ーーー このnoteはネタバレを含みます ーーー
『PSYCHO-PASS』はフジテレビで深夜に放送されたアニメ。私はこの作品が好きなのですが、作品への向き合い方で後悔していることが一つあります。
それは本を読んでこなかったことです。
PSYCHO-PASSという作品(とくに1期)は文学や哲学書を引用した台詞がよく出てきます。例えば、第1話冒頭の槙島聖護と狡噛慎也が対峙する大事なシーンもそのひとつです。
知性を感じる二人の会話に厨二心が震えると同時に凄く後悔したのを覚えています。活字が苦手で今まで本読んでこなかった私が本を読んでこなかったことを強く後悔したのは人生でこれが初めてです。
本を知っていると作品をより一層作品や登場人物、世界観に深く入り込むことが出来る気がしたので作品内に出てくる本をまとめてみました。
2023年5月、映画PSYCHO-PASS PROVIDENCEの公開に合わせて1期以降の全シリーズ分も追加しました
PSYCHO-PASS
『善悪の彼岸』 フリードリヒ・ニーチェ
『1984年』 ジョージ・オーウェル
1期 4話:槙島聖護が読んでいた本
『戦争論』 カール・フォン・クラウゼヴィッツ
槙島聖護の戦場の摩擦についての説明
『人間不平等起源論』 ジャック・ルソー
『さらば、映画よ』 寺山修司
1期 5話:槙島 聖護が御堂 将剛に勧めた本
『十二夜』 シェイクスピア
1期 6話:女学校の文学の授業で扱っていた作品。シェイクスピアの喜劇。
『マクベス』 シェイクスピア
1期 6話:文学の授業でシェイクスピアの喜劇を授業で受けた女子生徒に、王陵璃華子が伝えたシェイクスピアの悲劇作品。※この会話の後(4:32)、女の口元のアップが映り、何か口パクするが何と言ってるか不明
『タイタス・アンドロニカス』 シェイクスピア
王陵璃華子が好きなシェイクスピアの悲劇作品のひとつ
『死にいたる病』 キルケゴール
王陵 璃華子の父が好きだったキルケゴールの言葉
『暴力』 ミシェル・ビビオルカ
雑賀譲二による公安局刑事課向け?の講義での発言
『パイドン―魂の不死について』 プラトン
医療用サイボーグにつてのインタビューを受ける泉宮寺がインタビュー内でプラトンの引用を使う
『情念論』 デカルト
槙島がドミネーターを向けながらも何もできない常守に対してデカルトを引用する
『闇の奥』 ジョセフ・コンラッド
1期 13話:狡噛慎也(こうがみしんや)が療養中にベットで読んでいた本
『幸福論』 ウィリアム・ラッセル
槙島とチェのチェスをしながらの会話で登場する
『あらかじめ裏切られた革命』 岩上 安身
1期 14話:槙島聖護がソファに座りながら読んでいた本
『虐殺器官』伊藤計劃
槙島とチェの対話
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 フィリップ・K・ディック
フィリップ・K・ディックを読んだことがないというチェ・グソンに槙島が最初に読む一冊として勧めた本。※この会話中、槙島はマドレーヌを紅茶につけて食べている
『記憶屋ジョニィ』 ウィリアム・ギブスン
PSYCHO-PASS1期 3話に出てくるフロッピーディスクには『Johnny Mnemonic』というタイトルがつけられている。『Johnny Mnemonic』はウィリアム・ギブスンの短編小説『記憶屋ジョニィ』を原案に作られた映画。15話でチェのギブスン好きが槙島に指摘される。このディスクはチェが作ったものだとわかる。
『裁きの門』マーセデス・ラッキー※
PSYCHO-PASS1期 16話 タイトル「裁きの門」。マーセデス・ラッキーの著作と関係しているかは不明
『パンセ』 ブレーズ・パスカル
『大衆の反逆』 オルテガ
『悪徳の栄え』マルキ・ド・サド
公安局局長(禾生)が槙島に返した本
『ガリヴァー旅行記』 ジョナサン・スウィフト
シビュラシステムの仕組みを知った槙島が局長に行った台詞
『権力と支配』マックス・ウェーバー
『監獄の誕生』ミシェル・フーコー
具体的な引用や作品名は出てこないが『監獄の誕生』を読むとフーコーの権力論が理解できるかもしれない。
『刑罰理論』ジェレミー・ベンサム
具体的な引用や作品名は出てこないのが上記の対話でジェレミー・ベンサムの名が出てくる。会話の中のキーワードとしてパノプティコン(ベンサムが提唱した刑務所の囚人監視施設の方式)があり、理想的な刑務所として『刑罰理論』の中で提案されている。
PSYCHO-PASS 2期8話、雑賀先生と鹿矛囲との対話でも、「パノプティコン」の話はでてくる。
『マタイによる福音書』
13章24-43節に出てくる毒麦のたとえを、槙島が引用している
『ライ麦畑でつかまえて』J・D・サリンジャー※
