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世界一周 3日目🇮🇳 ムンバイ エレファンタ島


ムンバイのマクドナルド

マクドナルドで知らないバーガーを食べて元気いっぱいの私はuberでタクシーを呼んだ。
昨日行ったインド門の辺りに、エレファント島へ向かうための船着場があるらしい。

島にあるのは古代の遺跡。
ロマンである。

すぐにタクシーと合流できた。
清潔でおしゃれな車。
スムースな走りで、昨日歩き回った街のゴチャゴチャがあっという間に通り過ぎていく。
なんだこれ。
uber便利すぎる。
聳えるインド門、その前に設置された侘しいセキュリティゲートが姿を表す。

「ありがとう」

細かい小銭を出すのが面倒なので、200ルピーを運転手に渡す。
安い。
文明の利器だ。
ひとり静かに感動していた。

エレファンタ島への船旅

土曜日だからだろうか。
インド門周辺は昨日よりも多くの人でごった返している。
セキュリティゲートには長蛇の列ができていた。

ゲートを潜ると、これまたたくさんのインド人。
活気があって良いな。
人気の観光スポットなのだろうか。
遠くの方に船が行き来するのが見える。

「エレファンタ島?」

近くの船着場のおじさんに聞くと、おじさんはインド門の方を指差した。

「エレファンタ島はあっちの乗り場。インド門の裏にあるよ」

ムンバイを観光していて思うのだが、やっぱりここの人たち観光客に親切である。
丁寧に道とか教えてくれるし。

インド門の裏手にもたくさん人がいた。
階段が下へと伸びていて。
その階段の前におじさんが立っていた。

「エレファンタ島?」

おじさんはゆっくり頷く。

チケットを買って階段を降りると、二階建ての船がぷかぷかと停泊していた。
乗り込んで中央あたりの席に陣取る。
すぐそばにはインド洋の茶色い海面がある。
そして眼前には数多の船が行き来する港。
(船だ……海だ!)
否応無しにテンションが上がる。

船がたくさん

乗客をいっぱいに詰めると船は動き出す。
かすかなディーゼルの匂い、携帯のバイブレーションのような細かな振動が船全体を揺らす。
どっどっ、と連続したC#の音を奏でながら船はゆっくりと前進した。
静かな海面を切り分けるように進む。

ちなみに速度はそんなにない


たくさんのヨットや観光船を横切り、次第にムンバイの街が遠ざかっていく。
霞の中にあのゴツゴツとしたインド門が、大きなタージマハルホテルが、遠くに見える高い高いビル群が消えていく。

遠ざかるムンバイ

海風が心地いい。
私の頬を撫でて、髪を揺すって、後ろに過ぎ去っていくそれの感触をただ味わっていた。
(ああ、私は旅をしているんだな)
その実感に浸って、少し心が温かくなる。

鳴き声が聞こえる。
白い鳥が、翼を広げて飛んでいる。
船と並走するように、たくさんのカモメが付いてきていた。

カモメたち


大空を翔けるように、海上を愉しむように。
舞い上がったり、舞い降りたり。
こちらを伺いながら、羽ばたいていた。

かつて木造の帆船で、貿易風に乗ってインド洋を駆け抜けた、命知らずの商人たちが港を発つときも、こうしてカモメが見送っていたのだろうか。
香辛料を乗せた船の切っ先が、ブラウンの海面を割って進む時。
帆の周りを飛び回るその鳥を見て、彼らは何を思っていたのだろうか。

いつか剣と魔法のハイファンタジー作品を作るときは、船と並走しながら飛ぶカモメの演出を絶対に使おうと思った。

しばらくするとやたら存在感のある島が見えてきた。

やがて船は島から突き出すように伸びる桟橋の、一番先っちょに停泊した。
古びた石階段、船がちゃぷちゃぷ揺れている。

エレファンタ島

船をおりると片側に屋台が並ぶ幅広い桟橋。
それは真っ直ぐ島の方へと伸びていた。
屋台に無造作に置かれたフルーツが光を浴びて煌めいている。

「歩いていくのか?」

声をかけられた。
頷く。

「……そのつもり」
「1.5キロだ。あと最終の船は17:30に出る。チケットを無くすなよ」
「ありがとう」

やはり観光客に親切である。

「どこから来たんだ? 日本か?」
「そう」
「俺はこの島に住んでる」
「いいね」
「ガイドいらないか?」
「いらない」

桟橋の脇には線路があった。
前からマッチ箱みたいな列車がトコトコやってきて、通り過ぎて行った。

列車


漣の音がした。牛が桟橋を闊歩していた。
暑かった。

うしさん

しばらく歩くと島への入口があった。
中にはお土産屋が両脇に並んでいた。

奇妙な置物と、手のひらサイズの象が陳列されている。
あれはチベットの僧が瞑想の時に鳴らしてるやつ……
金色のボウル。その隣に棒切れ。
欲しかったんだよね、シンギングボウル。
鞍馬山の奥の院で見かけてから、自分用に一個持っときたかったんだけど。
でも日本で買おうとするとすごく高くて、買う気が起きなかった。

