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福島移住録#0 不在着信

4月の中頃、昼休みにスマホを見ると、着信履歴が残っていた。心当たりのない携帯番号からである。
「最近、登録した転職エージェントからの電話かな」と思い、折り返してみると、転職エージェントではなく、数日前に面接を受けた会社のお偉いさんからの着信であった。
「固定電話回線からかけなさいよ」と喉元まで出かかったが、こらえつつ予想外の相手からの電話にあたふたしていたら、電話口から「採用ということで・・・」という、これまた予想していなかった言葉が出てきて、さらにパニックになった。

正直、可能性は低いだろうなと思って受けた面接であったし、手ごたえもそれほどあったわけではない。魅力的なポストであったので「自分なんかが通るわけが・・・」と思っていたのだ。だからこそ、採用連絡は喜びより、驚きの方が大きかった。
ひとまず、就活の時に覚えた「少し考えさせてください」という時間稼ぎの手法を用いて、回答を保留する。

ただ、電話を切ってみて考えてみると、やはり自分にとって魅力的な求人であった。他に面接が進んでいた求人もあったが、これを逃せば次に同じような求人に出会う機会はそうそうないだろう。存外、決断は早くできた。

そういうわけで福島に移住することとなった。

そう、あの福島である。大阪の方ではない。桃と白虎隊と、そして3.11で大きな被害を受け、今なお原発事故の収束の見通しが立たない、あの福島である。
学生時代に何度かボランティアと称して足を運んだことがあるが、私と福島のゆかりはその程度である。もちろん、3.11のときに日本に住む一人として悲しみ、怒ったし、実際に足を運んだ時には、様々な感情を抱いた。ただ、3.11から気づけば12年。ご多分に漏れず、私も福島のことを忘れつつある一人となっていた。そういう人間が、改めて福島という地について否応なく考えさせられることとなった。純粋にいい機会だなと思う。

ただ、まあこういう感傷的な話はそれはそれとして、いざ福島に行くとなれば、やらなければならないことはごまんとある。しかも、採用日までの猶予は1か月半ほどしかない。慌ただしい日々が始まった。

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