ひとさまのエモを言語化する企画《エモソムリエ05 tofubeats『衣替え』》

こんにちは。カニ @uminosachi_uni です。

ひとさまのエモを言語化する企画《エモソムリエ》は、みなさまから「言葉にできないけどエモい!」お題を投げていただき、カニが代わりに「なぜエモいのか?」を考えて解説してみる企画です。

第5弾は、《tofubeats 『衣替え』》です。

投稿の内容&リンク

この曲の中で、「毎日見ている景色には飽きても何にも変わらない 明かりを消したら目の前が誰かもすっかり分からない」というフレーズがあるのですが、初めて聴いた時からエモというか、ノスタルジックというか、何とも形容出来ない気持ちが溢れてきてしまいます。
全体的に歌詞は明るくはないのですが、(メロディのおかげもあるかもしれませんが)かと言って悲壮感みたいなものは感じられず、淡々と生活をしていることを受け入れて、自分自身や日々の生活をまるごと愛している感じがします。

歌詞のリンク→ http://sp.utamap.com/showkasi.php?surl=k-140430-071

MVも送っていただきました。落ち着いた丁寧な手触りのメロディが、すごくよかった……これ聴きながら寝たい。やさしくまどろみたい。

なかなか自分の中で言語化出来なかったので、お手すきでしたらよろしくお願い致します。カニさんのブログいつも楽しみにしています。RADIOFISHとても良曲が多くてファンになりました……!これからもブログ楽しみにしています。

RADIOFISH聴いてくれてるの嬉しすぎる……! こちらこそ、とても素敵な曲を教えていただいてありがとうございます。

ではベストを尽くして、なぜエモいのか考えてみたいと思います。

tofubeats『衣替え』はなぜエモいのか

このエモさは、エモソムリエ史上(まだ第5弾)いちばん言語化が難しい気がする。なんていうかすごく透明で、輪郭のあわい情趣……

MV見ながら考えてたくさんメモ録って、収録されてる『First Album』の前後のトラックも探して聴いて……ってしてたらいつの間にかアルバムを買ってた! 何この誘引力……

力がおよぶかわからないけど、出来うる限り感じたことを言葉にしてみます。


①どんどん深まって溢れる余白

この曲の歌詞のすごいところは、余白を作って聴き手に委ねてくれるところ。何があったのかどんな光景なのか、直接語られてはいない事柄が、イメージのピースになって頭の中に降り注いでくる。
作者はたぶん、聴き手の想像力をとても信頼してくれてる。


楽しい想像をしようと 思って立ち上がるけど
うう まだ

これだけで、この人にあった出来事を想像してしまう。この人の気持ちを思ってしまう。切り替えようと心がけて、それでもまだ沈みがちな心境に共感してしまう。

ゲシュタルト心理学みたい……(わかりにくい比喩)


他にも心を動かされた歌詞がある。

遊びに行って忘れよう
友達は誘ってくれるよ

この「は」、すごく良くないですか? わかってもらえるでしょうか。「が」ではないのよ。助詞の選択が天才……

例えば「象は鼻が長い」というとき、焦点は象に当たっている。その背景には(象ほど鼻の長くない)ほかの動物たちの存在が感じられる。

友達は、という言い回しにそれ以外の誰かの影を見てしまった。

友達は誘ってくれるのにうまく乗り気になれない自分、という含みなのかもしれないし、
きっともう誘ってはくれない誰かのことが胸によぎったのかもしれない。そんな想像が沸いてしまった。

参考:「は」と「が」の使い分けについて→ http://www.nkc.u-tokyo.ac.jp/study_info/study_info01_04_j.html


もうひとつ、余白を感じた歌詞があった。

明かりを消したら目の前が
誰かもすっかりわからない

投稿者さんもここのフレーズを挙げてくれていた。
日常の映像と心情のオーバーラップも素晴らしいけど、ここではまず「誰か」という歌詞に注目したい。

明かりを消したら目の前が、と来たら普通、「何か」もわからない、と続く気がする。
どうして「誰か」にしたんだろう……と考えると、いろんな想像がめぐった。

勝手な解釈だけど。もしかしたら以前は、明かりを消して目を閉じても、目の前に存在を感じられた「誰か」がいたのかな。

それがどんな人だったのかはまったくわからない(家族かも恋人かもしれない、もしかしたら愛するペットかもしれない)。
けど確かに、「誰か」の不在を強く感じた。


②歌詞とタイトルとMVが重なり合ってつくるイメージ

「オシャレ着をおろしてさ」「整理整頓をしよう 身の回りのことから」
気持ちを変えようとする様子を、洋服で表現するのが素敵だと思った。確かに、服装ってアイデンティティや思い出と強く結び付いている。