物欲しげにシンギングボウルを見つめる私に、店主が話しかけてくる。
シンギングボウルを鳴らしながら。

「ほら、いい音だろう?」

店主は私の手にボウルを乗せる。

「振動を感じるんだ……良いだろう?」
「いくら?」
「2000ルピー。でも安くできる……」

や、安い。
クオリティは多少低いにしても、日本で買うよりずっと安い。
やべぇ欲しくなってきた。
でも今買って歩くのはどう考えてもアホである。
旅も始まったばかりだし。

「後で考えるよ」
「待て待て、1500ルピー」
「オッケーオッケー。帰るときに……で、これ500ルピーだっけ?」
「……戻ってきてくれたら安くする。ファイブブッタだぞ!」

見るとボウルの底に五人のブッタが星形に刻印されている。
5人もいるなら戦隊モノができるな、ブッタ。

お土産屋を離れた私の前に立ち現れる一つの影。
お土産屋とお土産屋の隙間から、そいつはするりと姿を表す。

それは小さかった。
だがその相貌の中に埋め込まれた二つの眼球が、悪意と好奇心の間で揺れながら貴方を見据えている。
薄汚れた毛並みを揺らして、それは貴方へと一歩を踏み出した……

あ! やせい の サル が とびだしてきた!
こっちに走ってくる!
うみしとりの手持ちには、戦えるポケモンがいない!

どうする?
いや逃げるが。

背中を向けて、全力疾走する。
生きた心地がしない。
あいつに傷をつけられたが最後、強制病院イベントが発生するのだ……

お土産屋の店主たちが猿を追い払ってくれて、事なきを得た。
リュックサック一個分くらいの大きさをしたモンキーだったが、迫力は十分だった。

店主の一人が私のリュックを指差した。

「そのペットボトルだね」
「これ?」
「そうそれ、リュックの中にしまった方がいいよ」

どうやらペットボトル目掛けて猿がやってくるらしい。
熱帯の太陽に反射して光るからだろうか。
きらきらしたもの目掛けて飛びついてくるとか……猿かよ。

猿だったわ。

それにしてもムンバイの人たちはやっぱり親切である。
要所要所で温かみを感じる。

シンギングボウルの店主が近づいてきて、口を開く。
「覚えておいてくれ……ファイブブッタだ」

そう言い残して彼は去っていった。

遺跡へと続く階段を登る。
ずっと屋台が両脇に並んでいる。

あ、あれは天然石クラスター!
日本で買うより絶対安いじゃん……

物欲を刺激されながら上へ上へと登る。
しばらくすると開けた場所に出た。

入場料を払っていざ遺跡へ。
野生の猿が至る所にいる。
たまに犬もいる。
怖い。
奴らと目を合わせないようにしなくては。

小高い岩壁、その中央に。
人工的に穿たれた穴。
日の照った外とは対照的に、その石窟群はポッカリと涼しげな開口部をこちらに向けている。
立派な太い柱が、ここがかつて誰かにとって重要な施設であったことを告げていた。

エレファンタ石窟群

遺跡の中はひんやりとしていた。
まるで違う世界に来たような空気感だった。
外にたくさんいた猿も、ここには一匹もいない。
静謐な空間。かつては神聖な場所だったのだろう。

遺跡の中

インド神話を彩る神の石像が、壁にたくさん彫られている。
まるでこちらを見おろしているようだ。
頭の砕けた石像は、時が止まってもの言わぬまま、何かを伝えようとしているようだった。
ブラフマンを告げようとしているのか、あるいは告げられぬものなのか。

シヴァ神に捧げられた石像

一番驚いたことは、これほどまでに貴重な史料が極めてオープンに開放されていることだ。
柱にもたれることも、階段に座ることもできる。
床に彫られた円の上で、子供がミニカーを走らせていた。

ガラス窓の向こうではなく、直接に、眼前に現れている遺構。
保存には向かないかもしれないが、良いことだと思う。
柱に触れて、抱きついて、匂いを嗅いで初めて理解できることもあるだろう。

腕を回せないほど大きな柱に手をついた時、鮮やかな空想が浮かぶ。
もしかしたら嘗てここは、こんな廃墟のような空柴色ではなく、白や金で装飾の施された綺麗な場所だったのではないか。
人々が捧げる果物が、堆く積まれることもあったのではないか。
あの掠れかけている地面の円は何かしら重要なシンボルだったのでは。
あるいはこのただの岩壁も、崩れるまでは石像が彫られていたのでは……

遺跡と太陽

人々が祈り、捧げ、太陽の光がそれを照らす。
その姿をいま、ここに見ることはできないが、彫られた石像が、ただ残された石の塊が、そこで何かが行われていたことを物言わずに主張している。
この遺構は生きている。
どこかそう感じた。

