韓国ドラマの“DI”を研究する
DI(Digital Intermediate)とは?話題の Netflix ドラマ『ザ・グローリー』の技術解説を通して、K-Drama の独特のルックを生み出す韓国の人気 DI スタジオ、カラリストに関する情報を紹介していきます。
1. Netflix 韓国ドラマの制作事情
この記事で紹介する Netflix ドラマ作品『ザ・グローリー』は、幼少期に壮絶ないじめを体験した 1 人の女性の生涯をかけた復讐劇を描く、全 16 話の物語です。制作は、JTBC Studios と並んで Netflix とパートナーシップを締結する韓国最大のドラマ制作会社、Studio Dragon の子会社である Hwa&Dam Pictures が担当しています。
ネット上に制作費に関する情報はありませんが、同時期に制作された、大規模なアクションや CG 合成のない『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(全16話)の総制作費が、およそ 20 億円 という点から推測すると、おそらく同じ規模感ではと考えられます。
本作では、1 話あたりのギャラが 1000 万円とも言われる、韓国のスター作家である Kim Eum-Sook 氏が脚本を担当していますが、その文学的なセリフまわしもまた、作品の大きな魅力となっています。韓国では、何よりも “脚本の面白さ” を重視したドラマ制作が行われるため、脚本家の地位が高いといわれています。
また韓国では、若手の脚本家を支援する取り組みもたくさん存在しており、CJ ENM の若手作家発掘プロジェクト O'PEN では、2017年からの 4 年間で約 130 億ウォンが投資され、94 名の脚本家を輩出したという実績があります。他にも釜山国際映画祭が運営する Asian Cinema Fund、韓国映画振興委員会(KOFIC)が主催する Screenplay Contest Award など、業界全体でさまざまな支援が行われているようです。
そんな高次元な環境で制作される脚本もさることながら、K-Drama(韓国ドラマ)は映像のルックにも大きな特徴があります。
前述の『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』などコメディ要素の強い作品は、クセのない自然体なルックが多い印象がありますが、この記事で紹介する『ザ・グローリー』などシリアスな作品では、日本や欧米圏の作品にはない独特な色彩、コントラスト感による K-Drama 特有のルック が見られます。
以降、今回の記事では、Netflix ドラマ『ザ・グローリー』の技術解説や映像の分析を交えながら、世界中から注目を集める K-Drama のルックを作り出している韓国の DI スタジオ、カラリストに関する情報を紹介していきたいと思います。
2.ALEXA Mini LF + Signature Prime
まずは、その特有のルックの源泉となる、カメラまわりの機材構成を見ていきます。Behind the Scenes の映像を見てみると、本作では、カメラは ARRI ALEXA Mini LF、レンズは ARRI Signature Prime が使用されているようです。
ALEXA Mini LF は、35mm フルサイズ規格(Large Format)の 4.5K CMOS イメージセンサーを搭載した、ALEXA LF の小型・軽量版となるモデルです。ALEXA Mini LF をはじめ、ALEV III センサーを搭載した ALEXA のルックは、ハイライトの階調、スキントーン、粒状感などあらゆる面で 35mm フィルムの質感を再現している、という特徴があります。
ALEXA LF が登場した 2018 年以降、Netflix で公開される K-Drama の人気作品のほとんどが ALEXA LF、ALEXA Mini LF で撮影されており、忠実で自然なスキントーンなど、その上質な質感は K-Drama のルックを語る上では欠かせない要素となっています。
一方、Signature Prime は、ALEXA LF 向けに開発された 35mm フルサイズ対応の単焦点レンズのシリーズで、ALEXA LF と同じ LPL マウントを搭載しています。そのルックに関しては、クセのない現代的な質感で、広角側のレンズでも歪曲(Distortion)が少なく、歪みがより直線的になるなどの特徴があります。
この Signature Prime は拡張性も高く、Diopter、Rear Net Holder など、レンズ後部に小型の Rear Filter を装着することで、レンズの質感を自由に変えることが可能となります。2023 年には、ボケの質感を自由にコントロールできる Impression Filter が発表され話題となっています。
また Behind the Scenes 映像をよく見てみると、マットボックスに “BS 1/8” のラベルが貼られており、レンズフィルターとして Tiffen 社の Black Satin が使用されていると推測されます。
2014 年発売の Black Satin は、Tiffen のディフュージョン系のフィルターの中で最も標準的なモデルで、その効果としては、映像の解像力やコントラストがゆるやかになり、ハイライトに適度なにじみが発生します。また Black 仕様なので、シャドウの浮きが抑えられた状態で、ディフュージョン効果を得ることができます。
続いて、K-Drama 特有のルックを作り出している韓国の DI スタジオ、カラリストに関する情報を紹介していきたいと思います。映画作品では、カラーグレーディングの代わりに Digital Intermediate(DI)という用語がよく使われますが、この DI は何を意味しているのか?
3. Digital Intermediate とは?
Digital Intermediate は、フィルム撮影された映像をデジタル化して、編集、カラーグレーディング、CG・VFX 合成などの 中間処理(intermediate)をデジタル環境で完結した上で、完成した映像を再びフィルムに焼き付けるという、2000 年代の映画業界で生まれたワークフローを意味しています。
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