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書評『デブを捨てに』

・初出2015年「宝島」
・装丁の絵がサイコー
・いつもの平山さんです

 人はなぜホラー映画を見るのだろう。
 恐怖という感情はどちらかというと喜ばしいものではない。にもかかわらず、わざわざ怖いものを見る。遊園地しかり、コントロールされた恐怖というのは一種の娯楽だ。
 平山夢明を読むとき、ぼくはこの後者の恐怖を求めている。
 しかし……今回の作品は恐怖を通り越して完全に笑いの境地に達した。
 タイトルがまず『デブを捨てに』だ。デブが微笑む装画も最低である。収録されている4つの短編も最低だ。

 枯れ葉と犬のウンコを大麻と称して売る親子(「いんちき小僧」)、後先考えず犬のように子供を産む大家族の生態(「マミーボコボコ」)、カツラの風俗嬢と元人殺しの切ない人生の物語(「顔が不自由で素敵な売女」)、そしてパルプノワールとドヤ街テイストをドブでミックスした表題作。

 どれも現在の日本を代表する最低最悪の素晴らしい作品であり、今すぐ全国の小学校図書館に寄贈したいほどである。
 九〇年代、バッドテイストブームが流行したあの時代にあの文化を愛していた人の多くは暇人やインテリ、ちょっと特別な自分になりたい人だった。
 守られた「悪趣味」とは裏を返せば、「いい趣味」なのだ。だが、彼らが「本当のフリークスの憎悪や悲しみを感じていないからだめだ!」などという批判ほど的外れなものはない。
 バッドテイストを娯楽として消費する最低の人間こそ、最も人間的かもしれないのだから。
 クズが小賢しくクズを理解しようとするような態度こそもっとも唾棄すべきものだ。
 これを読みクソのまま生きて死ね、人類。

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