『グランメゾン東京』最終回の様式美が凄かった
12/29(日)最終回の『グランメゾン東京』(鈴木京香・木村拓哉主演)がとても面白かったのでメモ。
①1話ごとに仲間が増えていくシステム
1話ごとに特定の人物に焦点を当て、料理でその人の心を動かすと仲間になってくれるシステムが面白い。
システムを確立しているのでストーリーが分かりやすく、途中からでも追いやすい。
また、この方式なら各話に波乱や山場を設定できて、見ていて飽きない。
全身全霊をかけた料理で頑なな心をこじ開ける展開は、視聴者にカタルシスをもたらしてくれる。
それでいて中心人物を毎回変えることで、ストーリーにバリエーションがある。
料理人、見習い、パティシエ、ソムリエ、給仕人、食料生産者、フーディー、あるいは彼らを取り巻く家族。
立場も世代も性別も異なる人々、それぞれの目線から多角的に「料理において大切なこと」が描かれていく。
1話ずつ仲間が増え、グランメゾン東京の布陣が完成していく流れは、店の成長を分かりやすく見せてくれた。
しかも、話は単に心強い仲間が増えるにとどまらない。
新たな人物との関わりで「大切なこと」に気づき、元々いたメンバーも成長していく。
この成長が全話を貫く背骨となり、『グランメゾン東京』が連続ドラマである意義を生み出していた。
②ライバルの意外な手助け
最大のライバル・gakuのふたりも良いキャラだった。
カリスマで努力家、プライドの高い料理人の丹後。
彼は決して卑怯な真似はしない。
「ウニ出とるやないかい!」でおなじみのオーナー江藤。
彼は勝利のためなら手段を選ばない。
コンビが正反対の性格なのが良い。
しかも、ずっと憎らしかった江藤が前話で「最高の一皿を生み出すにはどうしても金が必要。三ツ星を取れば客は金を惜しまなくなり、シェフは最高の一皿を追究できる」と彼なりの信念を示した。
その次の最終回、三ツ星を求めるあまり強硬策に出て全てを失った江藤が、「以前全てを失ったときに手を差し伸べた」丹後に救われるのが最高にエモい。
自分の因果で絶望に落とされた人間が、自分の行為に手を差し伸べられる。
再び丹後とタッグを組んだ江藤は、相変わらず手段を選ばない。
猟師・峰岸のもとにいくらでも通いつめていくらでも土下座するし、グランメゾン東京の助けでも受け入れて利用する。
彼の性情は変わらないまま、プラスの方面に発揮されている。
江藤の本質は卑怯さや駆け引きではなく、「目的のためならプライドを捨てられ、どんな努力でもしてみせる」ところにあることが表現されている。
江藤に救われて江藤を救った丹後が、自分たちを救ったグランメゾン東京の窮地に駆けつけるのも格好良い。
人間の義理堅さに対するポジティブな信頼は、視聴者の気分を晴らしてくれた。
余談ですがこのドラマ、『食を愛する者は敵であろうがどんだけブチ切れていようが料理を無駄にしない』が貫かれてて面白い。
だからソムリエの栞奈は病原体を混入できなかったし、リンダも出された料理は必ず味わう。
江藤の場合、結月に店をめちゃくちゃにされてワインボトルを叩きつけようとする→「一番高いワインやないかい……」でやめる流れ。
ワインを無駄にできない料理愛を描きつつ、値段を気にする江藤のセコさも表れていて、コミカルな良いシーンだった。
③カリスマの力を借りずに栄光を掴む
尾花がマグロにかかりきりだったため、それ以外のメンバーでフルコースを作り上げ、最後は早見シェフのマハタで勝負したところにグッときた。
尾花夏樹と関わる中で、どのメンバーも大切なことを見つけ、自分なりの料理を追究してきた。
メンバーの中でも最も成長したのが早見倫子シェフだ。
そんな彼らが作り上げたフルコースで、早見シェフが「自分の料理で行く」と決断したメニューで、見事三ツ星を勝ち取る展開が最高だった。
しかも「尾花の料理ではなく自分の料理で行く」は1話目で早見シェフが挑戦して失敗した選択だ。
その選択を最終回に持ってきて、今度は見事栄光を手にするのが粋。
彼女の料理人としての成長、徹底的な追究に裏打ちされた自信をひしひしと感じた。
カリスマに振り回されながら大事なものを得て成長してきた人々が、最後はカリスマに頼らずに最高の結果を残す。
王道の展開を、完成された最良の形で提供する手腕。
ドラマ『グランメゾン東京』自体が、完璧なフルコースのようだった。
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