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技術解説:アステロイド・シティ

照明は砂漠の太陽のみ?!35mmフィルム撮影の解説を交えながら、その独特なパステル調のルックが話題のウェス・アンダーソン監督作品『Asteroid City』の撮影技術を分析していきます。

当記事は、動画制作のオンラインサロン UMU TOKYO で公開されたものです。限定公開を目的に有料化をしています。公開日:2023.12.23
https://community.camp-fire.jp/projects/view/231393


1. ウェス・アンダーソンの世界観

架空の都市 Asteroid City を舞台にした本作は、スペインの荒野にある農場を貸し切り、そこに町全体の巨大なオープンセットを組んで、2022 年 8 月末からの 35 日間で撮影されています。

The Making of Desart Town, Asteroid City - Shot On KODAK 35mm Film

美術セットに関しては、遠景にある巨大な岩から家などの建築物、荒野に点在するサボテンに至るまで、町をまるごと再現するほどのかなり大規模なセットとなっています。

The Making of Desart Town, Asteroid City - Shot On KODAK 35mm Film

本作の原作・脚本・監督は、巨匠 Wes Anderson が手がけています。Wes Anderson の作品は、シンメトリーな構図、ポップな色彩など、その独特なアートワークや世界観が、世界中のクリエイターから高い評価を得ており、その代表作となる 2014 年公開の『グランド・ブダペスト・ホテル(Grand Budapest Hotel)』は、米国アカデミー賞をはじめ、数々の映画賞を受賞しています。

その独特な世界観を安定して作り続ける上で、Wes Anderson は撮影監督の Robert Yeoman、美術監督の Adam Stockhausen、グリップの Sanjay Sami など、長年同じスタッフとタッグを組むことで、ブレのない芸術性の高いアートワークを作り上げているようです。

Kodak

また本作の製作費に関しては、35 億円($2.5M)とされており、映画上映の売り上げを意味する興行収入は、全世界でおよそ 76 億円($5.4M)を記録しています。


2. 35mm フィルム撮影のメソッド

Wes Anderson の映画は、その全作品がフィルムで撮影されており、本作も映画用の 35mm フィルムで撮影されています。カメラに関しては、35mm 用のフィルムカメラとしては ARRI 社の最新モデルとなる、ARRICAM が使用されています。

Kodak

映画用の 35mm フィルムカメラは、ハイスピード撮影ができる MOS 型、フィルムの走行音を防ぐことで同録撮影(音声収録)ができる 同録型 の 2 種類のタイプがありますが、本作で使用される ARRICAM は、その同録型にあたるカメラになります。

ARRICAM には 2 種類のモデルがあり、本作ではその両方が使用されているという話ですが、標準モデルとなる ARRICAM ST は最大 60 fps、小型・軽量モデルとなる ARRICAM LTは、最大 40 fps の撮影が可能となります。

The History of ARRI in a Century of Cinema - ARRI

記録メディアとして考えると、映画用の 35mm フィルムには、24 fps 撮影(3-Perf)で 6 分弱の映像を収録できる 400 feet 巻、15 分弱の映像を収録できる 1000 feet 巻の 2 種類がありますが、上記の現場写真では、大型のマガジンに 1000 feet 巻のフィルムが装填されています。

How to read a Kodak film can rabel - Kodak

また本作は、フルカラーの映像と、モノクロの映像で構成されていますが、撮影用ネガフィルムに関しては、KODAK VISION3 200T 5213EASTMAN DOUBLE-X Black & White 5222 の 2 種類が使用されています。末尾の 4 桁の数字は、フィルムの型番(Film code)を表しており、5 からはじまる型番は 35mm 以上、7 からはじまる型番は 16mm 以下のフィルムを意味します。

KODAK VISION3 200T 5213
EASTMAN DOUBLE-X Black & White 5222

こうしたフィルムタイプ(Film Stock)は、今でも Dehancer など Film Print Emulation 系のプラグインで見る機会がありますが、それぞれ発色やコントラストなどの特性が異なるため、フィルムタイプの選択には、フィルムの感度を変えたり、色温度を変える以上の意味合いがあります。

フィルムタイプに関しては、全てのシーンで同じものが使われているようですが、200T は 3200K のタングステン光源用のフィルムになるので、色温度が5600K の太陽光で撮影する場合には、マットボックスに 85 という暖色のフィルターを入れて、色温度を変換しながら撮影をします。

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