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現存最古の県庁舎を訪ねて(上)

各地を旅行していると、まちなかに「すごく立派な建物だなー」と思う建物を見つけることがある。
例えば、愛媛県松山市を行った時のことだ。松山は市内を路面電車が走っていて、確かあの時は道後温泉行の電車に乗っていたときだった。車窓から、頭にドームをのっけたレトロな建物が見えてきた。壁面は白を基調とし、ドーム部分は淡い緑色だ。やわらかみのあるデザインで「わっ、きれいだなー」と思い調べてみると、その建物は愛媛県庁舎本館で、現在も中で執務が行われている。

愛媛県庁舎(2016年撮影)

この後も、各地を巡る中で、こういう立派な県庁に目が行くようになった。先ほどのような柔らかなデザインの県庁もあれば、威厳を感じさせるような県庁、県下で最も高いタワーのような現代的な県庁…レパートリーは様々だ。ただ、素人目に見ても面白いのは、やはり古いレトロな県庁だ。

現役県庁舎で最も古いのは、大阪府庁(大正15年)で、次いで神奈川県庁(昭和3年)、愛媛県庁(昭和4年)となるらしい。

大阪府庁舎(2019年撮影)

また、現在は県庁として使用されていないが、創建当時のままに残っている県庁舎としては旧兵庫県庁舎(明治35年、現在は兵庫県公館)、京都府庁旧本館(明治37年、一部が執務室や貸室として利用)がある。

京都府庁旧本館(2021年撮影)

さらに、移築されているもので日本最古の県庁舎とされているのが、愛知県犬山市の博物館明治村にある旧三重県庁舎(明治12年)である。
こちらは、国の重要文化財にも指定されており「明治初期の県庁舎庁舍として唯一の遺構であり、当時の様式手法を示すものとして貴重である。」と解説されている(文化庁 国指定文化財等データベースより)ほか、移築先の博物館明治村のサイトにも「現存する最古の県庁舎」と書かれている。

旧三重県庁舎(2020年撮影)

確かに、明治4(1871)年の廃藩置県により県が設置されて以降で現存する最古の県庁舎は、この三重県庁舎で間違いないだろう。
ただ、先日、少し変わった本を入手し、それを読んでいて本当に旧三重県庁舎が最古なのかと疑問がわいた。

その本というのが、石田潤一郎『都道府県庁舎 その建築史的考察』(思文閣出版)という本だ。1993年刊行といういささか古い本で、神保町の古本屋で見つけてきた。この本、本当に都道府県庁舎の話を400ページ以上にわたってひたすら書いている本で、研究者や私のような物好きには垂涎ものだが、一般の方にはまったくお勧めできない類の本だ。

その中で、”廃藩置県前の県庁舎”について触れられていて、しかもその県庁舎が現在も残っていると書かれている。20年以上前の本なので、解体されたのではと思いながら調べてみると、現在もまだあるようだ。先日、そちらの方へ旅行することにしたので、立ち寄ってきた。

ワンマン運転のディーゼルカーの車内は、高校生が多かったが、クロスシートに1人ずつ座れている程度の乗車率であった。なんなく席を確保し、ウォークマンを聴きながら車窓と文庫本を見る。海沿いを走っていたかと思えば、田園地帯やトンネルを何度も抜けていく。川沿いや道路沿いの桜は、まだなんとか花が付いている。1時間ほど鉄道旅を楽しんだ後、到着したのが「久美浜」という町だ。(続く)

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