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白い床ぽつりとたれて林檎の花

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■2020/05/05 火

現在明け方の3時。い草のにおいがする新しい仕事場でこれを書いている。六畳一間の和室、ユニットバスつき。月23000円、敷金礼金なし。初期費用は10万円ほど。自宅から自転車で5分くらいのところだ。2日に荷物を運び込んで、何度か使ってみたが、すでに引っ越したい気分になっている。
原因は生活音と雰囲気だ。古いので思ったより雰囲気が悪い。中途半端に古いアパートに夜いると滅入る……いっそ完全に和風ならいいのだが、このくらいの半端さが一番きつい。そういえばサラリーマン時代、鬱になったとき住んでいた家に似ている。それを思い出してますます気分が滅入る。
物件は鉄骨なのだが、古いせいでよくギシギシ鳴るし下の住人がトイレを流したり風呂に入るとわりとうるさい。逆にいえばこちらの音も聞こえているわけで、気になる。あと、西日がすごい。熊本の夏の陽光はつよすぎて、夜になっても昼の暑さがおさまらない。
この住居は外気がダイレクトに入ってくるので、昼は熱くて夜は寒い。極端なのである。
まあ仕事するだけだからいいか……とも思うのだけれど、ぼくは仕事をしはじめると生活がめちゃくちゃになって、とにかく睡眠時間が乱れる。だからいつでも静かに眠れる場所が重要なのである。この物件は天井が低い。自分の足下一メートルくらいのところにデリカシーのないおっさんがいて生活音を立てていると思うと、なんだかイライラする。
と、ここまで書いて、これは本当の問題じゃないことをぼくは知っている。
このイライラは、お金をけちって安い物件を借りて失敗してしまった自分に対する自己嫌悪からきている。家にいると仕事ができないというのにしても、それは言い訳だ。本当は仕事から逃げているだけ。妻にそれを指摘されると腹が立つが、実際はそうだ。彼女はとても正しい。しかし、その正しさに息苦しさや怒りを覚えている自分がいる。もちろんそれは稚拙な怒りであることもわかっている。家にあまりいたくないがために逃げ込んだ仕事場の居心地が悪く、家にいないといけないというストレスはまるで思春期の自分が戻ってきたようで、自虐的なノスタルジーを感じている。

そんなわけでまた部屋を探しはじめたのだが、おなじことを繰り返さないために、まずはどういう物件を選んだらいいのか調べてみた。木造、鉄骨はだいたいだめだ。せめてRC、さらに部屋と部屋の仕切りが石膏ボードではなくてコンクリ。この条件がベストのようだ。要するに分譲マンションなのだ。東京なら一〇万くらいするが、そこは地方都市、調べてみるとワンルームなら月3万円くらいでありそうだ。
しかし、いますぐに引っ越すとなると違約金が発生してしまい25000円を払わねばならない。安物買いの銭失いとはまさにこのこと。

しばらく文句を言いながらここを使ってみるしかないらしい。しかし、この文句をたらたら言っていることもまた自己嫌悪につながる。あまり文句を言わず機嫌良く生きていくことを心がけているのに、うまくいかないときは、なにもかもが良くないことに思えて、自分を見失う。

本をよむ。

前作、

もそうだったけれど、文章を書く以前に、文章における自意識との距離感や間合いのとりかたが上手。揺れる舟にのっている自分を陸から見ているような視点って大事だよなあ。
二〇代のころによく読んでいたある純文学作家が「恥を知る」ということをしきりに書いていた。それはつまり、自意識との距離の話でもある。これをつかむのが下手な人は、文章がうまくてもどこか嘘くさい。この本の文章にはそういうのがない。これは文体や技術とは別の問題とは思われがちだけれど、実は不可分で、技術をつきつめると自分に向き合うことになるし、自分に向き合うと技術に向き合うことになる。
二人の小学生の描写や、家族のことなど、なかに入らないとわからない空気がまるごと真空パックされているような本だった。

明け方ねむいけれど仕事場で眠りたくないので、自宅へ帰って寝る。

15時半くらいに目が覚める。半端な時間に寝たので睡眠がおかしい。暑い……。
近所の競輪場の駐車場でドライブスルー弁当フェアをやっているらしくて、散歩がてら家族で行ってみる。900円の肉弁当を買った。角切りにしたステーキと米がまぶしてあるだけの豪快な弁当。とにかく肉とガーリックの味しかしない。良い気分転換になった。

ゲーム、


130ループをこえた。1時間でなんとか2つほどアンロックして、残るアンロックは六個くらいなんだけど、これがめんどくさい……。でもさいごまでやるんだろうなあ。15分程度で終わるからまだ許せる。このリズムは大切だ。

