詩『マーメイド・アイル』

碧い海が拡がる夏
水面に一筋の白い航跡を描いて
ヨットは流れる
大洋の中に三人を載せて

一人は女で二人は男
航路を外れ禁じられた域に入った為
太陽の熱線が積荷を焼き
船は倒れた

海に投げ出された三人は
溺れまいと船体にしがみつき
男と女は後に泳ぎ来る別の男を
自ら助かるために突きとばす

海に流されたその男は、私
私は水中に沈んでゆく
呼気の泡と共に海底に両手を広げ
私は海に彷徨う人魚姫

幾許のまどろみの後
水の精霊が私に呼びかけた
彼女は海界の女王
麗しい瞳で私を見つめてる

女王は私をもてなしてくれる
海底の沈船に私を棲まわせて
そこは美しい内装の国際ホテル
私は海の魚たちと一緒に泊まり

女王は披露してくれる
輝く珊瑚礁を背景に
彩り鮮やかな魚や海草たちの舞いを
夢の様な海の妙なる調べと共に

時を忘れて女王と水の精らと戯れ
私は心も体も人魚姫になりかけた
女王に愛の献辞を捧げると
彼女は美しい微笑みを返してくれる

女王は私を竜の落とし子の様に慈しむ
そして私を海界に留めたがった
だが私の心の奥で天与の時報が鳴り
さよならの刻の知らせを女王に告げる

彼女は寂しそうに私を送り出す
はじまりの時の誓いを交わすように
心からの挨拶と共に
私は彼女と別れ去ってゆく

私は海面へ昇ってゆく
海に差す光は木漏れ陽のよう
美しい海の国にありがとうを言うと
肺の酸素が尽きたように意識は暗闇に

気がついてみると私は海岸の上
多くの救急隊員に囲まれていた
ドクターが叫ぶ声が聞こえる
「奇跡だ! 蘇生した!」









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