見出し画像

匙投げ小説執筆法 5.人称と視点

5.人称と視点

一人称(私は、僕は、俺は、吾輩は)、二人称(君は、あなたは、おまえは、貴様は)、三人称(彼は、彼女は、警官は、スティーヴは)……と3種類の人称がありますが、小説において二人称は特殊なので、ここでは一人称と三人称のみをあつかいます。

一人称で書く場合、語り口はキャラの知性と性格に大きく左右されます。キャラの知覚できるもの、目に映るものしか描写できませんから、視点キャラの外見・表情・服装は鏡やショーウィンドウなどに映すか、他のキャラが言及しないと書けません。もし主人公の一視点で通すなら、できるだけ伝聞報告や又聞きの入りこまない素材を選ぶことです。極力、主人公を事件の当事者か目撃者にするのです。伝聞は事件の迫力を殺ぎます。ただし、類似シーンの反復になるなら、あとのシーンは伝聞報告でもOKです。キャラの心情や体感を描写できますが、あまりにも自分語りばかりさせると、ナルシスティックなキャラだと読者にあきれられてしまいます。一番の特質は、(作者ではなく)キャラの事実誤認や嘘が許されることです。これはミステリなどのミスディレクションに使えます。

三人称には主観の三人称と、客観の三人称、そして全知の三人称(神の視点)があります。

主観の三人称は、スティーヴは……というのを、僕は……に置換しても通用する書き方です。一人称同様、スティーヴの外見や表情は鏡にでも映さないかぎり描写できません。ただし、物語冒頭の数行だけは主人公の外見を客観的に描写しても、それ以降は主人公の主観的視点に徹するのであれば、慣例的に許されます。一人称とちがい、キャラの来歴や心情を詳しく語ってもナルシズムには陥りません。主人公の一視点で通すなら、やはり又聞きの少ない題材を選ぶ必要があります。一人称との大きな差は、嘘が許されず、読者にフェアな文章が求められる点です。

客観の三人称は、スティーヴの外見・表情・行動をひたすら外側から描写する書き方です。キャラの見た目は描写しやすい反面、その心情や体感は、読者が推測しやすい客観的かつ映像的描写で見せなくてはなりません。ともすればキャラの言動ばかりの淡々としたものに堕しやすく、中上級者向けといえそうです。利点としては、視点キャラが知らないことを地の文で書くことができます。こちらも文章のフェアさが求められます。

主観の三人称と客観の三人称は、それほど厳密に分けられず混用されがちです。それは構わないのですが、キャラの心情をきっちり描くべきときに、キャラの外見を描写するだけでお茶を濁していては上達は望めません。

多視点で書く場合、主人公は主観の三人称(あるいは一人称)、そのほかの視点キャラは客観の三人称……などと使い分けることで読者に主人公への感情移入を促すことも可能です。

全知の三人称(神の視点)は、なんでもありです。スティーヴの心情も、アンナの生い立ちも、電脳都市の歴史も未来も、神(作者)の知っていることであれば、なんでも書けます。しかし、制約がないことで、逆に高度なカメラワークが要求される、上級者向けの視点です。正直、私は書ける気がしません。

執筆に慣れないうちは、1〜3人までの視点を一人称か三人称で書いてみることをおすすめします。視点キャラが増えすぎると、物語の焦点がぶれてしまいます。人称と視点は、構想の段階でよく検討してください。かくいう私は、執筆途中であわてて人称を変更しているクチです。実際に書いてみないとわからないうちは初心者なのでしょうね。

次、6.シーンの区切り方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?