小説のかけら 1 【閉じた世界での祈り】
時計の針が日付の変更を刻む頃、扉の開く音がした。なくしたなにかを見付けたような、そんな気持ちで私は恋人を迎える。私たちは、たったふたりで完結していた。世界など、どこにもなかった。離れていれば会いたいが募った。開け放した窓から確実に夏の気配を感じ、蝉の声を聞く。私たちは、そっと窓を閉めた。
君が好きだと言えたなら、どんなにか私は心救われるだろう。たとえば君に心寄せるひとがいたとして。たとえば君は私を思っていなくても。ただ、子供のような心で、君が好きですと。君に伝えられたな