夜中に仕事場で仕事をすすめる。そろそろディスクロニアを再起動させねば。
その前に一本終わらせて明日からの再起動準備を。


■2020/05/06 水

こないだ出たラジオを聞いていて、なんとなく反省点があった。
ぼくは生活者としての立場から発言すべきだったのではないか。もちろん小説も書いているけれど、それよりもあの場ではぼくが一番リアルに生活者の実感を持っていたはずなのだ(先月の収入は3万円)。正直、政府とかこの状況に怒りを覚えているし、上から目線で分析するような既得権益をもっている人たちにもイラついている。「こちとらサラリーマンじゃねえんだよ!」と言うべきだったのではないか。
感情が議論の場で強い力を持つことは決して褒められたことではない。それでもそういう言葉を持たない、議論できない人がぼくのなかにいて、いまだにそっちのほうがぼくにとってはリアルだ。そういうリアルさと、冷静さのバランス感覚を備えた言葉。それがうまく出てくればいいのだけれど、どうしても中途半端に賢いくせにあっさりポピュリズムにも騙される自分がいて、賢くやるより転がりながら修正していくことしかできない。

monokakiの連載原稿を仕上げる。


このコーナーは、相談をくれた方ひとりに向けて書くので、「○○を教えてください」ということにストレートに答えるのではなく、その人にとって本当に必要で最良と思われるアドバイスになっている。結果的に質問に答えていないことが多いんで、もしストレートに聞きたいときは「○○を教えてください!」でお願いします……!

6月刊行の「パパいや、めろん」あとがきを加筆。

本をよむ、


やっと読み終える。
政治とカルチャーの距離感についてはわりと考えているんだけれど、それが時代のせいなのか、ぼく自身の年齢のせいなのかいまひとつわからない。
いつだって政治は行われているし、ティーンがそれに興味を持たないのもいつものことで、そうすると当たり前のようにユースカルチャーから政治性が抜け落ちてしまう。それでもやはり時代の空気はそこに反映される。この「空気」は政治よりも上位でも下位でもなく、すべてが並列に混ぜ合わされている上で醸成されたもので、その液体のなかに濃淡があらわれる。
面白い部分もあったけどまったくわからない部分もあって、珍しくその振れ幅がでかい本だった。

■2020/05/07 木


コロナのせいで時間がとまっている気がする。なにかをやらないといけない時期なのに、なにひとつできないもどかしさ。胸のあたりがずっとざわざわしていて、夜もうまく眠れない。怒りといらだち。

妻と口論になる。ささいなことなので忘れてしまったが、そういうことが口論になるきっかけなのだ。

世の中では、自分の非を認め、まるくなることが人間的成長だと言われているのだが、それは相手と友好関係を築いて共存するという前提に立っている。ぼくは共存する必要はないと思う。分断されたまま、うまく交わらずに生きていくほうがよほど双方にとって幸せだ。
努力して人と理解しあう、「理解」という言葉の意味がよくわからない。理解なんてできるものだろうか。「理解」とは一種の宗教みたいなもので、そういった世界観が好きな人のための物語ではないか。
とはいえ、妻のほうが自分よりも遥かに「理解」を信じていないドライな人間で、それはそれで人間を信じろと言いたくなるので、結局のところ自分はつごうのいい他人しか求めていないのだなと思いますます滅入る。

むかし、ある先輩が「喧嘩することでしかコミュニケーションがとれない人間がいる。そしてそういうやつは喧嘩してコミュニケーションがとれたと勘違いする」とよく言っていた。他人事みたいに言ってたけど、彼がまさにそういうタイプでとにかく喧嘩しかしていなくて、挑発的なことしか言わなかった。亡くなる前はかなり丸くなっていたけれど。今度は自分がそういう人間になってきていて、ああ、そういうコミュニケーションってなにかの情報爆発というか、プロトコルをこえて伝わってしまうからやっかいなんだな。ということを実感する。

■2020/05/08 金

夜中にチャルメラの音が聞こえたのでラーメンを買いに行く。マンションを出て音を頼りに走って行くと道路脇を徐行するライトバンを見つけた。「くるまラーメン」というド直球の名前。聞けば、菊地あたりから来ているという。昼は店舗、週末は市内をまわるのだという。600円のラーメンの味は……とんこつ醤油はどれもおなじに思えて良くわからない。



現代のロンドン、ブリストルが舞台のグラフィティもの。電撃文庫の受賞作には珍しい不思議なバランスの作品。次の書評でとりあげることに。


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