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書評『担当の夜』

・初出2013年「宝島」書評
・実在する某漫画家の元担当者が書いた小説
・胃が痛くなる……

 スランプに陥った映画監督の現実逃避妄想を映画にした映画、といえばフェデリコ・フェリーニの「8 1/2」だが、「ジャンル自体をテーマにした作品」が現れるのは、そのジャンルがある程度成熟した証である。

 どんなジャンルでも最初期は新作、傑作がどんどん作られる。やがてその模倣作品が現れ、最終的にパロディやジャンル自体の批判に至り、歴史が語られるようになる。
 近年「マンガをテーマにしたマンガ」が多く描かれるようになったのはそういうことだ。
 筆頭としては『まんが道』、『サルでも描けるまんが教室』などが思い浮かぶが、最近の作品数はすごい。
 漫画家を題材にした『描かないマンガ家』『俺はまだ本気出してないだけ』『バクマン』。かつての巨匠たちの在りし日を描く『ブラック・ジャック創作秘話』『アオイホノオ』『激マン』『藤子不二雄物語』などなど。
 そして、ジャンルが成熟すると別のジャンルにまでそれが飛び火する。
 今月紹介する『担当の夜』は、そんなマンガ業界にいた編集者の手による、担当編集と作家の愛憎小説である。ここに描かれた漫画家たちのキャラクターは強烈だ。はっきり言って作家である僕は、この本を読んでみぞおちがキリキリした。売れるためにエロに命をかける作家、売れなくなった巨匠、才能のない口だけの作家、作家より個性的な編集者……どのジャンルにも同じような人がいるものだ。身につまされつつ、気を引き締めさせられる一冊。しかし、元マンガ編集なのに、この人、小説が巧い……。


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