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冷やし中華にマヨネーズ

先日、通勤途中の車内でラジオを聞いていると「福島では冷やし中華にマヨネーズをつける人が多い」という話が聞こえてきた。私は耳を疑った。「冷やし中華にマヨネーズだなんて!!」ということではない。むしろ、逆で「福島もなのか!おお、同士よ!」という感動のためだ。

全国的には「冷やし中華にマヨネーズ」は、あまり見られない食文化ではあるのだが、一部の地域ではわりと親しまれている。特に有名なのが東海地方で、東海出身の私も(自分自身はつけないものの)なじみのある食文化ではあった。
しかし、大学進学を機に上京してみると、どうやらそんな食文化は関東にはないらしく、ここでようやく地域的なものだと認識した。私は、これを逆手にとって「名古屋では冷やし中華にマヨネーズをつけて食べる」という話を地元ネタとして紹介することがままあった。(ちなみに、冬場なら「おでんに味噌がついてくる」と季節に合わせて紹介する気の配りようである。)
福島に来てからも同じような話をどこかでしたのだが、そのときは「私もつけますよ」と返されてしまい、まったく話のネタとして使えなかった。「まあ、マヨラーだとつけるよな」程度にしか思っていなかったのだが、どうも福島も「冷やし中華にマヨネーズ」の地だと分かり、俄然嬉しくなってしまったのだ。

聞いた話は、実際に裏取りしないと気が済まないタチである。早速、職場の人に「冷やし中華にマヨネーズってつけます?」と聞いてみる。
やはり「あー、つけますね」「私はつけませんが、つける人が多いですね」「お店とかで食べるとついてきますよね」と、もう百点満点の回答が返ってくる。嬉しいったらありゃしない。故郷から何百キロと離れた縁もゆかりもないこの土地で故郷と同じ食文化が根付いている。私はテンションが上がりまくった。

しかし、ここで1つの疑問が湧いてくる。なぜ、遠く離れた東海地方と福島で同じような食文化が花開いたのか、だ。一般的に東海地方での「冷やし中華にマヨネーズ」文化は、ローカルラーメンチェーン「スガキヤ」が広めたという説があり、真偽のほどは定かではないが地元民的には、ある程度の納得感がある。一方で、福島でそれにあたるような動きは見られない。まったく不思議な現象である。

おそらく、それを考えるヒントになるのが地域分布と時代であろう。
そもそも、冷やし中華は昭和初期に生まれた日本料理である。発祥には仙台説と神保町説の二つがあり、このあたりはどちらが真かよく分からない。ただ、一般家庭に普及し始めたのはもう少し時代を下ってからで、特に今のような形になったのは戦後からのようである。加えて、マヨネーズの普及も高度経済成長期以降である。そうなってくると、ある程度の人生経験を積まれてきた方などに聞けば、いつ頃から冷やし中華を食し、マヨネーズをつけるようになったのかを聞くことが出来るかもしれない。

加えて、微妙な地域差もあるようだ。
実は「冷やし中華にマヨネーズ」は東海地方と福島の専売特許という訳ではなく、東北地方だと山形などでも見られる文化らしい。
また「福島」と言ってしまっているが、福島県は全国で3番目に大きい都道府県であり、県内の地域性も大きい。よく使用される地域区分として、太平洋岸の「浜通り」、東北道・東北新幹線などが通る「中通り」、そして会津盆地を中心とする「会津」という3つの区分が福島にはあるのだが、この3地域は文化面でも異なることが多い。人口分布的には「中通り」に集中しているため、中通りの文化=福島の文化と捉えられがちだが、果たして「冷やし中華にマヨネーズ」は、福島全体に見られる文化なのかどうかは検証する必要性がある上に、もしそこで地域性があれば、これも伝播のルートを考えるヒントになる。

残念ながら身近に妙齢の福島県人がいなかったので、まずは地域を調べることにした。ただ、調べると言ってもその手法は科学的でも何でもなく、会った人に「冷やし中華にマヨネーズをつけるか」「出身地はどこか」を聞くというシロモノである。
しかし、これがなかなか面白かった。浜通りの人に聞くと、おおむね「つける」という回答が得られ、中通りもやはり「つける」が多数派である。しかし、会津は「つける人もいる」というレベルである。
特に顕著だったのが、会津でも新潟寄り地域出身の方に話を聞いたときであった。その方は最初「つける」と答えられたのだが、実はよくよく聞いてみると「進学の際に上京し、そのときに中通り・浜通り出身の人とよくつるんでいた。その際に、冷やし中華にマヨネーズをつけることを知り、試しにやってみると美味しかったので、自分もやるようになった。実家ではつけていなかった。」とのことである。
これはあくまでも一例に過ぎないが、どうも浜通り・中通りの文化が会津に伝播していっていると考えられそうだ。

現時点では、ここまでしか分からなかったが、もう少し調査をしてみたい。

余談ながら「冷やし中華にマヨネーズをつけますか」と会う人、会う人に聞いていたら、また面白い話を聞いた。
「福島の人って、ラーメンにお酢入れますよね」と。この話を聞いて、私は「これも地域性だったか」と驚いた。実は、この数日前に職場の人とラーメン屋に入ったことがあった。そのラーメンは、いわゆる喜多方ラーメンの系列で醤油ベースのあっさり系のものであった。一通り食べ終わって雑談をしていると、その人はおもむろに卓上にあったお酢を手に取り、それをレンゲ一杯分ほど注ぎスープにまぜて飲み始めた。私は思わず「え、何やってるんですか」と聞いたのだが、返ってきたのは「お酢って身体にいいじゃないですか」という言葉のみだった。そのときは「へー、この人あっさり系のラーメンにもお酢を入れるんだ」と思っていたのだが、どうも個人に帰す特徴ではなかったらしい。

こうは言いつつも、私もラーメンにお酢を入れることはある。これは東京で大学生をしていたときに、いわゆる家系ラーメン(こってり目の豚骨醤油のラーメン)のお店で先輩が途中で「味変」と称してお酢を入れていたのを真似るようになったがゆえである。
最初は驚いたが、こってり系のラーメンにお酢を加えることで、あっさりした風味になる。そのため、完食するのに一抹の不安を覚え始めたタイミングなどにお酢を加えることは私もしないわけではない。

ただ、分かるというのは「こってり系ラーメンに」というだけであり、もとがあっさりしている喜多方ラーメンなどにお酢を加える理由がよく分からない。あっさりしているものを、さらにあっさりさせてどうするというのだ。そういうモヤモヤがあるのだが、こちらについても興味深いので、ちょっと調べてみようかと思っている。

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