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技術解説:The Killer

Super 35 規格にクロップしてるのはなぜ? Behind The Scenes 映像をもとに、RED V-RAPTOR ST 20 台以上が投入された David Fincher 監督の最新映画『The Killer』の技術解説をしていきます。

1. The Killer の制作環境

撮影開始から 2 年の時を経て、2023年11月に Netflix で公開された David Fincher 監督の最新映画『The Killer』は、同名のフランスの漫画(graphic nobel)を原作とした、アクション・スリラー映画となっています。脚本は、Se7en、Fight Club などの脚本を手がけた Andrew Kevin Walker 氏が担当しています。

THE KILLER - Official Teaser Trailer

製作予算は、およそ 1.75 億ドル(約260億円)と推定されており、撮影地はパリ、ドミニカ共和国、アメリカ各地など複数のロケ地を転々とし、2023年3月末にクランクアップをしています。

THE KILLER - Official Teaser Trailer

撮影期間は 2 年と、2 時間の映画の撮影としてはやや長めと言えますが、そこにはパンデミックの影響もあったようで、実際の撮影日数は、スタッフ談ではおよそ 90日 という話です。撮影が開始された 2021 年は、まだコロナ禍の最中ということで、Behind The Scenes 映像では、現場でスタッフ全員がマスクをしている姿が見られます。

David Fincher "The Killer" behind the scenes

Behind The Scenes 映像内で見られるスタジオは、米国 LA にある Triscenic Production Services の撮影スタジオで、LED Wall を活用した撮影などがおこなわれています。スタジオは、486 坪の広さのある Stage 2 が使用されたようです。

David Fincher "The Killer" behind the scenes

撮影監督は Gone Girl、Mindhunter、Mank に引き続き、ここ数年 David Fincher 監督とコンビを組んでいる、Erik Messerschmidt 氏が担当しています。Messerschmidt 氏は、照明部(Gaffer)出身の撮影監督として知られており、Gone Girl の撮影では Gaffer を担当しています。


2. RED V-RAPTOR ST

長年、RED Digital Cinema 社のカメラで撮影を続けている David Fincher 監督の最新作ということで、本作では、カメラは RED V-RAPTOR ST 8K VV が使用されています。

撮影は 2 班体制で行われていたようですが、カメラ台数に関しては、メインユニットが 10 台、背景素材を撮影するセカンドユニットが 12 台 を使用していた、という情報があります。機材レンタルハウスは、北米に 10 拠点を展開する Keslow Camera が使われているようです。

David Fincher "The Killer" behind the scenes

また撮影監督の Messerschmidt 氏によると、カメラは KOMODO 6K も使用されているようです。V-RAPTOR 8K VV がフルサイズ規格(Vista Vision)であるのに対して、KOMODO 6K は Super 35 規格と、それぞれイメージセンサーの大きさが異なりますが、本作では V-RAPTOR 8K VV のセンサーをクロップした 6K Super 35 の記録フォーマットが採用されている、という点が特徴的といえます。

David Fincher "The Killer" behind the scenes

David Fincher 氏は、撮影素材にトリミング、スタビライズのための余白を設けて撮影することが知られていますが、本作では、6K 17:9 の記録フォーマットをクロップするような形で、トリミングがされています。クロップ後の解像度はおよそ 4K となり、イメージサークルは Blackmagic Pocket Cinema Camera などと同じ マイクロフォーサーズ 程度という計算になります。

またカメラの感度に関しては、Behind The Scenes で確認できる場面では、初期設定の ISO 800 ではなく ISO 640 に設定されており、照明環境に応じて ISO 感度を自由に変える、Exposure Index のメソッドが活用されていることが推測されます。


3. Leitz Summilux-C

本作で、CMOS イメージセンサーが Super 35 規格にクロップされている背景には、使用レンズが Super 35 規格の Leitz Summilux-C である、という点も大きく影響しています。

Leitz Summilux-C T1.4 シリーズは、Messerschmidt × Fincher 氏による人気作品 Mindhunter、Mank でも使われている思い入れのあるレンズで、本作では同じレンズを使用するために、あえて Super 35 規格 の記録フォーマットを採用している、と考えられます。

Leitz SUMMILUX-C

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