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福島移住録 #6 足の確保

福島駅を使っていると、学生さんが多いなと感じる。
朝夕は制服姿の高校生や近隣の大学の大学生と思しき若人で利用者の7割程度を占めているのではないだろうか。そのくらい多い。もちろん、少子化・人口減少・過疎化の最前線に立つ福島の地である。若者が多い訳ではない。通勤に鉄道を利用する大人たちが少ないので、鉄道利用客に占める学生の割合が高く、駅で学生が多く見えるだけである。やはり、移動の中心は車なのだ。

現在、職場が福島駅から数駅隣が最寄りで全然歩ける距離にあるため鉄道通勤をしている。ドアtoドアの時間としては1時間を大きく下回るので便が良いように感じるが、実際はそうでもない。鉄道の本数が少ないからだ。
東京に住んでいたときは京浜東北線沿いだったため、どんな時間帯でも5分と待てば電車が来た。そのときは時刻表を見るなんてことは一切しなかったのだが、こちらではそうはいかない。朝の通勤に使える列車など幅広に見積もっても2~3本であるので、1か月も経たないうちに発車時刻を暗記するにいたった。
なお、私はフレックス勤務だから、こんな悠長なことを言っていられるのであって、世間様のように所定の時間までに職場にいなければならないとなれば、使える列車は1本しかなくなるだろう。1本を逃せば、次は30分後、1時間後になりかねない。

この列車の少なさは、朝厄介なのはもちろんなのだが、帰りもなかなかである。少し居残って一段落して、さて帰ろうと思ったタイミングがちょうど列車が1本出たばかりで、次は30分後というのは珍しくない。自ずと帰るタイミングが規定されていくし、その結果として、早く帰れるのに微妙に職場にいとどまったり、逆にもう少しやっていきたいが適当に切り上げて列車に間に合わせるということはざらである。ようは勝手が悪い。

そういうわけで、車を買うことにした。
ただ、新車を買うだけの資金的な余裕はないし、そもそも半導体不足のあおりをうけて納車までの何ヶ月もかかる状態だ。加えて新車を買っても、こちらにあと何年いるのか分からない。私は最寄りの中古車販売店に向かった。
ただ、最寄りといってもまあまあ遠い。幹線道沿いに自動車販売店などいくらでもあるのだが、車を今持っていない人間からすれば幹線道までの足がない。よく貧困の例えとして「服屋に着ていく服がない」と言われるが、まさにそんな感じである。こちらに来てからすぐに買った自転車を必死に漕いで向かう。

おどおどしながら店の扉を開けると、店長自ら案内をしてくれた。
人生初の車の購入であるので、右も左も分からないが、予算とそんなに立派な車でなくても良い旨を伝えると、在庫にある軽自動車数台が候補になった。無数の選択肢から、片手で数えられるほどの選択肢になるだけで、だいぶ気が楽である。

気になっていたのは四駆にすべきかどうかである。車が分からない方(私もそうなのだが)向けに説明すると、車というのは、一般的には4つあるタイヤのうち2つに動力が付いているだけで走ることが出来る。
ただ、悪路を走る場合などには、それでは厳しいので4つのタイヤすべてに動力がついているパターンでないと厳しい。この4つのタイヤに動力が付いているのを四輪駆動、略して四駆、あるいは4WDという。
一般の車(二駆)と比べると、動力では勝るのだが、燃費が若干悪くなるらしい。経済性だけ考えれば二駆にしたのだが、いかんせんここはみちのく・福島である。冬になれば道路は凍るし、雪も積もる。店長に「どうなんですかね」と尋ねると「軽なら四駆でしょうね」と帰ってきた。曰く、確かに路面凍結や雪を考えると四駆が良いが、普通乗用車なら二駆でも福島はなんとかなる程度ではある。ただ、軽自動車の場合、車体が軽いため少しの凍結でも地面とタイヤが噛まなくなる。そのため、軽自動車なら四駆のほうが良いとのことだ。
ほうそういうものですかと納得した風を装ったが、雪道の「ゆ」の字も知らない人間なので、内実は何も分かっちゃいない。が、カネで買える安全は買うことにした。

来店から1時間少々でホンダN BOXの購入を決めた。こだわりのない人間というのは、これまでの人生で最も高い買い物ですら、あっさりと決めてしまうようだ。購入手続きにあたり、住民票の写しが必要と言うことなので、いったん近くのコンビニに行き、住民票の写しを持って行き、その日は終わった。納車は1週間後である(早い)。

その1週間のうちに、駐車場使用の手続きをする。後日、中古車販売店から送られてきた車検証の写しを片手に会社の施設課に向かう。住んでいるのが社宅なので、駐車場の使用も会社に手続きをすれば済む。合わせて会社には車庫証明の書類も書いてもらう。
地方部だと軽自動車は車庫証明をしなくても良い場合があるが、基本的に県庁所在地などでは必要だ。県下3番手に甘んじる福島市だが、一応車庫証明は求められるので書類を用意する。

1週間後、販売店に徒歩で向かう(遠かった)。到着すると、保険の手続きなどを行い、キーをもらう。1時間ほどで人生初の車が手に入った。車など必要最低限あれば良いくらいに考えていたが、いざハンドルを握ってみると「さて、どこへ行こう」と考え始めるので不思議である。

ちなみに、この数日後に某大手中古車販売店の一件が世間的に話題になった。家の最寄りが、大きなモーターでなく良かった胸をなで下ろしている。

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