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書評『玩物双紙』

・初出2013年「宝島」書評

 時代小説と歴史小説の違いをご存知だろうか。
 時代小説は、主に江戸時代を舞台に書かれた小説のことで、歴史小説は史実にもとづいて創作された小説のことである。僕はあえてこの二つのジャンルを読まないようにして生きてきた。理由は、ハマるとキリがなさそうだからである。岡本綺堂、池波正太郎、山本周五郎、司馬遼太郎、柴田錬三郎、名だたる有名作家がひしめくこのジャンルは、一歩足を踏み入れたら最後、その魅力にからめとられて抜け出せなくなる魔窟のような場所に思えた。しかし……四〇歳近くなると、同時代の作家たちが書き始めるのだ。時代小説や歴史小説を……。慣れ親しんだあの作家やこの作家が、僕が読まないと決めていたジャンルの傑作をものすのを見ていると、さすがにこれは読まねばということになる。
 で、今回の『玩物双紙』である。
 作者の新城カズマは。ライトノベルからSFまで幅広い知識と作風によって知られる衒学的作家。本作の二ヶ月前に戦後時代の鹿児島を舞台にした歴史小説『島津戦記』を上梓。「銀」の流通によって世界がつながった一七世紀を舞台に、世界経済のなかで重要な役割を担っていた島津藩を描く。『玩物双紙』はこの『島津戦記』と対をなす作品だが、注目すべきはその語り手。なんと、人間ではなく、茶器や城郭、貴金属などといった「モノ」なのである。果たして「モノ」から見た戦国時代とは? ただの歴史小説ではない。僕のように歴史小説を敬遠している人も、禁を破って読む価値あり。


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