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兎、波を走る 考察

最近、観た舞台。ネタバレあります。


推しの一生さんはもちろん全ての演者さん、お話し、演出、衣装もほんとに素晴らしかった。

大きなテーマが北朝鮮拉致事件で、横田めぐみさん親子がモデルになっており、観劇後、「めぐみへの遺言」という本を読んでみた。

後半、アリスも自分のこどもを探して、アリスの母のところへ来るシーンがあった。
朝鮮からめぐみさんが亡くなっているとされて、横田滋さん夫婦のところに遺骨が届けられた。DNA判定の結果、めぐみさんの遺骨ではなく、嘘を言っている可能性が高い。
めぐみさんの娘が、日本政府調査団へ向けて「母は亡くなった」と言わされていて、もしかすると亡くなってはいなくても、めぐみさんとその娘も、離れ離れにされてる可能性がある。それで劇中ではアリスが自分の娘を探しているという設定になったのだと分かった。

最後のシーン、母がアリスに「心臓の鼓動は、娘さんが呼んでる声、この声が聴こえているかぎり、必ず会えますよ」と伝える。
こんな事、伝えないといけないのは悲しいけど、
今すごく辛い状況なのに、アリスを励ましたり、脱兎に会えた事に感謝を伝える、アリスの母の強さと優しさはすごい。

めぐみさんの母の早紀江さんも、安明進と面会した時、「あなたも親と離れ離れになっている。これからは娘の無事と一緒に、あなたの親御さんの無事も祈ります。」と言われて、安明進は号泣したそう。

松たか子さんが表現された、逆境の中で明るく大きな存在のアリスの母。早紀江さんもそのような存在なのではないかと思う。安明進がアリスの母を抱擁して安心するシーンもそういう背景を表したのかなと。

まだ早紀江さんはめぐみさんに会える可能性があるのに、脱兎が「お返しすることが叶いませんでした」と謝ったのはなぜか。

脱兎=安明進がいるうちに(行方不明となっていて暗殺されたのではと言われてる)返せなかった。

父の滋さんが存命のうちに返せなかった。(劇では最初からアリスの母は1人でアリスを探していて、父は出てこない。遊びの園の客たちには父も出てくるので母だけに焦点を当てていると言うわけではないし、アリスの父を話題に出さなかったのは、この物語は現在の状態を話にしているという事なのか)

拉致事件を明らかにするきっかけとなり自らも工作員だった安明進、父の滋さんも揃っている時に返す、ということが渚の懐中時計(止まった時間)を返すという事だったのか。


他には、2003年以降全然拉致事件の解決が進まず返せる可能性が低い、「返せませんでした」とする方が誠実なくらい、動いてない国や忘れてしまった民衆への皮肉や批判も込められている。とか。


もう1つ思うのは、安明進や他の工作員、他の歴史の中にも不条理に親と引き離されて、そのまま返してもらえなかったこども達がいて。何も知らずに、人生ごと連れ去られた少女、少年だった人、その親。
アリスと母の一番のモデルはめぐみさん親子なんだけど、そういう人たちのメタファーのようなものとしても、アリス親子を描いていて、そういう親子に捧げる物語でもある。
そう思うと、脱兎が返してもらえなかった親たちに向けて深く頭を下げてる。とも思える。


いずれにしても、描かれた不条理を忘れないようにしたいし、これからどんな時代が来てAIが台頭しようとも、自分はドキッとする事とか家族との繋がりを感じるような鼓動とか、そういうものを大事にしよう、と思う。