1期22話で狡噛が槙島を追い詰めるシーンは、この作品のオマージュではないかという説がある。以下の台詞からも槙島は狡噛に殺される覚悟ができていて、この場所を自ら好んで選んだようにも思える。
『失われた時を求めてースワン家のほうへ』 マルセル・プルースト
22話(最終話):狡噛慎也がラストシーンで読んでいた本。
1期は、たばこの吸い殻と読みかけのこの本のアップで終わる。
文学史上最も難解な長編とされているこの本を読んでいる狡噛の知能の高さや今後の孤独な長い旅路を示しているのだろうか。
また、この本の主人公はマドレーヌを紅茶につけて食べる。それと同じことをやっていた人物がいる。それが槙島である。(PSYCHO-PASS1期 15話)
死して尚、狡噛と槙島との繋がりを感じさせるシーンになっている。
劇場版『PSYCHO-PASS』では冒頭でこの本の引用が登場。また序盤に現れたテロリストはこの狡噛の文庫本を所持している。プルーストは1期からの繋がりを見せる意味で登場させたと脚本の深見さんはインタビューで語っている。
PSYCHO-PASS 2
『地獄の季節』アルチュール・ランボー※
鹿矛囲が雑賀との会話の中でいう「地獄の季節」というのは、作中でのパノプティコンの不具合により起きた過去の事故を指しているのでアルチュール・ランボー著の『地獄の季節』と全く関係ないかもしれない。
劇場版『PSYCHO-PASS』
『黒い皮膚・白い仮面』フランツ・ファノン
傭兵ルダカンダが読んでいた本。メモ代わりにするくらいなのでとくに思い入れはなさそう。ファノンを引用した理由については、ストーリー原案・脚本を担当した虚淵玄(ニトロプラス)と、共同で脚本を担当した深見真の2人にインタビューで書かれている
『地に呪われたる者』フランツ・ファノン
狡噛が拷問を受けながらルカダンダとする会話の中で引用が出てくる
PSYCHO-PASS SS
『罪と罰』ドストエフスキー
「罪と罰」はCase.1のサブタイトルにもなっていて、作中でも松来ロジオン(通称ロージャ)と宜野座の会話の中で明確に出てくる。
『論語』孔子
テンジンと狡噛が出会い食事中の対話で出てくる「義を見てせざるは勇なきなり」というフレーズは、孔子の書いた『論語』の中に出てくる言葉だ。
『恩讐の彼方に』菊池寛
Case.3のタイトルにもなっておりテンジンの父の持っていた本。作中テンジンは狡噛の助けてもらいながら読み進め自身の境遇とも重ねていく。
PSYCHO-PASS 3
『くるみ割り人形とねずみの王様』E.T.A.ホフマン
第三期では梓澤廣一がこの本を読む描写が何度も出てくる。彼にとってのクラカトゥクとは何かは『PSYCHO-PASS FIRST INSPECTOR 後編』で名言される
『ギリシャ神話』
3期はサブタイトルにギリシャ神話絡みのものが多い
PSYCHO-PASS 3 FISRT INSPECTOR
『大阿蘇』三好達治
慎導篤志がシビュラシステムの前で幼い息子の灼に言った台詞は「大阿蘇」の引用である。これをトリガーに灼の記憶は封印された。
※映画 PSYCHO-PASS PROVIDENCE内でもこの言葉を使う人物が出てくる
映画 PSYCHO-PASS PROVIDENCE
『??』??第?章??節???
作品冒頭 砺波告善の台詞からはじまる。序盤は新約聖書の引用のようにも聞こえるが、本の引用かどうかは不明
『新約聖書』第一章18節 テモテへの手紙
序盤の戦闘で聞こえる台詞。雑賀と狡噛のプロファイリング中での会話で『新約聖書』の引用だとわかる
『ヨハネの黙示録』
キリストの愛弟子ヨハネはパトモス島に流刑となり、ある時啓示を受けて『黙示録』を書いたとされている。
まとめ
書き出してみると私が覚えていた印象的なシーン以外にもかなり本の引用が出てきていた。当時、意味もわからず気付かずにスルーしてしまっていたことを思い知らされる。全ての作品を読むのは難しいけど、気になった作品だけでも読んでみるとより作品への理解が深まるかもしれません。
追記 2023.5.26。『劇場版 PSYCHO-PASS PROVIDENCE』を観るにあたり今回全シリーズを復習し直し追加しました。アニメ一期がとにかく本の引用が多いのがわかります。
情報を整理するなかで『劇場版 PSYCHO-PASS』のストーリー原案・脚本を担当した虚淵玄(ニトロプラス)と、共同で脚本を担当した深見真の2人にインタビューを見つけました。そこには文学や哲学の引用を一期で散々やったから劇場版ではもういいだろうと思ったが塩谷監督にいれてほしいと言われたというエピソードや「頭がいいやつほど強いという世界観」について語られています。こちらも面白いのでぜひ読んでみると良いと思います。
『劇場版 PSYCHO-PASS PROVIDENCE』についても、機会があればまた別の切り口でNoteを書いてみたいかなと思います。ご一読いただきありがとうございました。