詩 『安全監督官』
自分が何故この座にいるのか分からない時がある。
天が明瞭に私にその地位を配役したのだとしても、
私はその運命に近頃、耐えきれずにいた。
窓を見ると、外は雲の濃くかかる薄い灰青色の空。
妙に天気が気にかかる。明日は雨だろうか。
まあ、それでもよいが…。
私のまとう空気は常に死の影を従える。
反対者どもは当面、私に近寄ることはないだろう。
この権力は、死の恐怖を基礎とするが、
厄介にもそれは専ら私自身に刃向かってくるのだ。
私は苛立ちながら、自らに問いただす。
この巨大な力の本質は何であるかと。
もうひとりの私が、それに黄色い声で答える。
お前がもて遊ぶ、死という概念。
お前が権力として振るう、死の恐怖という雰囲気。
それを可能にしたのは、死に対する人々の無知。
そして、その無知からくる権力への隷属の感覚。
蓋し、未だ人々は死を知らぬ。
未だ人々は死の本質を問うことをも知らぬ。
よって、未だ人々は生の意義を知らぬ。
よって、未だ人々は生を知らぬ。
よって、未だ人々は自律を知らぬ。
よって、未だ人々は勇気を知らぬ。
よって、未だ人々は自由を知らぬ…
(2023)
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