こんまりでよく「今はもう着られないのに、昔好きだった服を捨てられない」っていうのあるじゃないですか。あれって、昔好きだった服が単なる装飾品を超えて、『昔の自分』とか『大事にしていた思い出』の一部だからだと思う。

だから反対に、新しいオシャレ着でちょっと違う自分になってみたり、思い出のある服を手放すことで過去を少しずつ手放すこともできるんだと思った。そうやって自分の機嫌を自分で取ろうとしているのがすごくえらいな……。


タイトルになっている衣替えという行為も、いろいろ考えさせる。

衣替えは外因に誘発されるけど、自発的な行為でもある。
季節の変化に合わせてするものだけど、別に「衣替えの日」が決まってるわけじゃない。各々が自分のタイミングで、必要だと考えてする。早すぎて季節が盛り返して悔やむこともあれば、遅すぎて何を着るか途方にくれたりもする。

恋が終わることも関係が変わってしまうことも、時間が移ろえば防げない。外因だ。でも、その思い出にずっと浸っているか、あるいは忘れるか、自分で選ぶことができる。

ただ、切り替えようと決めても、どうしようもなく思い出してしまう日もある。それでも自分で変わっていこうとする。

そういう情緒が、生活の行為である「衣替え」とオーバーラップして、とても鮮やかに感じられた。


MVも素晴らしくて、どうしようもなく心に沁みて、何度も見ていた。

ひとつひとつ丁寧にたたまれていく洋服。一歩一歩いつもと変わらない日常を送ることで、こつこつと生活を整えていく感じ。思い出をひとつひとつしまっていくようにも思えた。

よく慣れた動作の美しさに焦点を合わせてるのも良い。生活の所作への敬意を感じる。自身や生活を愛している感じは、これらの要素からくるのかな。
まさに、投稿者さんが言ってくれた、これだと思う。

淡々と生活をしていることを受け入れて、自分自身や日々の生活をまるごと愛している感じ

なんかこの表現自体がすごくエモいな……ありがとう……


③変わることと変わらないこと

この曲は、変わらないものの中で変わっていくことを見つける感覚がすごく鋭い。微妙に交ざりあう「同じ」と「違う」を鮮やかに見分けて見抜いている。
例えば以下の部分。

毎日出かける旅にまた 出かけてどこにも帰らない
毎日見ている景色には 飽きても何にも変わらない

毎日繰り返すいつもの生活は、変わらないものの代表。でも時間は進んでいくから、何もかもが実はゆっくりと、必然的に変わっている。

思い出を忘れる。自分自身が変わっていくから、大事なものも変わっていく。自分の居場所も、「誰か」との関係も。過去の日々はもう帰らない。

その機微が、ノスタルジーを呼ぶのだと思う。


MVのラストも、「同じ」と「違う」の使い分けが見事。
メインパートに出てくる店員さんとは違う人(もしかしたら彼がtofubeatsさん?)が、同じく洋服をたたむ。

同じ「服をたたむ」行為でも、洋服の種類によってひとつひとつたたみ方が違うことや、同じ行為を違う人がする表現に、色んな感覚を抱いた。

同じような日々でも、実はひとつひとつ異なっている個別性とか。異なる人生を歩む人が、実は同じ体験や気持ちを共有している普遍性とか。

音楽を聴いて歌詞に心を動かされるのも、その人にしか書けない言葉があって、でも同時に人生や言葉に普遍性があるからじゃないか。そんなことを考えながら『衣替え』を聴いて、心底ああエモいな、と思った。


さいごに

リフレインする「昨日」もすごくいいなと思ったんですけど、3点におさまりきらなかった。

それと『First Album』での前後の曲、『way to yamate』と『ひとり』を聴いて感じたことだけど、
tofubeatsさんはきっとそんなにうまくはいかない日々を、それでも愛して寄り添って前に進んでいくんだなと思った。そこがすごく好きでした。

ありがとうございました。自分だけでは出会えなかっただろう魅力的な曲を知れて、しかも深く読み込むチャンスがもらえて、とても幸せでした。

今回は分析というより、自分が受けたイメージや感傷を言葉で整理した感じになりました。いかがでしょうか……


あなたのエモを募集中

お読みいただきありがとうございました。こんな感じでよければ、ぜひあなたのエモを送ってください。

「エモソムリエ」企画では、あなたの言葉にできない、誰かに言語化してほしいエモを募集中です。

こんなときにおすすめ
「好きなアーティストの新曲のここがエモい、でも言葉にできない!」
「友達に推しの良さをプレゼンしたいけど、いい表現が思いつかない!」
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