この遺跡にいるとアサクリやってる気分になる

それにしても柱が立派である。
上部が円柱で、下部が直方体。
ギリシャとかともまた違う面白い形をしている。
この様式はどこからやってきたのか……

石柱

分からないことが多い。
可能ならこんな遺構に泊まり込んで、いろいろ調べてみたいものだ。

外に山の上へと登る道があった。
猿を避けながら進んでいくと、やがて高台にたどり着く。
ムンバイの海と街が霞んで見える。
そして大きな大砲があった。
大砲は擱座した船のように、砲身を下に向けていた。
折れてしまったように、諦めてしまったように。
私にはそれが、どこか哀愁漂う異物のように見えた。

植民地時代の遺物

船の上から、遠ざかる島を眺めていた。
カモメが船に追随していた。
荷物は少し重みを増している。
シンギングボウルの重みだ。

買っちゃったのだ。
あの店主のところで。
ちなみにファイブブッタではない。
もうちょっとノーマルなデザインのやつだ。
音が良かったんだ。

ちなみに店主は「戻ってきてくれたから」と言って
象の置物をプレゼントしてくれた。
象の中に象がいる、掌サイズの象の置物だ。

ごめん。
心からいらないと思った。

戻ってきた

美味しいカレー屋

市街部に戻った。
ネットにムンバイで一番美味しいカレー屋があるらしいとの情報があったので、そこに向かうことにした。
B Bhagat Tarachaudって店らしい。
なんか似たような名前の店がいっぱいある。
せっかくインドに来たのだから、こちらも(カレーを)食べねば……無作法というもの。

へい、uber。

大渋滞。
詰まりまくった車の列がノロノロと進んでいく。
タクシーから見える景色は、次第にボロさを増していく。
そして人が増えてくる。
数えきれんばかりの店が色とりどりの商品を陳列している。

タクシーは目的地の周辺で停止する。
人が多すぎて車が通りに入れないらしい。

「そこの角曲がった200m先にあるよ」

頷く。
料金は150ルピーほどだったが、小銭がなかったので500ルピーを渡した。

「お釣りはいらないよ」

人生で言ってみたかったセリフを言えたので満足した。
とはいえ目の前の風景にちょっと戦慄する。
ボロボロの建物が脇に聳える大通り。
たくさんの人が生活と商売のために行き交っている。

なんか、こう。
めっちゃすられそうなフィーリングがする。

スマホを出して写真を撮ることが躊躇われるくらいの緊張感がほのかに香る通りを歩いた。
なんか一回くらいカバンのどっかを引っ張られた気がするけど、気のせいだろう。
4桁の錠を突破しなければ、私の貴重品には辿り着けない。

通りを行くと、カレー屋を見つけた。
Bhagat K Tarachaud
なんかちょっと名前違うけど、まあ分店の一つだろう。
ガラス扉をくぐると、すごく綺麗な店内だった。
よく冷房が効いていた。
人で埋め尽くされた大通りとは対照的に、店内はガラガラだった。
というか私以外の客がいなかった。
多分高めの店なんだろう。

メニューを開く。
一番最後のページにスペシャルメニューがあったのでそれを注文する。
15分ほどして、カレーが出てきた。
3種類のカレーとナン。
多分グラブジャムン的なそれ。
よく分からんミニハンバーグ的な何か。
いざ実食。

カレーだ!!!

美味い。
豆が口の中で溶けるようだ。ナンもちょうどいい柔らかさでカレーとマッチしている。
辛いが、辛すぎない。
口の中でさっと過ぎ去っていき、しつこさを感じさせない。
塩分は控えめだ。味が濃くない。
丁寧に作られているな、と感じた。
ほら、いい日本食って「うまみ」で勝負してくるじゃないですか。
あれっぽい感じ。
ソシャゲに例えるなら、SSRというよりSRキャラをレア度とか武装含めて最大強化したみたいな。
日本で味わったことのないようなカレーのニュアンスだった。
非常に興味深い。

ミニハンバーグの中身は緑色だった。
何だったのかはよく分からない。

そしてデザート。
うん、これは紛れもなくグラブ・ジャムン。
大学時代にAmazonで取り寄せて、ゼミに持ってって食べたから分かる。
ただこれはもっと良いグラブ・ジャムンだ。
甘すぎない。
締めにふさわしいさっぱりとした甘味が、口内を幸せに盛り上げてくる……

後から出てきた謎の白いドリンク。
私の口には合わなかったが、面白い味だった。
匂いがきつかった。
発酵ドリンクとかだろうか。

大満足でカレー屋を後にした。
帰り道は人で埋め尽くされていた。
山手線のラッシュの時くらい混雑していた。
ノロノロと進む。
通りを抜けると人混みから解放されて一息つけた。
今からタクシーを呼ぶ気にもなれなかったので、ホテルまで歩くことにする。

曇り空と、向こうに駅が見える。
夕方に近づいた駅は、黄色くライトアップされていた。

何度見てもおしゃれな駅

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