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『プロジェクトμ』原版より(3)


 一粒の、目に見えないほどのとても小さな光が、るり色の星空を降ってくる。それは澄みわたる池の水面に垂れた朝露のしずくのように、大気を満たしていた芳醇なエーテルの、何千兆もの微細な粒子のしぶきを撥ね上げると、虚空に滑らかなカーブを描く波紋の輪を果てしなく広げて、細かくちらちらと震える。光のしずくは濃密なニュートリノの海に電子の泡をかき立てながら、底知れない暗黒の深みに吸い込まれるように沈んでゆき、やがて消え去ってゆく。そうして辺り一面にオーロラが静かに浮かび出て、明るく透けた紫色の雄大なカーテンが、まるで水にたゆたう蓮の花弁のように空間に翻り、星の瞬きを飾りに大天蓋を広く覆いつくして波打っていった。もちろん、わたしたちの空で。たった今。


小説『プロジェクトμ』の原版で、1994年制作の
 小説『メトロループ ━━ META EMBRYOLOGY』
                  より抜粋

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