早起きの感想

目覚めたくなかった。体がゼリーのようだった。ゼリーの体になったことはなかった。しかし彼がそう言うからには、全くそうであるような気がした。薄目を開けて見ることさえ忍ばれた。何があるのかは分かり切っていた。結露と黒カビだらけの窓から差し込んでくる忌々しい朝日。日に焼け切った古い畳。ナフタレンの匂い。誰かのため息。私もうんざりする。笑い声。テレビの音。何がおかしいのか分からない。美しいものが一つもない。こんなにも汚い世界に踏み出すために顔なんか洗ったくらいじゃ、歯なんか磨いたくらいじゃ、とても焼け石に水としか思えなかった。結局、朝食を取らないのもみんなと同じ時間に登校できないのも「難しい子どもだ」ということにされた。それで片付くならよかった。母子家庭であることも拍車をかけた。母は心を病んでいた。「みんなの持つ私のイメージ」に寄せてみたくてなんとなく手首を切った。あからさまに疎むもの、真似するもの、身を案ずるふりをして株を上げるもの、種々様々な反応が見られた。空気を支配したようで気味が良かった。卒業までカッターナイフを携帯することがやめられなかった。私はもはや難しい子どもでは片付かなくなっていた。立派な病気だった。加えて盗癖と虚言癖とがあった。母はよく他人の家の親に頭を下げた。母がやつれ切って外に出られない日には祖母が代わってそうした。しかし当時の私は既に小狡く立ち回り自分も被害者側につく術を知っていたので、母は頭を下げた分と同等かそれ以上に人から頭を下げられてもいた。(なんのことはない。ざまあみさらせ)母の隣にぽつんと佇みまるで無心のような顔つきをしながら胸中で私は何度も何度も呟いた。誰にともなく。死んでまえ。人が憎くて仕様がなかった。頭の悪い他人、頭の悪い自分、そんなもので回っているだけの哀れな世界。お前だっていくらか早く役目を終えて眠りたいことだろうね。私が毎夜お前を抱きかかえて子守唄の一つでも歌ってやれたならよかった。優しい歌を歌ってあげる。この歌を作った人の話もしよう。体がゼリーのようだったと言うんだ。ひどくお酒を飲んだ朝にね。羊水の中から本物の光を見たと言うよ。

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