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韓国ドラマの Digital Intermediate 事情 <第2刷>

DI(Digital Intermediate)とは?話題の Netflix ドラマ『ザ・グローリー』の技術解説を通して、K-Drama の独特のルックを生み出す韓国の人気 DI スタジオ、カラリストに関する情報を紹介していきます。

当記事は、動画制作のオンラインサロン UMU TOKYO で公開されたものです。限定公開を目的に有料化をしています。公開日:2023.3.19
https://community.camp-fire.jp/projects/view/231393

1. Netflix 韓国ドラマの制作事情

この記事で紹介する Netflix ドラマ作品『ザ・グローリー』は、幼少期に壮絶ないじめを体験した 1 人の女性の生涯をかけた復讐劇を描く、全 16 話の物語です。制作は、JTBC Studios と並んで Netflix とパートナーシップを締結する韓国最大のドラマ制作会社、Studio Dragon の子会社である Hwa&Dam Pictures が担当しています。

ネット上に制作費に関する情報はありませんが、同時期に制作された、大規模なアクションや CG 合成のない『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(全16話)の総制作費が、およそ 20 億円 という点から推測すると、おそらく同じ規模感ではと考えられます。

ウ・ヨンウ弁護士は天才肌 - Netflix

本作では、1 話あたりのギャラが 1000 万円とも言われる、韓国のスター作家である Kim Eum-Sook 氏が脚本を担当していますが、その文学的なセリフまわしもまた、作品の大きな魅力となっています。韓国では、何よりも “脚本の面白さ” を重視したドラマ制作が行われるため、脚本家の地位が高いといわれています。

また韓国では、若手の脚本家を支援する取り組みもたくさん存在しており、CJ ENM の若手作家発掘プロジェクト O'PEN では、2017年からの 4 年間で約 130 億ウォンが投資され、94 名の脚本家を輩出したという実績があります。他にも釜山国際映画祭が運営する Asian Cinema Fund、韓国映画振興委員会(KOFIC)が主催する Screenplay Contest Award など、業界全体でさまざまな支援が行われているようです。

Conent Creator Program O'PEN - CJ ENM

そんな高次元な環境で制作される脚本もさることながら、K-Drama(韓国ドラマ)は映像のルックにも大きな特徴があります。

前述の『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』などコメディ要素の強い作品は、クセのない自然体なルックが多い印象がありますが、この記事で紹介する『ザ・グローリー』などシリアスな作品では、日本や欧米圏の作品にはない独特な色彩、コントラスト感による K-Drama 特有のルック が見られます。

以降、今回の記事では、Netflix ドラマ『ザ・グローリー』の技術解説や映像の分析を交えながら、世界中から注目を集める K-Drama のルックを作り出している韓国の DI スタジオ、カラリストに関する情報を紹介していきたいと思います。


2.ALEXA Mini LF + Signature Prime

まずは、その特有のルックの源泉となる、カメラまわりの機材構成を見ていきます。Behind the Scenes の映像を見てみると、本作では、カメラは ARRI ALEXA Mini LF、レンズは ARRI Signature Prime が使用されているようです。

The Glory Inside Look - Netflix

ALEXA Mini LF は、35mm フルサイズ規格(Large Format)の 4.5K CMOS イメージセンサーを搭載した、ALEXA LF の小型・軽量版となるモデルです。ALEXA Mini LF をはじめ、ALEV III センサーを搭載した ALEXA のルックは、ハイライトの階調、スキントーン、粒状感などあらゆる面で 35mm フィルムの質感を再現している、という特徴があります。

ALEXA LF が登場した 2018 年以降、Netflix で公開される K-Drama の人気作品のほとんどが ALEXA LF、ALEXA Mini LF で撮影されており、忠実で自然なスキントーンなど、その上質な質感は K-Drama のルックを語る上では欠かせない要素となっています。

ALEXA Mini LF - ARRI

一方、Signature Prime は、ALEXA LF 向けに開発された 35mm フルサイズ対応の単焦点レンズのシリーズで、ALEXA LF と同じ LPL マウントを搭載しています。そのルックに関しては、クセのない現代的な質感で、広角側のレンズでも歪曲(Distortion)が少なく、歪みがより直線的になるなどの特徴があります。

この Signature Prime は拡張性も高く、Diopter、Rear Net Holder など、レンズ後部に小型の Rear Filter を装着することで、レンズの質感を自由に変えることが可能となります。2023 年には、ボケの質感を自由にコントロールできる Impression Filter が発表され話題となっています。

ARRI Tech Talk - Impression Filters

また Behind the Scenes 映像をよく見てみると、マットボックスに “BS 1/8” のラベルが貼られており、レンズフィルターとして Tiffen 社の Black Satin が使用されていると推測されます。

The Glory Inside Look - Netflix

2014 年発売の Black Satin は、Tiffen のディフュージョン系のフィルターの中で最も標準的なモデルで、その効果としては、映像の解像力やコントラストがゆるやかになり、ハイライトに適度なにじみが発生します。また Black 仕様なので、シャドウの浮きが抑えられた状態で、ディフュージョン効果を得ることができます。

Triangle of Diffusion - Tiffen

続いて、K-Drama 特有のルックを作り出している韓国の DI スタジオ、カラリストに関する情報を紹介していきたいと思います。映画作品では、カラーグレーディングの代わりに Digital Intermediate(DI)という用語がよく使われますが、この DI は何を意味しているのか?


3. Digital Intermediate とは?

Digital Intermediate は、フィルム撮影された映像をデジタル化して、編集、カラーグレーディング、CG・VFX 合成などの 中間処理(intermediate)をデジタル環境で完結した上で、完成した映像を再びフィルムに焼き付けるという、2000 年代の映画業界で生まれたワークフローを意味しています。

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