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書評『僕は愛を証明しようと思う』

・初出2015「宝島」
・デートDVやないかという女子からのツッコミがよくある

 スタティカル・アービトラージ戦略、タイムコンソトレイントメソッド、フェーズシフトルーティーン……この単語は金融用語でも格ゲーの技名でもない、「恋愛工学」のテクニックである。
 恋愛工学となにか?
 それは男の欲望を実現するための秘密のテクノロジー……要するにナンパ理論だ。本書はそのテクニックを使って、一人の男が人生を変えていく姿を描いた小説である。恋愛工学は実際に使える技術であり、ネット上では様々な人が日々恋愛工学を実践している……らしい。まるでファイトクラブのようなわくわくする話ではある。
 実用書として使えるかどうかはともかく、気になったのはこの小説が村上春樹のパロディであるという事実だ。主人公はワタナベくんで、最後に出会う女性が直子(両方とも「ノルウェイの森」の登場人物)。ラストでグーグルマップを見せるシーンは、よく自分がどこにいるのかわからなくなる春樹小説の主人公に対する皮肉か。
「ここのピザはおいしい?」
「うん、おいしいよ」
「へえ、おいしいんだ。じゃあ、僕もピザにする」
 これは主人公がバックトラックとイエスセットというテクニックを使っているときの会話だが……春樹っぽい。この事実はつまり、恋愛工学を用いれば期せずして春樹風の小説が書けてしまうということに他ならない。
 この本が愛を証明しているかはともかく、村上春樹が優れた恋愛工学の(無意識的)実践者であることを証明した点は非常に面白かった。

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