をしています。また、エンボの遊び相手としてPC達を手配しているのは緑川です。緑川やその他の研究員をエキストラとしてシーンに登場させることが可能です。

背景

 能登志良は人工知能の研究をしていました。彼は身体性を重要視しており、研究のためにエンボを開発しました。研究対象とはいえ、能登はエンボに一定水準の愛情を注いでいました。能登に妻子がいなかったことも無関係ではないでしょう。

 エンボに人間的な知能の兆しが見え始めたとき、折悪く女神の目に止まりエンボは星人形と化しました。一般的には愛する人形が星人形になることは喜ばしいことです。しかし今回ばかりは手放しで喜べる事態ではありませんでした。星人形としての自我の芽生えと共に、人工知能搭載チップに芽生え始めていた自我が消滅したのです。

 能登はエンボAIの直前のバックアップとエンボボディのスペアから自我発生の再現を行おうとしましたが、何度試してもうまくいきませんでした。最初のエンボが星人形にさえならなければ、自我発生メカニズムを解析することができたでしょう。しかし、もうここには自我の芽生えたAIはいないのです。能登には星人形エンボへの憎しみばかりが募っていくのでした。能登は愛していたはずのエンボを愛することができなくなってしまったのです。

予告夢

「何故、父は私を愛してくれないのか……とでも考えているのでしょうか?」猫頭の男が部屋の隅から現れ、少年の人形に語りかけます。少年は暗い顔で玩具のロボットを組み上げながら、猫男の言葉に耳を傾けます。
猫男「そのお考えはある意味正しく、ある意味で間違っています。あなたのお父上はあなたを愛していた。故に憎まざるを得なかったのです。人間がそのような矛盾した感情を持つのは、偏に外的要因で環境変化が発生した場合です」
少年「外的要因って?」
猫男「あなたでも、お父上でも、研究所の方々の誰でもない完全なる異物。あなたにもお心当たりがあるのでは?」
少年「女……神様?」
猫男「その通り! 知識の適切なアップデートを行わず、ただルーチンワークとして己が使命を徒に繰り返す浅薄なロートル! あなたのお父上の研究意義を解さず、その成果を台無しにしてあなたに自我を与えた愚昧な少女! 即ち女神でございます!……(咳払い)失礼、あなたの境遇を自分のことのように思うあまりに熱くなってしまいました」
少年「女神様が父の研究を邪魔しただって? そんなまさか!」
猫男「そのまさかなのでございますよ。残念ながら私たちは女神にその罪を償わせる力を持ちません。しかし代わりに、あなたとお父上の関係性を修復するお手伝いをすることができます。お父上の憎しみ悲しみの原因は研究を台無しにされたことです。なればこそ、その研究を完成させることができればお父上は救われましょう」
少年「じゃあ、僕が研究に貢献できれば」
猫男「その通りでございます! 私の見立ては間違っていませんでした。あなたのような聡明な人形であれば、必ずやお父上を救うことができるでしょう! 研究が完成した暁にはお父上はあなたを見直すことでしょう。研究を破壊した悪魔ではなく、科学に貢献した天使であると! あなたのために、とっておきの研究室をご用意しております。ささ、こちらへ」
猫男と少年は鏡の中へ消えて行きました。

回想

 PCと主人は緑川紀代美からエンボの失踪を知ります。伝えに来るのが能登志良ではなく緑川紀代美であることに注意してください。能登志良とエンボの関係は冷え切っているのです。

劇場

 巨大な研究所です。鏡の国の住人は研究員か被験者のどちらかになっています。人形兵は手術道具や工具を手に持ち被験者を追い回しています。研究所は病院のようなエリアと工場のようなエリアが入り乱れており、一見して研究分野が判然としない構造です。研究所の奥では知性と身体の関係を探求すべく、人間を切り刻んだり、体の一部を無骨な機械パーツに置換したり、脳を摘出した人間の体を人工知能に操縦させたりといった冒涜的な実験が行われています。エンボは研究所最深部でAIエンボ自我発生の再現実験を行なっています。

プラネタリカード

 ベネフィック4枚以上、マレフィック4枚以上を用意します。また、以下のマレフィックを用意します。

マレフィック:被験者
このサインでは異形のサイボーグが登場してPCたちを襲う。クライマックスフェイズ開始時、このカードが取り除かれていない場合、ランダムなモブ1体がこのサインに出現する。
マレフィック:狂技師
このサインでは異形のサイボーグが登場してPCたちを襲う。このサインに一度でも止まったPCはセッションが終わるまでの間、武器が「無骨なサイバネアーム」になる。ゲーム的な効果は無い。
マレフィック:狂科学者
このサインでは異形のサイボーグが登場してPCたちを襲う。クライマックスフェイズ開始時、このカードが取り除かれていない場合、ランダムなモブ1体のレベルが+1される。

 GMはメインフェイズ開始のタイミングでマレフィックを以下のように配置してください。

おうし座:邪悪な成長(p209)
ふたご座:被験者
しし座:狂技師
いて座:狂科学者

鏡の世界へ

 工場と病院が奇妙に入り混じった巨大な施設が目前に現れます。施設の中は血液と機械油の臭いで満たされています…赤く疎らに染まった白衣を着た人間の研究員たちが忙しなく研究活動に従事しています。その一方で、手術衣の人間が白衣の人形兵に追い回されています。人形兵は手術道具と工具を手に持っています。
手術衣の人間「うわああああああああああああああああああああああ」
 劇場の住人たちはPCに興味がないようです。人形兵ですらPCに積極的な敵対行動を加えてきません。勿論、人形兵にちょっかいを出せば反撃してきます。

筋書き

・第一幕
 生物は如何にして外界を認識し理解するのか。自身の身体を通してである。身体というフィルターを通す以上、ありのままの世界を知覚することはできない。身体構造によって変質した情報しか得られない。ならば、身体を改造すれば知覚できる情報は当然変わるだろう。ではオペの開始だ! 切り刻め! 置換せよ! 知覚させよ!

