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刑事コロンボ「あ、そのまま」 額田やえ子著「アテレコあれこれ」(中公文庫)より

 前回、最近読んだ本の中でこの額田さんの翻訳が絶妙と紹介されていたので早速図書館から取り寄せ読んでみた、と述べた。で、最近読んだというのはどんな本だったか?普通は思い出せないのだが、この本を読んでる途中思い出した。竹内政明「編集手帳の文章術」(文春新書)である。表紙カバーの著者紹介には次のようにあった。

当代随一の名文家が文章術の秘密をはじめて明かした!読売新聞の看板コラム「編集手帳」を十年以上に亘り執筆してきた著者が名文の生まれる裏側にご案内。「私の文章十戒」「刑事コロンボの教え」など、笑って、胸打たれて、ためになるー前代未聞の文章読本。

 つい先日、あることを調べているときにこの本を引っ張り出し、該当の箇所を調べているうち読み耽り、この額田さんの紹介が目にとまった。私は朝日の天声人語よりも読売の余録の方が好きだ。天声人語はインテリ風味満載。読み慣れると冒頭の話題を見てどの話題に繋げようとしているのかすぐ分かることも多い。余録はどちらかというと人間通の匂い。バッサリとはやらずに、う〜んと唸らせてくれることが多かったような。今は新聞自体読まなくなったが、読んでいた時期を書いていたのが竹内さんだったようだ。
 ともかく、この竹内さんが「第6戒(竹内さんのコラム執筆の際のルール)刑事コジャックになるなかれ」の文中に額田さんの本が紹介されている。で、その本のどこを紹介しているかというと、刑事コジャックと刑事コロンボの吹き替え翻訳の箇所である。(コジャックを演じるのはテリー・サバラス。コロンボとは真逆のイメージ)
 Come on!  コジャック「早くこい」 コロンボ「こっちこっち」
 That makes sense.コジャック「筋は通ってる」コロンボ「ごもっともです」
 Hold it! コジャック「待て!」 コロンボ「あ、そのまま」
 その他にもコロンボらしいセリフが、額田さん本の巻末「こんなに違う台詞の訳し方ーコジャックとコロンボの場合」にあるのでご参照を。
 いや〜このセリフを見ていると、50年前のピーターフォークと小池朝雄が戻ってくるな気がする。とにかく、俳優と声優の特徴をとらえた見事なセリフ。しみじみする。
 で、竹内さんの第六戒には続きがある。

 …社説は読者の頭脳に訴えかけ、一面コラム(umisio「余録」のこと)は読者の胸に訴えかけます。社説は「読んで栄養になる」文章を心がけます。一面コラムは「読んでおいしい」文章を心がけます。政府が取り組むべき課題や採用すべき政策を掲げて、社説は「早くこい!」と命じます。一面コラムは「こっちこっち」と声をかけます。社説がコジャック型ならば、一面コラムはコロンボ型といえましょう。

竹内政明「編集手帳の文章術」

いや〜この締めの言葉がまたしびれさせる。

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