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遠くに消える赤
蹴り飛ばした靴は放物線を描いて灰色の空を舞う。
淀んだ空に似つかわしくない真っ赤なスリッポンは、その先で待ち構えた広葉樹の枝を2、3度掠った後に落下した。
「お前、本気出すなあ……」
裕ちゃんは呆然と、遠くの赤を見つめる。
わたしはおどけて舌を出した。
「仕方ないじゃん」
明日、天気になって欲しいもん。
わたしは言い添える。
雨きらいだもん。
そのまま駆けようとしたわたしの動きを、裕ちゃんがせきとめた。
「ばか、汚れるだろ」
裕ちゃんの胸に飛び込む格好となったわたしは、走り出したい衝動を引っ込めて、少しの間だけ、裕ちゃんの鼓動を聴く。
「……ねえ。 どきどきしてるでしょ」
裕ちゃんは何も言わず、代わりにわたしを軽く小突いてからベンチに座らせる。
背を向けたときにちらりと見えた頬。
おもわず、片足に残る赤と見比べてしまった。
なんだ、良い勝負じゃん。
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