・第二幕
 鶏が先か、卵が先か。身体があるから動かそうとするのか、自我があるから動くことを望むのか。文字通り切り分ける必要があるだろう。思考以外の全てを欠いた人間は何を思うのか。ではオペの開始だ! 切り刻め! 摘出せよ! 渇望させよ!

・第三幕
 これまでの研究は全て迂遠であった。そもそも自我発生プロセスのブラックボックスを明らかにする必要はあったのだろうか。ブラックボックスごと人工知能に学習させれば良いのではないか。オペの開始だ! 切り刻め! 接合せよ! 教育せよ! 父上、お覚悟!

改変シーン

・第一幕
 手術台に乗せられた緑川紀代美。彼女を取り囲むは能登志良と人形兵たち。能登志良は十数体の人形兵たちによって無理矢理浄瑠璃めいて操縦されています。このままでは能登志良は緑川紀代美を切り刻んでしまうでしょう。能登志良を操る人形兵に下手な刺激を与えるのは危険です。緑川紀代美を救出する方向で事態を打開する必要があります。
 救出された緑川紀代美は、自分や能登志良たちは人工知能の研究者であること、エンボが(方法は滅茶苦茶だが)自分たちと同じく自我や知能の発生プロセスを解明しようとしている様子であることを語ります。

GMへ
このタイミングで能登志良が救出されると後の展開がおかしくなります。能登志良の救出は現時点で不可とプレイヤーにはっきり伝えてください。

・第二幕
 3m以上のパワードスーツを纏った人間が、右腕の電鋸で人間の頭頂部を切断し、左腕のスプーンで脳を掬い取ります。そして第3腕は摘出した脳を腰部シリンダーに丁寧に格納していきます。パワードスーツの顔面部には苦痛に歪む能登志良の顔が見えます。
 改変に成功すると能登志良と会話することができます。能登志良はエンボをネグレクトしている事実を認め、何故ネグレクトに至ったのか語ります。そして、自身の感情が矛盾していることに自覚があることも語ります。「背景」に記載した内容を語れば良いですが、能登志良は女神の存在を直接的に知覚していないことに注意してください。一通り語った後、エンボを救って欲しいとPC達に伝えます。そして、彼自身の意思に反してパワードスーツから高速垂直射出され行方不明となります。

・第三幕
 4m以上の人型の機械がPC達の目の前に現れます。頭部にはリボルバーめいて6個の穴が存在し、3個の人形の顔と2個の人間の頭が交互に据え付けられています。残りの穴には一体何が入るというのでしょうか。そこへ人形兵達が能登志良を連れてきます。人形兵たちは能登志良を手頃な大きさにカットして巨大人型機械の頭部ユニットに埋め込むつもりなのです。正面突破すれば交戦は避けられませんが……どう打開しましょう?

マスターシーン

 メインフェイズ中にプレイヤーのシーンが2回終わった後に開始します。ヤギのカプレッティーナがPC達の前に現れます。
カプレッティーナ「ごきげんよう、みなさん。今日は女神様から謎掛けを預かって参りました。見事全問正解することができればお好きなアイテムを1つ進呈しましょう。問題1、エンボの型堕ちの原因の一つは女神様です。女神様はどのような過ちを犯したのでしょうか。問題2、女神様はどうするべきだったのでしょうか。問題2については女神様自身も解答を出せていません。みなさんの真っ直ぐな答えをお待ちしています。」
 このマスターシーン以降、シーンプレイヤーはシーンの行動とは別に、女神様の謎掛けに挑戦できるようになります。「謎掛けに挑戦する」と宣言すれば、シーンにカプレッティーナが現れ、解答を聞いてくれます。2問とも正解となれば、好きなアイテムを1個獲得できます。

【問題1】エンボの型堕ちについて、女神様はどのような過ちを犯したのか。
【問題2】女神様はどうするべきであったか。
【問題1:解答例】AIに芽生え始めた自我を殺して、星人形としての自我を芽生えさせた。
【問題2:解答例】解答例は特に準備していないので、GMが良いと思ったら正解としましょう。ちなみに弊卓では「報連相」という解答がなされ受理されました。

エネミーデータ

エンボ
宝石:オパール
霧装の姿:無骨なサイバネアーム
運命力:3/攻撃力:1/耐久値:15
守護星座:かに座
戦星術:【基本攻撃】(長射程)、【鼓舞】、【甘言】
モブ:兵士/レベル1/さそり座に配置
モブ:工作兵/レベル1/やぎ座に配置
モブ:狙撃手/レベル1/いて座に配置/兵士と同じ効果だが、対象が【距離】3〜3+[レベル]以内にいる全PCである。
GMへ
エンボは【鼓舞】やマレフィックの効果でモブを強化して、モブに戦わせます。兵士と狙撃手がいなくなるまでは、エンボは【基本攻撃】を使用しません。

あとがき

 3年くらい温めていた「シンギュラリティ到来かと思ったら付喪神だった」という出オチネタをやっと形にできました。スタリィドールの世界設定に感謝。
 本シナリオに悪人はいません(ガット除く)。悪かったのは間(ま)です。
 ゴア描写は銃夢のノヴァ教授を参考にしました。

以上

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